第13話 エラルドへの警告

授業が終わり、とりあえずは学生会室へと向かう。

学生たちが帰って、人が少なくなるのを待ちながら仕事をする。


その間も学生会室の窓からは、

エラルドが令嬢三人とお茶を楽しんでいるのが見えた。

ため息をついたら、アルフレード様から声をかけられる。


「そろそろいいんじゃないか?行ってきなよ」


「すみません。少し抜けさせてください」


「大丈夫だよ。あとはみんなでやっておくから。

 しっかり話をしておいで」


「ありがとうございます」


他の学生会の令息たち見れば、みんながうなずいてくれる。

よろしくお願いしますと言って中庭へと向かった。



楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

いつもと同じように、エラルドの左隣にはラーラ様。

向かい側にエルマ様とジャンナ様が座っている。

私の存在に気がついたのか、エラルドが笑いかけてきた。


「やぁ、ディアナ。

 もしかして、お茶しにきたの?」


「いいえ、エラルドに話があってきたの」


「僕に話?」


「ええ」


私が笑っていないのに、気がついたのか、

エルマ様とジャンナ様が席を立ってエラルド側に移動する。

私が席に座ると、エルマ様はエラルドの右隣に座り、

ジャンナ様はエラルドの後ろに立って、肩に手を置いた。


「あのね、あなたたちのことが学園内で噂になっているの。

 そのことは知っているかしら」


「噂?」


「ええ、エラルドが三人と浮気しているという噂よ」


「浮気?そんなことしてないよ。

 僕たちは幼馴染だって、ディアナも知っているだろう」


「ええ、知っているわ。浮気なんてしてないって」


「じゃあ、問題ないじゃないか」


浮気をしていないって私が断言したことで、

三人の令嬢は驚いた顔をしている。

もしかして、私が嫉妬して文句を言いに来たと思っていたのかな。


「問題よ。学園で四人を見ている学生たちは、

 エラルドと三人がそういう関係だと思っているんだもの」


「違うってわかっているのに?」


「私は違うってわかっているけれど、他の人はわからないから。

 ねぇ、エラルド。もう三人と一緒にいるのはやめたほうがいいわ」


「どうして?」


「やっぱりディアナ様は誤解しているんだわ」


「もしかして、嫉妬しているの?」


「私たちはそんな関係じゃないのに、ひどいわ」


黙っていられなくなったのか、令嬢三人も口を挟む。


「エラルド、これは私たちの問題だけじゃないのよ?

 この三人はエラルドとそういう関係だと思われている。

 このままでは嫁ぎ先がなくなってしまうわ」


「え?」


「学園を卒業したら、三人は婚約者を探さなくてはいけないでしょう?

 その時に相手が見つからなくなってしまうわ」


「なんだ、そんな心配をしていたのか」


「え?」


「そんな心配してなくていいよ。僕が面倒を見る予定だから」


「……は?」


エラルドが三人の面倒を見るって、どういうこと?

驚いていると、エラルドは得意そうに話し続けた。


「だからぁ、この子たちは僕の側近なんだ」


「はぁ?」


「この三人は僕が侯爵になる時に側近として領地に連れて行く。

 だから、こうしてそばにいても問題ないだろう?」


「……問題しかないけど」


どこから説明しなくてはいけないのかと、

頭を抱えそうになりながらも言い返したが、

それを聞いた令嬢三人から悲鳴のように抗議される。


「ひどいですわ!ディアナ様はエラルド様に冷たいです!」


「そうよ、ディアナ様がエラルドを支えないから、

 私たちがこうして支えているのに!」


「ディアナ様はもう少し私たちに感謝すべきですわ!」


……側近って、仕事をする人だってこと、

理解できていないのかしら。


馬鹿にしたいわけではないけれど、

エラルドとこの令嬢三人に侯爵家の領地を任せることはできない。


「三人を領地に連れて行くのは認めないわ」


「なんでだよ!」


「横暴だわ!」


「そうよ!どうして、ディアナ様が決めるのよ!」


「侯爵になるエラルドに従うべきでしょう!?」


あぁ、やっぱりわかっていなかったんだ。

そうかなとは思っていたけれど、もうはっきりするべきだと思う。


「侯爵になるのは私だからよ」


「「「「え?」」」」


「だから、あなたたちは必要ないの!

 というか、もうすでに側近は決まっていて、領地で働いてるから!」


「「「「はぁぁぁ?」」」」


四人の驚いた声が重なる。本当に理解していなかったんだ。

エラルドはジョイとルーイにも会っているのに。

領主になる勉強はしたくないと逃げ帰ったの忘れてしまったのかな。

あの時にちゃんと説明されているはず。


「エラルドはただの婿だから、何の権限もないの。

 領主じゃないから側近も必要ないし、私の側近はもうすでにいるの。

 そこにいる三人の令嬢は、卒業したら婚約者を探さなくてはいけない。

 だから、もうエラルドと一緒にいるのはやめなさい。

 わかった?これは最後の警告よ」


「最後の警告?」


「ええ。警告を無視して、これまでと同じように、

 そうやって令嬢と一緒にいようとするなら、婚約は解消させてもらうから」


「え?婚約解消?それは困るよ……」


「困るなら、ちゃんとして。わかったわね!?」


「………わかった」


小さい声だったけど、エラルドは返事をした。

これでいい。これで警告を無視するようなら婚約解消させてもらう。

恨みがましそうに私をにらんでいる令嬢たちが、

このまま黙ってエラルドから離れるとは思えない。


学生会室に戻ると、全員から拍手を送られた。


「え?」


「よく頑張ったな」


「ええ?聞いていたんですか?」


「ああ。窓を開けていれば聞こえるからな。

 あとで言った言わないってなると困るし、

 これだけ証言する者がいれば問題ないだろう」


「あ……そうですね。証言できる人を用意するのを忘れてました。

 ありがとうございます」


「ああ、気にするな」


エラルドに話そうとするのに気を取られ、

今後のことを考えていなかった。

警告を無視したから婚約解消すると言い出せば、

宰相から証拠はと言われただろう。


ここにはアルフレード様をはじめ、高位貴族の令息が七名もいる。

学園の学生会に所属するような優秀な者ばかり。

いくら宰相でも彼らの証言をなかったことにはできない。


あとは、エラルドたちの今後次第。

きっとすぐに問題を起こすだろう。



……と思ったのに、それから一カ月。

エラルドと令嬢三人のお茶会を見ることはなくなった。


もしかして、本当に離れたのだろうか。

このままではエラルドと結婚しなくてはいけなくなる。

つきつけられた現実に後悔しても、どうしたらいいのかわからなかった。


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