第15話 小鬼の王②
「これは……」
最悪だ。アリシア様に言われた通りすぐに引き返すべきだったのだ。いつもこうだ、こんなことに巻き込まれてしまう。一瞬キングが俺を見たような気がした。きっと
「ぐあっ!」
残念なことに、鮫島は驚異的な反射神経で背にまわした光の剣でそれを受けた。俺の目の前まで吹き飛ばされる。死んでおけばいいものを……。
「奴隷か。アリシアは? 糞っ、いねえのか。使えねえな……、まあいい」
「ぐはっ!」
鮫島の拳が俺の腹にめり込む。こ、呼吸ができない……。こいつボロボロで死にかけじゃ無かったのか?
「下田、葛野! このままじゃ俺たちもやべえ。こいつを使って脱出するぞ、時間稼ぎにはなるだろう」
鮫島は俺を軽々と持ち上げるとゴブリンキングに向けて投げつけた。
おいおい、そんなんで時間稼ぎになるかよ! 俺にはキングに真っ二つに両断される未来しか思い浮かばなかった。ああ人ってこんなに簡単に飛んでいくもんなんだな……。
「げほっ!」
俺はただの肉塊になることは無かったようだ。背中から地面に落ちた。打ちつけられたお陰なのか呼吸はできるようになった。
「はあはあ……」
だが仰向けになった俺の視界の先には、見下ろしているゴブリンキングの
「ん?」
キングは一向に動く気配がない。それどころか
俺のトモダチが……。
『ヒロト、アソンデル。ジブンダケ、ズルイ。ツムトモアソブノ……』
「いや、遊んでいるわけじゃないんだけど」
『アソブ、ナイ? ツムト、ザンネン。ヒロト、アレ、オデニクレル?』
アレってキングのことだろうか? いや貰ってくれるのならそれに越したことは無いのだがツムトまで死なれては困る。
「ああ。でもアレはヤバいって。ツムト、俺のことはいいから逃げろよ」
『ニゲル? オデ、アソブ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイーーーーッ!』
「ツムト!」
ピョンピョン楽しげに跳ねて行くツムト。小鬼の王は無茶苦茶に剣を振り回す。あれは恐怖を感じているというのか?
高速移動を繰り返しこの場からの離脱を試みるキング。ツムトはその動きについていっている。いや、キングの身体がブレて消え、移動し現れる前にそこにツムトはいる。動きの速さもそうだが、思考を読んでいるというのか……。
『オマエ、ノロイ。ツムト、ツマラナイ……。ダカラ、【我の
一瞬、世界が闇に呑まれた気がした。よく分からない不安、恐怖、絶望、そんな言葉にならない感覚が一瞬あったような……。ツムトの声も途中から消えて聞こえなかった。
『グヘエ……。アレ、オオキナゴブリンダッタ。ツムト、タベチャッタ。マズイマズイゴブリン、タベチャッタ。ヤバイノコト、オボエタ。ヤバイ、ヤバイ、ゴブリン、ヤバイ』
フラフラとげんなりした感じで浮かぶ黒い毛玉さんは、俺の服のポケットへと帰還する。
「ツムト、君は何者なんだ……」
「ヒロト君。気がついた?」
ポケットの中ですやすや眠るツムトを眺めていたら俺も眠たくなって……。洞窟の地面の上で眠ってしまっていたようだ。目の前に俺を
「あれ?」
「こ、これは治療のために致し方なく……。魔法でちょっと動けなくしています。あと数分で動けるようになりますよ。私、ヒロト君が怪我をしていたらと心配で隅々まで……。コホン、少し打撲の跡がありましたからちゃんと治療しておきましたよ」
そうか、そう言えば腹も背中も痛くない気がする。ありがたい。でもなぜアリシア様のお顔が赤い?
「アリシア様、お風邪でもひかれましたか? ここは冷えます。すぐに出ましょう」
身体の自由が戻ったので起き上がる俺。
「そ、そうですね。こ、コホン……。これは風邪をひいてしまったかもしれません。早く帰ってヒロト君に看病してもらわなければ、わ、私は死んでしまうかもしれません。い、急ぎましょう!」
いや、風邪で人は死なないと思いますけど……。まさかアリシア様はその様子と違って不治の病を抱えておられるとか?
「アリシア様、俺に何か隠していませんか? お役には立てないかもしれませんが、相談くらいなら、いや話し相手くらいには……」
「はっ!? い、いいえ隠し事なんて……。ちょっと好奇心で覗いたくらいで……」
「何ですか? よく聞こえません」
「い、いいのです! 行きますよ、ヒロト君!」
俺はアリシア様に手を引かれてゴブリンの巣だった洞窟を出たのだった。
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