第11話 例大祭当日
そして例大祭当日。
午前中は拝殿の扉を開放し、祝詞を
続けて村の大通りではフリーマーケット、骨董市、屋台の露店が営業を開始した。
境内には仮設の神楽殿が設置され、各会場の誘導係は手の空いた村人と青年団が駆り出された。
うちの獅子と狛犬も会場警備のため見回りをしている。
彼らは相撲のような神事以外で人に危害を加えられない。
しかし、人の姿でいるときは体術による押さえ込みで相手を無力化することができる。
なんと言っても二人が人の姿になると一般人に見えない。ヤの付く自由業のヒトに見える。
犯罪抑止力になるだろう。
巫女舞は二時と六時、アイドルグループ五組のミニコンサートが巫女舞に続けておこなわれ、撮影会に人気投票、誰が言い出したのかチェキは500円だ。
明るい時間帯は細い田舎道が渋滞を起こすほどの家族連れが訪れてくれた。
陽が傾き始めると店を閉めて駆けつけてくれたスポンサーの商店主達や血気盛んな若者が増えはじめ、祭りは最高潮に盛り上がっていた。
「私らもそろそろ出ようか」
「あの、ほんとにわたしも行っていいんですか?」
「あったりまえだよ~、きりだって美味しいもの食べたいでしょ。
お祭り楽しいよぉ」
「でもこれ、重たい……」
きりにお小遣いを持たせたが、賽銭箱からへそくりしたものなので、全部百円玉で三千円だ。
「まぁ、わたしは千円札を十枚持っているからみんなで食べ歩きしても余ると思うし~」
「そんなに着服を……」
きりの姿は動きやすいようにクリーム色の柔らかそうな長袖セーターにスクールガール風のチェックミニスカート。
転んでも膝を怪我しないように茶色ロングブーツ。
私は薄手のセーターとロングスカート、白の運動靴だ。
長い黒髪は三つ編みにして一本に束ね、度の入っていない伊達めがね姿である。
知られた顔だから目立たないほうがいいのだ。
拝殿の中にすっと風が吹くと長身の女性が立っていた。
「あぇ?」
そこにはこれから野外フェスに行くぞー!!! と気合いを入れたような美女が立っていた。
動きやすさ重視なのか、デニムのダメージショートパンツから伸びる白い脚、三日月みたいなマークの有名メーカー製黒スニーカー、上半身は長袖ボトルネックのスケスケニット。
これだけ今風の服装を知っているのに、ブラジャーを着けないのが山神だ。
「あの、山神様、ここの見えちゃってるぽっち、隠せませんか」
巨乳の先をおずおずと指さして指摘する。
「何を言う。これで男どもはイチコロじゃ」
「童貞を殺すセーターじゃないんですから! お願いですからブラジャー着けてくださいよ。
目立ちすぎは困りますって。
大昔と違って記録が残っちゃいますから(Hなサイトに)」
「仕方ないのう。これで良いな」
山神が胸元を撫でると、今度はブラのラインがくっきりだ。
「もう、これでいいです」
「いょぉおし! いくぞおぬしら、屋台の中心地へ」
「巫女舞、ご覧にならないのですか?」
「昼間に上から見ていたぞ。若い娘は良い。
それより早く珍しいものを喰わんとな。なくなってしまうではないか」
「行って帰ってだと、巫女舞終わっちゃいますね」
「次のアイドルグループが見られれば良い」
(あなたに奉納する巫女舞だっていうのになぁ)
「山神様もゆかりさんもきれいだから目立ってるんだけど大丈夫かな」
「私はへーきさ。きりこそナンパされないようにね」
自分の可愛さに気がついていないきりなのであった。
山の上から露店をチェックしていたのだろう山神は、村の入り口から並んでいる店を無視して神社へ通じる道の中心部へ飛んだ。
「山神様、村の入り口にある店は見ないんですか?」
「おぬしもまだまだじゃのう。
年季が入っとる店だけあって食い物も美味いのじゃ」
この山神は祭りのプロだ。
「あ、お待ちを。お好み焼き買ってきます」
「良い腹ごしらえじゃな。わしのも頼む」
「わたしときりは半分こね。美味しいよ~」
「これ始めて見ました。はぐっ。熱っつ! おっおいひい……」
「猫には食べさせられないけど今ならなんでも大丈夫だからね」
「ゆかりさん、ほらあれ! あのでかいお兄さん」
きりがにこにこして指をさす先には屋台に頭を突っ込んで買い食いをしている大男がいる。
格闘家のような体躯をしたスーツ姿の獅子だ。
「おお、獅子もおったか。わしらは腹ごしらえが済んだら飲みに行くぞ」
「はっはいっ! お供しますっ」
子分扱いの獅子は困った顔をしながらも付き合おうとしている。
「下戸なんだからいいんだよ獅子。それよりたこ焼きおいしいかい」
「うまいっす」
ちゃんと獅子と狛犬にもお小遣いを渡してあるのだ。
「それじゃ見回りもよろしくね」
「はいっ!」
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