エヴァの物語5

「エヴァ、そろそろ起きて支度しないと」

 耳元で母さんの声がした。

「う〜ん。母さん、あと少し……」

 ベッドの中でまどろんだまま、そう言いかけて、

(違う……! これはノヴァだ!)僕は飛び起きた。

 ノヴァが、母さんの声マネをしたのだ。


「わーい、やった! だまされた〜!」

 嬉しそうに笑いながら、部屋を出て逃げていくノヴァの背中に向かって、

「勝手に部屋に入るな!」

 言葉を投げつけたとき、カーテンが開けられた。

「おはよう。やっと起きたか」

 その声に僕はふりかえった。

「……おはよう、ラディおじさん」


 頭の上にポンと手が置かれ、髪をぐしゃぐしゃにしたあと、さりげなく頬に触って、僕の体調を確認したのがわかった。なかなか起きてこないから、熱でもあるんじゃないかと心配で見に来てくれたのだろう。ノヴァが一緒なのは余計だけど。


「そういう寝起きの顔、ディープそっくりだね」

 笑ってそう言うけど、僕はそう言われてもあまり嬉しくない。

「早く支度して、おいで。みんな待ってるから」

「はい」


 僕がリビングに行くと、みんなそろっていた。

「おはよう、父さん、母さん」

「おはよう、エヴァ。あまり時間がないけど、何か食べなくていいの?」

 母さんが言った。

「うん、いらない」

「エヴァ、おはよう。ちょっとおいで」

 コーヒーを飲んでいた父さんは僕を呼んで、曲がったタイを直してくれた。

「さて、準備できたら、そろそろ出かけようか」

 父さんは立ち上がり、カップを片付けて、言った。

「エヴァ、車の中でこれだけでも飲みなさい」

 母さんがお手製の栄養ドリンクの入ったタンブラーを渡してくれた。

「ありがとう、母さん」


 僕は、1年に1度、みんなが集まるこの日が……苦手だ。


 

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