第16話 山神様消失? そして現在
メガソーラーの開発業者は、やはり暴力団のフロント企業だった。
現場に残された実行犯が数人逮捕された直後、その会社は解散し全貌がわからないまま捜査は打ち切られてしまったようだ。
怪しい業者を呼び込んだ責任を問われた村長は辞職し、奥さんにこっぴどく叱られて家に引きこもっている。
奥さんいわく、バチが当たったんだと。
鏡石はいくつか穴を開けられてしまったけれど、御山の発掘調査をした結果、全体が古代の石組みに覆われていることが判明した。
青山君と教授の記者会見後、発掘調査現場が公開され、テレビ局や見物人が殺到した。
御山は県の重要文化財に指定された。
遺跡の保存を兼ねて、頂上まで行ける登山道も整備され、神社の境内で休憩する人々の姿が見られるようになった。
鏡石はピラミッドの太陽石と同じような意味をもっている可能性もあり、近く村に博物館を建てて公開するそうだ。
「はぁぁぁぁ、新しい社は気持ちいいねぇ」
総ヒノキ造りに建て替えられた社の綺麗な床を撫でながら、私ときりは座って境内を眺めていた。
村長を引き継いだ前村長の奥さんが、県から補助金を獲得し、拝殿の建て替えをおこなったのだ。
工事中、私ときりは村長宅の客間に移動された祭壇と共に引っ越していた。
豪華な供え物とお神酒で喰っちゃ寝し、酔っ払い生活を満喫した。
拝殿の建て替え工事の前に夢で宮司に告げたとおり、鳥居に掲げられている社号額には『白蛇山神社』の文字が彫り込まれている。
完成した真新しいヒノキの社、白く塗り替えられた鳥居は、名前の通り山の景色に白く浮かび上がり、とても美しい風景を作り出していた。
「獅子と狛犬も綺麗になって良かったねぇ」
あの子達は平安時代の石像だったらしく、かなり貴重なのだそうだ。
宮大工が再利用しようとして苔を落としたら判明したのだ。
「我らは貴重とかそういうもんじゃありませんぜ」
獅子が獣姿を自分の石像の前に現し、鳥居の先を警戒している。
「そうです。我らは神域の守護を担う霊獣ですからね。
石像は我ら霊獣にとって絶対必要というものでは無いのです」
「あら、そうなんだ。まぁ綺麗になったら表情がわかってかっこよくなったよ」
狛犬も姿を現したが、尻尾がブンブン振られている。
綺麗になって嬉しいようだ。
御山の遺跡見学ついでかもしれないけれど、社への参拝者が格段に増えた。
兼業だった宮司は益々忙しくなり、村に引っ越してきてくれるらしい。
「ここは発展したねぇ。でも、山神様、力を私に移したせいで消えちゃったのかな。さみしいよ」
「うむ、わしも恋しかったぞ。主に酒が」
参道から白蛇がするすると近づいてきた。
そして私の前で人の姿になった。
「なんで登山姿なんですかっ!」
「おぅ、やっと御山から離れられたのでな、奴の山に行っておった」
山神はリュックこそ担いでいなかったが、山から下りてきたばかりのハイカーにしか見えない姿をしていた。
「山奥は寒かったわい。ここは暑いのう」
山神は白のTシャツ、短パン姿になって拝殿にあがってゆく。
またノーブラだ。
「ちょっと山神様! 話を聞かせてくださいっ」
「おーおー、綺麗になっとるなぁ、よしよし、あった。酒じゃ」
いつのまにかきりが徳利や盃を三宝に載せ、私と山神様の前に並べる。
ほんとよくできた子だよぉ。
「私はとーっても心配したんですよ。山神様がいきなり消えちゃうから」
「御山から一時離れることでおぬしに権限が移るでな。
それにしても御山もずいぶん変わったのぅ。道ができておったわ」
「権限が移るってのは、全然仕組みが分かりませんけど。
御山の遺跡は異様に古いものだったらしくて、一年以上経った今も調査中なんです。
人が沢山入りましたが、地力はまったく変わっていないようで安心しました」
「うむ。御山がある限り、あの力は簡単には変わらぬよ。
奴の山もまだ数百年は人の手が入ることは無かろう。
というか、ほんっとに山奥でな、いまだ何も無い場所だとは思わんかった。
あんな場所不便すぎじゃ
わしこそ人の繁栄に染まっておったんじゃと気づかされたわ」
「でしょうね」
不便だなんだと言いながらも、愛した相手の亡骸の場所に一年もとどまっていたのだ。
彼女の心中は察するに余りある。
「さぁ、呑ませてくれぃ」
私より白く美しい太ももをがばっと開いてあぐらをかく姿は超美人なギャルにしか見えない。
きりのお酌で二柱の神は乾杯をした。
「くぅぅう、うまいのう。そうじゃ、先に言っておくが御山はおぬしの根源となった」
「はい、なんかそんな感じですね」
山神がいなくなってから、私の中に御山の大きな力と繋がりを感じていた。
「わしの住む場所が無い」
「あー、この拝殿で宜しければ移り住んではいかがですか?」
そんなことだろうと思っていた私は、移住を勧めるつもりだったのだ。
「うむ。そう言ってくれると思っておったわ」
「今夜にでも宮司さんに、私と山神様を合祀することになったって伝えますね」
私達を合祀するにあたり、宮司は夢の中で、恐る恐る神々の名前を聞いてきた。
「わらわの名はさと……、いや、
また同格にして偉大なセンパイは
昼間から酔っ払っていた山神と私が、一瞬で考えた名前だった。
こうして白蛇山神社には二柱の神が同棲することになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます