エヴァの物語4

 父さんは、毎週、クリニックが休診日の前日には、以前働いていたメディカルセンターへ当直に行く。

 僕は幼い頃、朝早く帰ってきて、昼間に寝ているという父さんの仕事がよくわからなかった。

 

 その日も僕らは寝室のそばから追い出されて、

「静かにね。父さんを寝かせてあげて」

 そう母さんに言われたけど、僕はそーっと戻って、寝室をのぞいた。

 父さんがよく僕にやるみたいに、寝ている父さんの額に触れた。

「父さん、病気? 具合悪いの?」

 父さんは半分目を開けた。

「ああ、エヴァ。違うよ。心配してくれたんだね」

 僕の頭に手を置くと

「ちゃんと話してなかったね。もし、エヴァが夜中にとっても具合が悪くなって、でも病院がもう閉まってたら、どうする?」

 僕は考えた。

「うーん。困る」

「うん、困るし、心配だよね。僕は、夜中に病気になった子供達をているんだよ。昨日の夜も、エヴァが眠ってる間、ずっとお仕事してた。だから、今、とっても眠い。寝かせてくれるかな」

「うん、わかった。おやすみ、父さん」

 僕が言い終わらないうちに、目を閉じた父さんは、もう寝息をたてていた。

 いつでもどこでもすぐ寝てしまうのは、父さんの特技だと思う。


 僕が部屋を出ると、ノヴァがそこにいて、ふくれていた。

「エヴァ、ずるい! 父さんとお話しして。今、お部屋に入ったらいけないのに!」

 僕は人差し指を口に当てて、ノヴァを黙らせると、腕をとり、ふたりで急いでそこから離れた。


 穏やかに話してくれた父さんの声を、僕はよく覚えてる。


 

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