第18話 神の使いのお使い
一週間後、手紙が届いた。
小さな子狐が持ってきたそれは神使会からだった。
手紙の内容は、きり宛てに神使会・入会のお誘いと、私宛にご訪問のお伺いだった。
とりあえず子狐をモフり回し、いなり寿司を食べさせて帰してやった。
こちらはいつでもヒマだ。
『日程は神使会のみなさんのご都合に合わせておいでください』という伝言をきりに直接伝えに行かせることにした。
「きり、神使会のお誘いはおまえの好きにしていいんだよ。
でもね、きりと対等に付き合える知り合いとか、色々な繋がりができるかもしれないから悪い話じゃないと思う。
私はオススメするな」
「そうですか。こちらも忙しいので、神使会でなにか仕事とか増えるのが心配なんですけど」
「大丈夫よ。そのときは私も手伝うからね。外の世界と繋がれるのはいいことだよ」
そう言ってきりを送り出したが、出発は夕方だったのでとても不安だった。
「それでは街に行ってきます!」
人姿のきりが元気よく社を出て行った。
街の稲荷は住宅街に呑み込まれていて、少し入り組んだ場所にある。
地図を読めないきりには、曲がり角何個目を右、左とラリーのコマ図のようなものを私が作ってやった。
コマ図を読みながらのため、今回は人の姿なのだ。今風の若い娘のね。
少し後からそっと狛犬が出て行ったのを見届けて、私と山神様はお茶を飲みながら待つことにした。
「山神様、あの、教えてください」
「なんじゃ?」
「私、以前山神様から神威を譲り受けましたよね。それで
譲り受け方法を思い出して私は顔が紅潮した。
「うむ。わしの神階より上になったのじゃ。おぬしのポテンシャルじゃの」
「そんなのがあるかはわかりませんけれど。
神階が上がるとなにかできることが増えたりするのですか?」
「無論じゃ。今回の提携話もその効果じゃろう」
「そうなんですか? どうして」
「わしが持っていた六つの神威、憑依、豊穣、提携、吸収、解呪、
「ちょっ、もう一度言ってください」
「憑依、豊乳、提携、吸収、解呪、変化じゃ。提携の神威はおぬしの神威が上がったことで、範囲が広がり周りが気づいたのじゃろう」
ぐぬぬ、山神、わざと間違えたな。
「ただ、吸収の神威も強い力を持っておる。あのキツネ程度であれば末社に加えることも可能であったろう」
「相手を子会社化するみたいな力なんですね」
「うむ。しかし、稲荷はウカ様の社じゃ。手を出すことは己の首を絞める」
「ウカノミタマの神って豊穣の神でやさしくて美人なイメージしかないですけどねぇ」
「美人じゃぞ。母性もあり神々にはモテモテという噂じゃな。しかし、あの女神はとてつもなく強い。
天孫族の侵攻後に生まれた神じゃが、父親がブトー様なのじゃ」
「ブトー様って強いってことですか?」
「ブトー様は最高神ヒルメの弟じゃ。ヒルメとそりが合わずに高天原を下った。
そして国津神と交わり、ブトー様の子らは国津神に味方しておる」
「ヒルメ様って、私を神にしてくれた神様だけど、最高神?
その話、物語で聞いたことあるんだけど。
ヒルメ様は最高神アマテラス様で、ブトー様が弟ってことは、スサノオノミコト!
どーしよ、私、アマテラス様にとんでもない事をガクブル。
それにしても神話の神様ってまだいるんですね」
神様の名前は沢山ある。日本神話の最高神、
その中のひとつにヒルメという名前があったようだ。
あの神は豊葦原に下った後、色々な場所に行って正体を隠し、子作りをしたおかげで伝わっている名前がたくさんある。
私が知っている変な名前代表は蘇民将来の伝説に残る
蘇民将来さんちに泊めてもらった浮浪者のような武塔神は、お礼に茅の輪を入り口に付けた。
そして泊めてくれなかった村人を皆殺しにした。
正体はスサノオだったという狂気の神話が印象深い。
目印が無いと恩人すら分からなくなってしまう二面性も怖い。
「神は永遠じゃからな。この国は神の体により造られておる。
そこで生まれた氏子は神の子じゃ。それがいる限り神は消えはせん」
山神様から伝えられた真実に私は愕然としていた。
神様なんて比喩みたいなものじゃなかったのか?
そりゃ、私が死んだのにこうしていられるのは神様のおかげだけど。
どこかの神が私を神様にしてくれたのだろうと、すんなり信じたのは物語の転生モノを知っていたからであって、いくらなんでも有名すぎる日本神話の神々に出会うとは。
私はお茶を一気に飲み干して心を落ち着かせた。
「神様の世界やばいです」
「そうじゃな。とくに天孫族はわしの連れ合いを討った出雲族すら支配した。
やつらの力は計り知れないが、神威はどちらの神にも共通しておる。
神階もそうじゃ。おぬしが賜った正五位上は並の天津神より位が上じゃ」
「ということは、私に神階が追い越された天津神の恨みを買ってそうですよね」
「そんなことは気にするな。神階は高天原からのお墨付きじゃ」
なんとなく神の世界が分かってきた。
ある程度の社員(氏子)が増えると株式会社化して合併や併合を繰り返し、大企業になっていくようなものなのではないか。
私の心に会社員時代のもやっとしたものを感じた。
もちろん人間社会に神を当てはめるのは違うかもしれないけれどね。
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