第18話 とある迷宮にて
「げっ、げえーっ……」
朝から何も食べてなかったから当然何にも出てはこない。でも気持ち悪い……。
「干し肉いるか?」
「いいえ、結構です」
転移した先は真っ暗な洞窟の中のようだった。どうも穴の中に
「ここはどこなんですか?」
「大丈夫なのかヒロト? ここは『忘れられた迷宮』。地底深くまで何百階層もあるとされる通常は人が立ち入ることのない場所だよ。女神レティシアと我々くらいしか知らないかな」
ここは迷宮。つまりダンジョンだとシファさんが言う。
「こういった場所って冒険者なんかが攻略するものじゃないんですか? 放っておいたら魔物が
「何を言ってるんだ? 魔物が迷宮の外に出ることなど歴史上確認されたことはないぞ。迷宮はただ人間が引き寄せられるのを待っている、そういう存在だ。花に
なるほど、良くは分からないがそういうものなのか。
「でも、魔王討伐でしょ。魔王って大陸北部の
俺はキノ爺から教わった知識を思い出す。
「そうよヒロト君。かつて魔王はノルトラインの魔王城にいたわよ。ここにはいないし、もうこの大陸のどこにもいないのよ」
「えっ!? 魔王がいないって」
「詳しいことは私も知らないけど、それが事実よ」
「でも鮫島たちは魔王討伐に向かったって……」
「そうよね。普通に考えたらこんな地下深くに魔王が住んでるわけないわよね。どういう解釈したのかしらアイツら。まっ、お馬鹿さんたちで助かるけども」
「アリシア様、連中は地下97階に到達したようです」
シファさんが手元の黒い金属板を見ながらそういう。
「すげえな、これまでの勇者君たちの最高記録達成だぜ。性格はアレだが能力はピカイチだな。
ダグラスさんが驚いたというような顔をして言う。
「どういうことなのか理解できないんですけど……」
「まあ、細かいことは気にすんな。そろそろ連中も弱ってる頃だ。行くぞ!」
その声に三人は奥へと歩き出す。俺も置いていかれないようついていく。
「ヒロト君、次はこの魔法陣に乗るのよ。大丈夫だって。こんなのあと何回か経験すれば慣れちゃうから」
魔法陣を前に
転移した先では鮫島たちが必死に化け物と戦っているのが見えた。デカい。牛頭人身のアレはミノタウロスって奴に違いない。巨大な斧を振り回している。
「下田は右、葛野は左に回り込め! 同時に【ブレイブスラッシュ】を叩き込むぞ!」
三人の防具はこの階層に到達するまでに損傷したのか、この化け物によるものなのかは分からないが数多くの死線を潜り抜けてきたことを伝えている。きっと女神特製のステータス表示にはすごい数字が並んでいることだろう。動きも前に見たゴブリンの巣の時とは比べものにならない。
三方向から同時にミノタウロスへと強力な光の斬撃が放たれた。全身が聖属性の淡い光につつまれた三人の姿は悔しいがカッコよく見えてしまう。
「どうだ? やったか」
剣を振り抜いた鮫島が振り返り呟く。斬撃の衝撃波によるものか
「鮫島君、あ、あれは!」
「ぐへっ!」
葛野が吹き飛んだ。続いて下田が地面に踏みつけられる。
「た、助けて……」
「こ、こんなの無理だろ……。すまんお前ら」
後ずさる鮫島。見捨てて逃げるつもりか、コイツらしいといえばそうなんだけど。
「おっ、剣聖! 魔法使いに聖女も……。助かった。おい、お前ら俺たちを助けろ!」
振り返った俺たちに気づき叫ぶ鮫島。
「へえ。お前が俺を頼るのか。だが、言葉遣いがなってねえなあ。それじゃやる気でねえな。なあみんな見捨てて帰ろうぜ」
「あ、ああ……。け、剣聖様、助けてください」
ほとんど泣き顔だ。これは良いものが見れた。
「ふーん。助けてやろうかな」
鼻歌まじりに歩き出すダグラスさん。
「嘘だけど」
いつの間にか抜き放たれた剣を再び鞘へと戻す。
「ぐがっ!?」
鮫島の両脚から血が噴き出す。
「痛い、痛いよお。な、なんで?」
その場に倒れる。必死に起き上がろうとしているのだろうが、ただ
「さあな? じゃあ、よろしくな!」
ダグラスさんがそう言うとミノタウロスは足元の下田を担ぎ上げる。続いて壁際で気を失っている葛野を回収。最後に鮫島の頭を掴むと引き摺って通路の奥へ行ってしまった。
何? 何が起きているんだ?
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