第14話 小鬼の王①
「オラオラオラァーーーーッ!」
鮫島の光を帯びたロングソードがゴブリンたちを切り刻んでいく。
「へへっ、逃さないぜ」
「俺はこっちのを
下田と葛野が戦意を失って逃げようとする残りの魔物を狩っていく。
「お見事でございます勇者様方。あらかた外に出てきたゴブリンは
そう笑顔でヤツらを褒め
アリシア様の仰るように鮫島たちの成長速度は異常だった。剣技だけでなく魔法も上級まで使いこなせるようになったらしい。それを見て冒険者ギルドから国へ応援要請のあった『大規模なゴブリンの巣の
「この依頼を片づければ、俺たちは晴れて勇者として認められるんだな」
「そうでございます、鮫島様。通常このような国への応援依頼は軍を動かして行うもの。それを勇者様たちだけで成し遂げたとなれば、皆そのお力を認めにわけにはいかないでしょう」
「よし、下田、葛野行くぞ! とっとと片づけて娼館で遊ぶぞ。今日は貸し切りだぜ! おい奴隷、お前は街に戻って手配しておけ」
鮫島はそう俺に言い放つと手下の二人を連れて洞窟の中へ入っていった。奴隷って……。一応これでも従者の資格は得てるんだけどな。まあ、奴隷だと言われればそうなんだけど。
「はあ……」
三人が中へ消えていくのを確認するとアリシア様もため息をつく。
娼館の手配は既に済ましてある。どんなお貴族様だってその日のうちに貸し切りだなんて話が通る筈が無い。娼館の営業は国が厳しく管理している。性犯罪抑止のガス抜きの仕組みとして国に守られている事業と言っても良い。そこから得られる莫大な税収のお陰もあるのだが、働いている女性たちへの待遇は悪くないし、高級店の女性は地方の役人の収入くらいなら優に超える。
俺がアリシア様の
「アリシア様、ツムトを出してもいいですか?」
「あ、そうね。いいわよ」
「よし、ツムト出ておいで。食事の時間だよ」
外はアリシア様とツムトに任せて、俺は耳の回収のために洞窟へと入っていく。転がるゴブリンたちの死体。淡々と俺は作業をしながら進んでいく。この回収した耳の売却金は俺への手当てにまわされる。だから真面目にやらねば。毎月アリシア様の従者としてお給金が国から支払われることになっているらしいが、お金はあるに越したことはない。
「なんかこの洞窟って落ち着くな」
つい独り言が出る。あの坑道のことが自然と思い出される。キノ爺たちは元気だろうか……。以前までの俺はこいつらとそんなに変わらなかった気がする。
「いや、なに同情してんだ。こいつら、こいつらのせいで……」
急に胸の奥から湧き上がってきた黒い感情と記憶。気がつけばその頭部はグチャグチャに潰れてしまっていた。
「予備の解体ナイフはあったっけ。ああ、良かった……」
何事も無かったように俺は先へと進む。どれだけ広いんだよこの巣。耳で一杯になった麻袋をその場に置きさらに奥へと歩いて行く。アリシア様からは袋が一杯になったら戻ってくるように言われていたのだが、俺はこの洞窟の先のことが気になって仕方が無かった。どうせ鮫島たちと合流したところでロクなことはないのだが、俺の足は自然と奥へと向けられる。途中からゴブリンの死体が見えなくなる。全滅したのだろうか、それにしても鮫島たちにはまだ追いつかない。
「声か?」
やっと追いついたようだ。だがその声の様子がおかしい。
「狙え、奴の脚を狙って動きを止めるんだ!」
「や、やってますって!」
「剣が通らねえぞ!」
「魔法が、け、消し飛んだ。どうしたらいいんだよぉ……」
何を相手にしているんだ!? 血まみれで戦う三人。吹き飛ばされては立ち上がり、また吹き飛ばされ洞窟の壁に身体がめり込んでいる。女神様の加護により異常な再生能力を持つ彼ら。しかし血まで再生するわけではなく徐々に動きが悪くなっていくのが俺にも見て分かる。鮫島の『光の剣』も下田と葛野の『聖なる魔法』もあの魔物には通用していない。
「キング……、ゴブリンキングなのか?」
前世のゲーム知識ではなく、この世界の存在としてキノ爺に教えてもらったことがある。ゴブリンの変異種、上位種のようなものは大昔
だがキノ爺は言っていた。ゴブリンキングだけは実際に存在すると。
頭に小さな王冠をのせた巨漢のゴブリン。あまりにも巨大な大剣を軽々と振り回し、その肌は竜種の鱗にも匹敵し騎士の斬撃、宮廷魔法使いの魔法ですら通用しない。そんなふざけた化け物。それが目の前に居た。
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