第17話 魔王討伐へ出発よ!
結局、鮫島たちはゴブリンキングのことは最後までしらばっくれていたらしい。そのキングはツムトによっておそらく食べられてしまったので証拠もない。アリシア様が駆けつけた時にはすべてが終わっており、俺の説明にも半信半疑のようであった。念のため例のゴブリンの巣があった場所は入り口が埋められ、何重にも封印結界が張られたらしい。
さらに連中はあの後騒ぎを起こしたらしく、すべての娼館への出入り禁止が国から命じられた。見張りつきで外出も禁じられ王城から一歩も出られなかった。それが明けるのが今日である。
「気分が乗らないんですけど」
「それは私も同様だ。
「それ以上は言わなくてもいいです。大体想像がつきます。はあ……」
「アイツらは女の敵だ。勇者でなければナニを切り落としているところだ!」
もうやめて。アイツらの
「でも、女神様の呼び出しなんて久しぶりじゃないですか?」
「ああ、先にダグラスも向こうに行っているしな。全員の召集も珍しい」
俺は
「おう、ヒロト。待ってたぜ」
「こらっ、ダグラス! 女神様の
飛びついてくるアリシア様を抱きとめる。女神様の前だって言ってなかったっけ? ダグラスさんも
「アリシア様、勇者
「うん? なんか張り切っちゃってて。もう、魔王討伐へ出発したわよ」
「は、はあ……」
今度はシファさんが呆れ顔だ。
「それではアリシア任せたぞ」
女神様が席を立つ。
「はい、承知してますよー。この私に任せておきなさい」
女神レティシアが部屋を出て行きホッとする。だが、魔王討伐って……。
「あ、あの……」
「ん? ヒロト君はなーんにも心配する必要はないからねー。この私に全部お任せでいいからね。私たちの出発は明日でいいかな。シファ、準備よろしくねっ!」
「はい。いつものように」
この状況にシファさんは文句もないようだ。ダグラスさんもウンウンと頷いている。えっと……、何だかピクニックにでも出かける調子だ。これでいいのなら俺も別にいいのだけど。
雲ひとつない快晴だ。まさに遠足日和。いや、魔王討伐日和なのか? 先頭にアリシア様。続いてダグラスさんとシファさんがやる気のない感じで続く。俺はその後に。たしか荷物持ちをするはずなのだが、不思議なことに手ぶらである。きっとあれだ、マジックバッグとか空間収納とかのトンデモアイテムやら超級魔法みたいなものでもあるのだろう。
「あー、
「そんなの我慢してください。いつものように日帰りなんですから、何にも持ってきてませんよ」
「えーっ、おやつの準備とかお願いしたじゃないの」
「そうでしたか?」
「姫様。干し肉ならあるぞ、食うか?」
「ダグラス、そんな塩辛いもの食べたら
何だコレ?
「あ、あの……。魔王討伐ですよね……」
「ん? あ、ああ。そうよ、魔王討伐だったわね。あっ、あそこよ。ヒロト君あそこに
そうアリシア様は言うと俺の手をとって走り出す。
「え、えっ?」
たしかに初めて見るすごいものだった。
「ジャーン! 転移魔法陣でーす!」
祠に掛けられた封印を彼女が解くと地下への階段が、一緒に中に入るとそこは薄暗い空間。地面には薄ら青白く光る魔法陣があった。やっぱりこの世界にあるんですね。
「あ、ああ」
「どう? 驚いたでしょ。どういう仕組みなのか、もはや誰も知る者もいないという失われた古代魔法技術の産物よ。これに乗ってひとっ飛びなのです!」
「ひとっ飛びって。これ本当に大丈夫なんですか?」
「もちろんよ。私たち何度もこれで移動してるし」
「何度もですか」
「ええ、何度もね」
知識としては俺も知ってはいるが、さすがに自分がこの上に立つことになろうとは……。理屈も科学的な裏付けも不明なそれはちょっと怖いものがある。
「さあさあ行きましょ」
アリシア様に背中を押されてその上に立つ。ダグラスさんがニヤニヤしている。
「ヒロト、初めてだろ。慣れないとたぶん
くちゃくちゃと干し肉を口の中に入れたダグラスさんがそう言う。酔うの? 乗り物酔いみたいな……。
「では起動しますよ」
シファさんが地面に手をつく。魔力を流し込んでいるようだ。そっか勝手に転移するわけじゃないんだな。
「お、おっ、ああっ!?」
「魔王討伐へ出発よ!」
視界が
それが人生初めての俺の転移魔法による移動だった。
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