第4話

千華と話し終えた俺は自分の部屋でゲームを思い出しながら考えていた。


あのヒロイン達は放っておいたらゲームと同じ展開になってしまうことだろう。そして俺が主人公として生きるこの世界で目の前でヒロイン達が死ぬのを見たくもないし、絶対に阻止したい。


「とりあえず覚えられるようにノートにでも書いておくか。」


そう言って俺は淡々とノートにゲームの展開を書いていった。


・露重莉愛、主人公が他のヒロインと付き合ったことで主人公の部屋で喉を掻き切り死亡。


・光瀬千華、主人公の誕生日プレゼントを買おうと外出したところ、交通事故によって死亡。


・天王寺神楽、学校でいじめの被害者となり、最終的に転落死。


白波瀬しろはせナユ、彼氏が寝取られたことによって絶望。その数ヶ月後に首を吊って死亡。



「なんか意図せずデ○ノートみたいになってしまった。」


そんな冗談を言いながらノートを見てみても、シナリオライターがイカれていることが分かる。


「対策としては……どうすればいいんだこれ。」


トラブルを解消するためには必ず誰かのルートに進まなければいけないが、誰かのルートに進んで付き合ったら莉愛が死ぬ。そして誰かのルートに進めたとしても他のヒロインの死亡フラグも同時並行で壊すしかない。


「この中で俺ができるのは……誰とも付き合わないまま、ヒロイン全員のルートを進むこと…なのか?」


ゲームでは一人しか選べなかったヒロイン達も現実世界のこの世界では複数人選べる。それでどんな未来になるのかは分からないが、ヒロイン達を救えるならやる価値はあるだろう。


「死亡イベントの時系列としては、最初に白波瀬、その次に千華、そして最後に天王寺か…そして莉愛が分からねえ…」


莉愛は主人公が付き合っているのを見て絶望していたのだが、他のヒロインのルートを進んでいっても大丈夫なのかが心配だ。やっぱり全員のルートを進んで好感度を保つしかないな。


「とりあえず、俺が一番最初にやるのは白波瀬の攻略だな。」


この世界ではまだ会っていないが、別にストーリー上に異常はない。何をするか決めた俺はノートを誰にも見られないように隠し、ベッドの上で休むのだった。






◇◆◇


「学校2日目だねー。真宙はどう?これから楽しみ?」


「ああ、もちろん楽しみだよ。」


俺はまた莉愛と話しながら教室に入った。莉愛はそのまま自分の席に荷物を下ろして俺の所へ話に来ようとしたが、途中で複数のクラスメイトに囲まれて少し困惑している。


主人公への想いが強すぎるだけで莉愛は容姿も良いし明るい性格をしているので結構他人に好かれるほうである。


「あ、光瀬さん。おはようございます。」


「おはよう、天王寺さん。」


俺は隣の席の天王寺さんに挨拶すると、天王寺さんは俺に向かって薄く微笑んだ。元の世界からの推しというのは目の保養であることに間違いない。思わず固まっていると、後ろから女の子が移動してきてぶつかってしまった。


「あ、ごめん!」


「いや、大丈夫だよ。」


俺にぶつかって来たは白髪に青い目をした外国人のような少女だった。


「あ、君、光瀬君…だっけ?君と露重さんって面白そうだったけど昨日話せなかったから気になってたんだー!これからよろしくね!」


「そうなんだ、ありがとうね。こちらこそよろしくね白波瀬さん。」


「お、ウチの苗字覚えてくれてんだ!でもウチの苗字長いから、ナユで良いよ!」


そう言ってナユは明るい笑顔を俺に向けていた。


この時俺は知らなかった。彼女の手元、萌え袖のように袖を長くして隠している彼女の手首には無数の切り傷があることに。


ゲームではただ一枚絵として存在していただけの彼女もこの世界では、その裏にはしっかりと絶望の証を刻んでいた。






—————————————————————

原作パートという名目で登場人物を殺せるじゃん!という思いつきで作った本作も多くの人に読んでもらえて嬉しい限りです。あくまで原作パートだけですけどね、キャラを殺すのは。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る