第10話 俺の住まい
残念エルフさんが、俺の額に手を当てている。ほっそりとした指とひんやりと感じる手のひら。残念な感じなのにシファさんの手は指先まで美しかった。いかん、何かドキドキしてきた。この右手だけでも持って帰りたいかも。いや、それはホラーだ。
「動かないでくれるか? 君を調べているんだ。これには相当の集中力と魔力操作が必要なんだ」
「は、はい。すいません……」
ええっと、手の冷たい人は心が温かいんだっけ。外国のことわざが元だとか前世で塾の先生がいってたな。Cold hands, warm heart. 愛の激しい熱が心の方に
「んー、何かあるな。だがよく分からない。ヒロト、上着を脱いでくれ」
「えっ?」
理由を聞こうとしたが、その前にアンナさんに脱がされてしまう。
「シファがこういう顔してるときは、何か発見したときなの。おかしな行動にもきっと意味があるはずなのにゃ」
「後ろを向いてくれるか? 私も少し恥ずかしいのでな」
シファさんと反対側を向く。なんだ? スルスルと布の
「し、シファ何してるにゃ!?」
「あっ!?」
アンナさんが慌てた声を上げると同時に、後ろから俺は抱きしめられた。背中に温かく柔らかい肌の感触。これはシファさんの胸か? 彼女のお胸が背中に。
「すまない。肌の接触面を増やすことで私からの魔力の通りが良くなると思ったのだ。うん、ようやく見えてきたぞ。ああ、これは……、なんてことだ……。動かないでくれ。頼む、もう少し君の中を
耳元で熱い
しばらくすると彼女は離れた。まだ背中には
「意外に君の身体は
「それは当然なの。アンナも巻き添えで死にたくないのにゃ。でもシファ……」
思い切って振り返ってみたが、シファさんはもう服を着ていた。
「えっと、な、何か分かったんでしょうか?」
何か恥ずかしくて、シファさんの目を見れない。
「ああ、心当たりがある。それをはっきりさせるために、私はこれから文献を調べに行ってくるよ。詳しくは明日だな、また同じ時間に顔を出して欲しい」
「は、はい!」
シファさんにまた会える。それが俺にはただ
「ここが、ヒロト様の住まいにゃ」
「俺の?」
アンナさんに最後につれてこられたのは、お城の最北にある古い建物だった。
「今は使われていない
「今の女神様?」
「詳しいことは私からは言えないの。国家機密なのにゃ」
女神レティシア様がこの世界の神様だというのは俺でも知っている。小さい頃育った村でもレティシア様の像をありがたく皆拝んでいた。スラムの住人でさえ苦しいときにはレティシア様に祈る。年に一度民衆の前にお姿を見せられることから、実在する女神様である。その前の神様って……。
「そんなヤバい場所に?」
「それは一部の王族しかしらないの。ここはアリシア様の所有する建物だから問題無いにゃ」
中に入ると何もない広い空間があるだけだった。もともとあった物はすべて取り払われているようだ。アンナさんが奥にある扉を開けて、照明の魔道具を操作するとベッドや机もあるのが分かった。
「アンナが掃除したの。大変だったのにゃ」
「俺なんかのために、ありがとうございます」
「アリシア様はヒロト様と自分のお部屋で一緒に暮らすおつもりだったのだけど、許可されなかったのにゃ」
「そ、それはそうでしょ」
お姫様と最底辺のガキが同じ空気を吸うのも
「アンナさん、お城の使用人が住む部屋とかもあるんじゃないですか?」
「うーん。アリシア様には専属の使用人はいないの。私もヒロト様も
「客人?」
アンナさんによると、アリシア様の持つ強大な聖女の力に対しての恐れから、正式な配下を持たされていないらしい。女神レティシア様により世界の安定のために聖女として動いている彼女の影響力は大きく、彼女の派閥のようなものを作らせない目的らしい。まあ、彼女の魔力に当てられて普通の人間では仕事にならないということもある。
この城では、ダグラスさんとシファさんもアリシア様の客人である。ぐうたら剣聖と変人エルフ、獣人の侍女にスラム出の従者である俺、この四人が言ってみれば彼女の取り巻きである。城の人間たちからは距離を置かれている存在が俺たちであるらしい。しかし、女神様の
「あと、ここは改装して私たちも住むことになっているの。ダグラスもシファもお城の外から通ってたけど、これで楽になるのにゃ」
「そうなんですか、それは良かったです。一人じゃ不安だと思ってたんですよ」
鉱山では大部屋で
「食事は自分で作れるかにゃ?」
アンナさんが食材の保存場所を教えてくれる。調理に使う火の扱いなども聞いた。多分何とかなると思う。アリシア様は女神様の関係のお仕事でしばらく城に戻られないらしい。それまで俺はダグラスさんとシファさんに剣と魔法を教わることになっているようだ。
アンナさんが行ってしまうと、俺はひとりになった。いや、ツムトがいるな。
ポケットの中を覗くと、すやすや眠っている。ずっと眠っているようだ。俺は起こさないようにツムトを取り出すとベッドの上にそって置いた。何か今日はいろいろあり過ぎて疲れた。俺は魔道具の照明を落とし、そのままツムトの隣に横になって目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます