第5話
「あ、光瀬君、ゲームって得意?」
ナユは急にそう聞いてきた。この質問はナユのルートの最初の好感度を上昇させるためのイベントだ。俺はナユのルートももちろんやっていたから迷わず口を開いた。
「ああ、得意だよ。」
「本当!?じゃあ今日一緒にゲーセン行こうよ。あんまゲーセン行かない人が多いんだよねー。」
「確かに高校生で一人でゲーセン行くやつって少ないからな。俺は今日用事も無いから大丈夫だぞ。一緒に遊ぶか。」
「おお!話が分かる!じゃあ今日の放課後、近くのゲーセンで集合ね!場所送りたいから連絡先教えてくれない?」
「ああ、別にいいぞ。」
そう言って俺はナユと携帯の連絡先を交換した。だが、それと同時に何か背筋が凍るような感覚がした。なんだと思って振り返ると莉愛が冷たい目で見ていた。
「ねえ……何してるの?」
いつも元気なはずの莉愛の目には輝きが残っていなかった。しまった、ゲームではヒロインと一対一の描写しかないから失念していたが、ここは現実世界、他のヒロインが来ることももちろんあるだろう。
「り、莉愛、今からナユと一緒にゲーセンでも行こうとしてたところだ。どうやらナユはゲームが好きみたいでな。」
「そ、そうだよ莉愛ちゃん。別に光瀬君を捕ろうとしてるわけじゃないんだから。」
俺が怯えながら莉愛に言うと、それと同時にナユも何故か莉愛に怯えていた。直感で分かるのだろうか。ちょっと涙目になって俺よりも怯えている。
「へえ…そう、ねえ二人とも。私もご一緒してもいいかな?」
「「も、もちろんでございます!」」
俺達のヒエラルキーが決まった瞬間であった。
◇◆◇
「いやー、光瀬君ってゲームめっちゃ上手いね!」
「ナユも中々上手いな!流石ゲーセン通い。」
「ちょっと二人とも上手すぎない?」
放課後になった後、俺達三人はいろいろなゲームをやって盛り上がっていた。
俺は前世からかなりのゲーマーなのでほとんどのゲームで勝利をおさめた。そしてナユも日常的にゲーセンに通っていると言っていた通り、普通に本気を出さないと勝てないぐらいかなりの腕前だった。一方で莉愛はあまりゲームをやらないので俺とナユの二人で教えながらやっていた。
「あ、見てあれ!可愛くない?」
急にナユがクレーンゲームの中にある大きなペンギンのぬいぐるみを指差して言った。ナユはそのままぬいぐるみに寄っていき、目を輝かせていた。
「やってみたらどうだ?」
「いやー。ウチこういうの得意じゃないんだよね。光瀬君か莉愛ちゃんってクレーンゲーム得意?」
「いや、あんま得意じゃないな。」
「私はやったことすらないや。」
「そっかー…」
「まあ一応やってみるか。」
俺はそう言ってクレーンゲームに百円を入れてクレーンを動かした。あまりやったことはないが、とりあえずぬいぐるみの頭上から狙えばいいと思い、レバーを動かした。
そしてクレーンは降りていき、ぬいぐるみを掴んで上昇したが、上昇が終わった時の衝撃でぬいぐるみがアームからバランスを崩して落ちた。その光景にあっと声をあげる前にクレーンは何故かぬいぐるみの頭にくっついているタグに引っかかった。
「「「え?」」」
そのままぬいぐるみは受け取り口に落ちていき、俺はペンギンのぬいぐるみをそこから取り出して言った。
「……なんか取れた。」
「「なんで!?」」
「まあただの偶然だよ。ほらナユ、お前にやるよ。」
「いいの?」
「まあお前が言ったからやったからな。」
そう言って俺はナユにぬいぐるみを渡した。しかし、その時俺がナユよりも身長が高いということもあって、ナユは下から受け取ることになったのだが、その時にずっと隠れていた手首が見えてしまった。
「おー。デカくてすごいモフモフしてる!ありがとう光瀬君!」
「…あ、ああ」
「ん?どうしたの?」
「いや、何でもない。」
「そういえば結構時間たっちゃったね。そろそろ私は帰るね。今日はありがとうね!」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
そのままナユはぬいぐるみを持って自分の家へ帰っていった。
「ねえ真宙、さっきのナユちゃんのアレ…」
「ああ、リストカット……だな。」
彼女はずっと楽しそうに過ごしていたが、人は見かけによらないとはよく言えたものである。
—————————————————————
真宙を真由と書いてしまいそうになる症候群。
ラブコメの主人公ってなんで妙にクレーンゲーム上手いんだろうね。
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