第10話 お祭りをやろう

 私は拝殿の上空から周りを見回した。


「上から見ると神域が広がってるのが分かるよ! もう村全体はカバーしてるみたいね」


御山から出ている光柱のきらめきが村全体に降り注いでいるのが見えていた。

少し下ったところの街にある神社の光柱も見える。


あちらはうちの光柱より細いのにきらめきが広い街全体を覆い、うちの村にも少し流れ込んでいるように見える。


「ふぅん。地力と神域ってあまり関係ないってことなのかな。

村から外にこの神域を広げることはできないのかしら。

まぁ、第二段階に進んでみよう!」


村外から人を集めるためにすることは。


――宮司よ、宮司よ。


  わらわは山の神。


  社の再生に尽力しておるな。


  おぬしの協力はとてもうれしい。


  して、まもなく山の神神社の例大祭じゃ。


  きたる11月11日の土曜日を山の神神社例大祭として祀りをおこなうのじゃ。


  人を呼び、酒を浴びるほど呑み、御山を鎮める巫女舞をおこなうが良い。


ゆめゆめうたがう……


「しょ、少々お待ちください! 恐れながら申し上げます。山の神様、このたびはご尊顔、拝謁させていただき誠にありがたきことです。


で、ですね、例大祭ってあと二ヶ月ですね」


「そうじゃ。元々の例大祭は一旦無かったこととしてわらわがそう決めた。


祀りの次第もおぬしに頼むぞ。祓詞はらえことばと御山の安全祈願祝詞のりとだけでかまわん。


費用が足りない分は街の商店街からも奉納金を集めよ。


奉納金を出した者には必ず酒を振る舞うのじゃ。


無論、お酒を飲む方のお車でのご来場は厳禁じゃぞ


屋台は神社の敷地外、少し広い通りがあったじゃろう。


そこを歩行者天国にして屋台、フリーマーケットと骨董市を展開せよ。


素人店のフリマこそ客寄せじゃ。


テキヤとの交渉は村長にまかせ、ショバ代はしっかり徴収せい」


「あ、あ、ぁはい。巫女舞の演目はどうすれば」


「二部制とせよ。一部はバイト巫女を養成し、あぁ、簡単な演目で良いぞ。


ただし、巫女舞は人集めになる。写真コンテストもおこなえ。


参加費を取るのじゃぞ。


二部は県内にそういったアイドルグループがあるであろう。


ほれ、歌を歌うグループじゃ。予算を提示して募集せい」


「私には少々荷が重い分野でございますが、山の神様の博識にいたく感銘をうけております! 

どうかこのイベント、わたくしにお任せくださいませ!」


「よろしい。なにか問題があれば拝殿で祈れ」


ゆめゆめうたがうことなかれ――


翌朝、転がるように村長の家を訪れた宮司は、村長の妻に興奮しながら昨夜のお告げを話した。


「なんてこと! 凄いじゃない! わたしも手伝うわよ。

あらまー忙しくなるわねぇ」




「予想通り村長の奥さんが噛んできたわね。これで予算不足と人集めはなんとかなりそう」


「山の神様、俺りゃあワクワクがとまりませんぜ」


「いやはや、こんなに早く祭りを実現されるとは。

新しい山の神様の力を垣間見た気がします」


獅子と狛犬は獣の姿でも分かる嬉しそうな笑顔を見せている。


「人が集まると色々トラブルもあると思うの。二人は人の姿で睨みをきかせてくれるかな」


「おまかせください!」「おまかせあれ!」


「山神様も今回のお祭りは見たこともないものになるでしょうね、ぐふふ。楽しみだわ」




 夜に日本酒を持って御山の山頂へ報告に行った。


「そうか、祭りなぞ百年ぶりじゃ。山の神、よくぞあんなやしろを盛り上げたものじゃ」


「まだ色々と動かないとなりませんけれどね。

当日は私がお迎えにあがりますよ」


「それにはおよばぬ。山から人々の動きは手に取るように分かる。

おぬしの支度が済んだ頃を見計らって降りてゆこう」


「わかりました。当日のお酒ってこのあいだみたいに減らないんですか?」


「奉納酒であれば我らが呑んだ分は減らぬよ」


「うふふー」


「わしも楽しみにしとるぞ」


お祭りのイベントなど詳しい内容も話すと、山神の声にはワクワク感が漂っていた。




「山の神様、宮司です。会場が足りません。どうしたら宜しいでしょうか」


――宮司、分校跡があるでしょ、校庭を駐車場にしていくつかの教室を控え室とか救護所にすれば良いじゃない。なんとかなるからがんばりなさい――


――村長の妻よ、分校を利用しなさい。


「山の神様! 分校? ああ! 古いですけど一度宿泊施設にしようとして失敗して、半分ぐらいの教室は使えるはずです。

神様~ありがたやありがたや~」


ほかに問題があれば宮司さんに相談して!――


その後、いやそれは神に聞く事じゃないだろっていう運営上の相談などされたが、返事をしないのも神。めんどくさいし。


着々と例大祭の準備が進んでいた。

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