第11話 新居の改装です
『兄ちゃん、ライ兄ちゃん?』
「ああ、どうしたんだ? 腹でも減ったか」
『ううん、違うよ。お腹はいつもペコペコだったけど、いまは何か大丈夫みたい』
「そうか、それは良かった」
『兄ちゃん、遊ぼっ!』
『ずるい、私もお兄ちゃんと遊ぶの』
「みんなで仲良く遊ぼうな。じゃ、何しようか? 鬼ごっこか、隠れんぼ、おままごとでもいいぞ」
『やった! 時間はいっぱいあるからね』
ああ、夢か……。
天窓からうっすらと光が差し込んでいる。なんだろ、カンカンという何かを叩くような音が聞こえる。
『ヒロト、オキタ。オデ、マッテタ』
ツムトがふわふわ浮かんでいる。
「おはよう、ツムト」
『オハ、ヨウ?』
「朝のあいさつだよ」
『オハヨウ、アイサツ。オハヨウ、オハヨウ、オデ、オボエタ』
「偉いなツムト。お前は賢い毛玉だ」
『オデ、カシコイ。デモ、ケダマ、チガウ。オデ……、オデ? ヒロト、オデハ、ナニ?』
「そう言われてもな……。俺にも分からないし。いいんだよ、ツムトはツムトだ。俺の友達だ」
『ソウ! オデ、ヒロトノ、トモダチ。トモダチ!』
ツムトは嬉しそうに部屋の中を飛び回る。
俺はベッドから出ると、音の正体を確かめるために扉を開ける。
すると、アンナさんがいた。広い空間には様々な形の木材や工具があり、小柄な
「アンナさん、彼らはもしかしてドワーフさん?」
「あら、起きられたのですね。おはようございます、ヒロト様」
「おはよう」
『オハヨウ!』
ツムトも俺の真似をして元気に
「おはようございます。ツムト様」
「彼らは私が連れてきた一流の職人たちです。きっと、人語を解する謎の毛玉を前にしても、動じることなく
再び、トントン、カンカンと
『オデ、ケダマ、チガウ。ヒロトノトモダチ!』
「これは失礼いたしました、ツムト様」
ペコリと頭を下げるアンナさん。
「ひゃっ!」
顔を上げたアンナさんの胸の谷間にツムトが収まった。
『オデ、ココガ、イイ』
目を細めているツムト。そうかそうか、そこは柔らかくて暖かそうだな。俺と代わってくれないだろうか?
「ただいま私たちのお部屋を作っているところですにゃ」
ツムトを気にせず、俺の疑問に答えるアンナさん。
「おう、ヒロト。なんか俺もここに住めるって聞いてさ」
ダグラスさんが顔を出す。
「ダグラス、なにを見ているにゃ?」
「いや、違う。誤解だ。そのモフモフが珍しくって、胸を見ていたわけでは……、ぐはっ!」
アンナさんの後ろ回し蹴りが、ダグラスさんの顔面にヒットした。ああ、剣聖様が倒れた。もしかしてアンナさんが一番強いとか。
「見過ぎなのにゃ! 次またそんな視線を送ったら、アリシア様に言いつけますにゃ!」
「いや、またさらに大きくなったんじゃないかって、つい……。姫様には内緒でお願いします!」
ダグラスさんはひたすら
「これはダグラスではないか、貴様も来ていたとはな。やはり、剣聖であっても新しい家は気になるか。だが、なぜ『土下座ポーズ』をしているのだ? まるで異世界人のようだぞ」
シファさんもやって来た。一瞬誰か分からなかった。長い髪は綺麗に編み込まれていてお
「貧乳のお前には関係のないことだ。これはアンナちゃんの聖なる
シファさんの蹴りが顔面に入った。
「昨日、私はかたちの良さをアンナから褒めてもらったのだ。大きさが全てでは無いのだよ。分かるかねダグラス君!」
さらにシファさんは、グリグリと足の裏で踏みつけている。これから同居人となる女子たちは、おっかないということを事前に知ることができた。ありがとうダグラスさん、あなたの死は無駄にしない。
「おい、ヒロト。何見てるんだよ。こういう時は同じ男としてフォローするとかだな、うおっ!」
ダグラスさんはシファさんの
「ヒロト、ダグラスは剣は一流だが、それ以外に見習うべきものはない。気をつけるんだぞ」
「でも、シファ。ヒロト様に魔法を教えるならまだ後のはずなの。先にダグラスが剣の指導をする予定なのにゃ」
「ああ、分かっている。朝一で再び大神殿の
「お、おい。前の儀式は半年前だろ。ちょっとペースが早過ぎないか?」
何事も無かったかのようにダグラスさんが、アンナさんの隣に立っていた。いつの間に……。でも顔が痛々しい、イケメンが残念なことになっている。
「儀式って何ですか?」
「大きな声では言えないのだが、『
おいおい、そんなド定番、いつの時代のラノベだよ。だが、リアルに見ることができるのならもちろん興味がある。ダグラスさんの言い方だと半年前にもあったようだ。だが、俺がこっちの世界で異世界の人間が来ていることを感じたのは、昨日のシファさんのクラッカーくらいだ。スラムや鉱山では話に上がらないだけで、大きな街とかでは異世界の文化が流入しているのだろうか。
「では、ヒロトは連れていくぞ。うん? アンナ、そのふわふわした生き物は何だ?」
「この子は、ヒロト様のお友達のツムト様ですにゃ」
アンナさんの胸の谷間から、ツムトはシファさんを見つめている。
『オデ、エルフ、タベル、ナイ。エルフ、ダイジナイキモノ、タベル、ダメ!』
珍しく、ツムトが自分で食べないと言っている。エルフとは何かあるのだろうか?
「おおっ、もしや! いや、そんなはずは……」
シファさんがツムトを見て驚くが、様子がおかしい。
「アンナ、そのツムト様は預かっていてくれ。大神殿には連れて行かない方がいいかもしれない。ヒロト、それでいいな」
「あっ、はい。ツムトはお留守番だ。アンナさんと一緒にいい子にしていてくれるかな?」
『ウン! ツムト、イイコ。オルスバン、スル。アンナトイッショ』
分かってくれたようだ。でも、どうしてだろう? 魔物は神聖な場所だから駄目だということだろうか。
暇になったダグラスさんは俺のベッドで寝るらしい。どんだけ寝るのが好きなんだこの人。
「じゃあ、行こうかヒロト」
俺はシファさんの後について行くことにした。
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