炎の中の過去(27)
帝国皇女様邸宅(現:自宅)
夕食後の雑談にて、
テーブルにはカードが散らかる。
向き合うのは、
赤髪の少女と銀髪の少女。
つまり、皇女様と俺である。
「お姉様、何ですかこのデッキは」
「何って、新デッキだが?」
「いや、そうではなくて戦法の問題です」
俺の盤面は一体。
皇女様の盤面は多数。
だが勝ったのは俺である。
「嫌いかこういうデッキ」
「順当なのは嫌いですが」
皇女様は俺のカードを見る。
「このデッキは......何というか面白いですね」
その言葉にニヤリとしてしまう。
「だろッ、いいクソデッキだろ」
「はいッ、いいクソデッキです」
盤面を片付けている最中、
皇女様からの質問が飛ぶ。
「でも、こんな高いカードどうしたんですか?」
最もな疑問だ。
アグロ蔓延る世界でこれは強すぎる。
間違いなく高値で取引されている一枚だ。
(だが俺は豪運の持ち主)
「昨日、郵便で届いた」
「えっと、今更ですが体に異常とかは?」
「今ピンピンしてるし問題ないだろ、多分」
手紙を開けたら爆発するわけでも無かったしな。
便箋には『頑張ってください』とだけ添えられていた。
◇◆◇
帝国軍第二駐屯所執務室
眼鏡と金髪おっぱい軍服は睨みあう。
机に座るのは中将、
机の前に立つのは少佐である。
「この書類は」
「追加のスパイリストです」
「この短期間で良くそろえたモノだ」
「消える者があれば補填されるのが世の定めです」
少佐は渡されたリストに目を通す。
「これは......」
引っ掛かる名前が一点。
場所は少佐もよく知っている。
「このリストは本物か?」
「ええ、もちろんですよ」
中将は不敵な笑みだ。
「その言葉に二言はないな」
「あるかもしれませんね」
「ちっ」
少佐はドアを開けて出ていく。
ドタドタと階段を下りる音が室内まで響く。
(ドアぐらいは閉めて欲しいものですが)
餌には引っかかった様子ですね。
「さて、私はまだいい人なんでしょうか」
引き出しを開ける。
中には燃やす予定の書類と一般的な便箋。
書類の一番上には偽造命令書とだけ書かれていた。
◇◆◇
帝国首都、市内
今日も巡回もとい恫喝は、
俺と少佐の二人だけである。
「今日はどこの家を燃やすんだ」
「......」
「消滅させるの間違いだったか?」
「......」
少佐は何も言わない。
いつもなら関節技の一つをかけてくるのだが。
(調子狂うぜ、まったく)
今日の朝からずっとこの調子である。
「ついたぞ」
「おいおい、ここは────」
裏路地のパン屋。
最近よくお世話になっており、
店員さんとも顔なじみになってきたころだ。
「昼飯にはまだ早いハズだぜ」
少佐は何も言わず中に入る。
「あのーまだ開店準備が終わってなくて」
「今日は食べに来たわけではない」
少佐の懐から出すは帝国軍の紋章。
「キミをスパイ容疑で捕まえに来た 。
正確、帝国情報漏洩罪がかかっている。
掴まってくれるなら手荒な真似はしない」
店員は混乱している。
「えっと」
「乱暴にはしないつもりだ」
「その、もし私が暴れたら?」
「程度に応じた対応をさせてもらう」
店員は銃を構える。
「そうか......」
少佐は剣を構える。
「ならば強制逮捕させてもらう」
だが、少佐の剣は鈍い。
剣撃は空を斬り、
壁を寸断。
「チッ」
剣を折り返し、
逆手で剣を放つ。
必殺の一撃は、二撃目をもって必殺となる。
「全く、三文芝居には興味はないんだが」
それは介入者が居なければの話。
二撃目は防壁にて弾かれる。
「貴様、任務妨害だぞ?」
「だからどうした?」
余裕のあくびをかます。
「別に一発で仕留めてりゃ文句はなかったさ」
「何が言いたい」
「迷うような剣を振るうなってこった」
俺は肩に手を当て首を回す。
「別に切った張ったされるのは構わねェ。
だがな私情がどうとか、事情がどうとか
そういう三文芝居は好きじゃねェんだよ」
力んだ右手から音が鳴る。
「斬るんなら、情け無用で斬りやがれ」
少佐の回答はシンプルだ。
「なら貴様が先に剣の錆になるか?」
「悪いが俺の剣はこれなんでな」
デッキに手をかける。
[宇宙決闘法が申請されました]
「面白い、今止めれば折檻で済むぞ」
「まさか、オレに二言はねェ」
「そう来なくては興ざめというモノだ」
少佐もデッキに手をかける。
「部下のしつけも上司の役目だ」
両者ニヤリと笑う。
[相互の合意を確認]
[対価は互いの命令権]
[それでは良い決闘を]
◇◆◇
「先行は譲ってやる」
俺の手札を見る。
実戦投入は初だが、手札の質は良好。
(頑張れば3キルも夢じゃねーな)
「まずは《速さの僧》を召喚ッ」
「速攻打点? アグロバーンか」
【アグロバーン】
バーンと言われる火力デッキの一つ。
デッキ内の火力と速攻生物でライフを削るデッキである。
《速さの僧》はその中でも速攻と打点を兼ね備えた一枚である。
「私は手札を入れ替えて終了だ」
「おいおい悠長か」
少佐は速攻対面にも関わらず手札を整える。
捨てられたのは赤のドラゴンと白の天使。
赤に白?
しかも高コスト帯。
(明らかに色もコストもおかしいだろ......)
「どうした眼の色を変えて」
「前言撤回だ。嫌な予感しかしねェ」
墓地に高コスト。
真っ当に出す気はなく。
魔法で蘇生されるパターン。
(特に問題は、白の天使)
回復がついてるせいで出たらゲームが終わる。
「もう少し悠長にゲームしねェか」
「悠長にしていたら殴り殺されそうなのでな」
少佐の笑みは不敵である。
だが現状俺の手札に蘇生を妨害するカードはない。
てか、そもそもデッキの中に妨害札など入っていない。
「俺のターン、火力を撃って終了だ」
「それでいいのか?」
「うるせェ、焼ききりゃ勝ちなんだよッ」
天使が出なければギリ2ターン後には焼き斬っている算段だ。
「私は更に手札入れ替えだ」
「追加の手札交換? 事故ってんのか?」
蘇生呪文が無いのはありがたいが。
(墓地に落ちたのは風のドラゴンと緑の恐竜)
リアニメイトにしては少々具が多い。
「いいのかライフが詰まっちまうぞ」
「問題はない」
火力と打点をぶち込んで、少佐のライフは風前の灯。
だが、少佐は動揺すら見せず、
淡々と宣言をする。
「私のターン、手札から《魂を吸い取る者》を召喚」
現れるのは、鎌を持った死霊。
雰囲気はコスト以上に不気味だ。
「召喚時に墓地のカードを任意に除外する」
「墓地対策カードか?」
「除外するのは4枚のカード」
選ばれたのは、火のドラゴン、天使、風のドラゴン、緑の恐竜。
「そしてその効果を得る」
「......聞き間違いか? もう一度頼む」
「《魂を吸い取る者》はそれらの効果を得る」
意味不明な一文が聞こえたんだが?
「ヘルプッ」
俺の声に反応して目の前に電子的なウインドウがでる。
[銀河総合ルール]
Q.《魂を吸い取る者》の効果適用はいつまでですか?
A. 永続です。
「馬鹿カードやめろ定期」
現状、除外されたカードは4種類。
「効果は──速攻、貫通攻撃、攻撃強化、おまけにライフ回復だ」
「究極生物が爆誕してんじゃねーかッ」
「いつもより少々モノ足りんがな」
いや、足りてないって。
2回殴られると俺の体力は消し飛ぶが?
「話せば分らんか」
「泣き言は聞きたくない」
無慈悲である。
結果、
俺のライフは半分消し飛び、
少佐のライフは初期値となる。
「これはちょっとばかしヤベーな」
これで焼き切るには手札の火力では足りなくなった。
だがな少佐よ。
いつからデッキがアグロバーンだと言った?
手札のカードはキラリと光るぜ。
◇◆◇
「さて俺のターン」
「貴様のラストターンだ」
「それは俺が何もしなければだろ?」
ほう、とばかりに見る少佐。
堂々と宣言を行う俺。
「もちろん何もせずッ、ターンエンド!!」
(動けるかァ、ボケェッ)
手札の火力じゃ焼き切れない。
なんなら俺が死にそうになっている。
故に迫真のエンド宣言である。
「戦いを諦めたか」
「いや、コイツはKO宣言だ」
俺は手札を見せつける。
「アンタにはこの2枚で十分だ」
「ふざけているのか?」
薄ら笑いに、返す少佐は激怒の模様。
「貴様が何をしようとしているかは知らんが、所詮はアグロバーン」
「そのデッキでこの盤面を返せるわけがないッ」
「《魂を吸い取る者》愚か者に攻撃しろ」
狙うは攻撃宣言時。
「まずは《速さの僧》でブロック!」
「だからどうした。その程度で止まる攻撃ではないぞ」
俺は1枚目のカードを使う。
「《攻撃倍化!!》を発動ッ」
「なら貴様の生物に除去だ」
黒の除去が放たれ、
俺の盤面は空となる。
「自軍に強化をかけて倒す算段だろうが甘いッ」
否、対象は俺のカードではない。
「対象は《魂を吸い取る者》」
「私のカードを対象だと⁉」
《魂を吸い取る者》の攻撃力は倍になり、初期ライフすら即死の攻撃力となる。
俺に放たれる一撃は強力だ。
「自棄にでもなったかッ」
「いや、これが俺の回答だ」
表にするのは2枚目のカード。
「《魔法の大筒》を発動」
一撃は大筒に吸い込まれ、
少佐に向けて撃ち返される。
「反射魔法ッ」
「グッドゲームだ」
轟音と共に少佐のライフは消し飛び、
決闘の勝敗が下される。
[You Win!!]
◇◆◇
ボロボロになった店の中で、
少佐と俺は向かい合う。
「命令はなんだ」
少佐の眼は覚悟を決めた瞳だ。
(だけど命令なんて考えてねェんだよなァ)
という訳でいつも通りの適当命令である。
「じゃあ、ご飯奢ってくれ」
ちょうどお昼だし、それぐらいでいいだろ。
俺は倒れた椅子を起こして座る。
「......ふふっはははっは。そうだな、命令には逆らえんな」
少佐も椅子を起こして座る。
「店員さん、コーヒセットを一つ」
「私はパンケーキだ」
目を見開くは店員さん。
「えっと、この状況で注文ですか」
「無理なら構わねえぞ」
まあ、といいつつ飲み物が出てくるのは流石である。
ふうっと一服したあと少佐が口をひらく。
「私をどうするつもりだ」
「別にって感じだ」
考えがあったわけじゃないしな。
「では、なぜ決闘を挑んだんだ」
「ノリと勢いだ」
「本気か?」
9割ぐらいは本気である。
(まあ、正確に言えば少し違うが)
「新デッキを試してみたくてな」
「買った高額カードでも見せつけたかったか」
「いや、アレは差出人不明の手紙で届いたんだてな」
少佐の眼は胡散臭いモノを見るような眼だ。
「手紙であんな......いや、なるほどな」
「なんか納得する要素があったか?」
「回りくどい助言だったという話だ」
───私の過去で負かすのは、奴なりの皮肉だろ。
少佐は納得し、
俺は疑問を浮かべる。
「貴様に辞令を書かせる任務だったんだがな」
少佐は飲み物をごくりと飲む。
「冗談か?」
「自分でも正気を疑った内容だ」
「おいおい、いいのか任務をバラして?」
「問題ない。達成する必要はなさそうだからな」
飲み物を飲む手は既に2杯目だ。
「以前の任務で失敗していから。
部下に託され、生きながらえて、
結局、私は────「変顔でもしとけ」」
少佐はむにゃっと顔をゆがめる。
「むっ、何をする」
「そんで鏡でも見てろ」
勝手に歩き出す足。
割れた破片の前に少佐は立つ。
「酷い顔だな」
映る顔はどうやら酷いらしい。
「別にテメーの愚痴なんて誰も聞きたきゃねェんだよ」
俺はパンをもぐもぐと食べる。
「そんなに吐きたきゃ鏡にでも言ってな」
「鏡もおなじ悩みを抱えているようでな」
パンを食べる手が止まる。
(コイツは重傷を越して、呆れるってやつだな)
だが放置するには関わりすぎたか。
嫌な眼鏡の顔が思いつくのが腹立たしい。
「それが酷い顔だと思うなら笑いやがれ」
「無理を言うな。笑い方なぞ昔に忘れてきた」
「仕方ねえ、なら思い出すまで付き合ってやる」
少佐は目をぱちくりさせる。
「長くなるぞ?」
「どうせ明日も警備なんだろ、気長にやるさ」
今日の俺は飯代がなくて気分がいいからな。
まあ、その程度なら安いもんというやつだ。
後日、不気味な笑顔を浮かべる少佐が軍の噂になるのは別のお話である。
Q. カードゲーマーは星の救世主になれますか? 上殻 点景 @Kagome_20off
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