神聖の力線(23)

 「さて、これでイーブンだ」


 俺はニヤリと笑うが、

 ケルベロスは浮かない顔だな。


 (そりゃあんなピンポイントメタ食らえばそうなるよなァ)


 悪いが3戦目もイージーウィンと行かせて貰うぜ。


 「さてさて、手札は......まずい」

 「先行は貰うよ」


 俺は無言で頷く。


 「《聖なる次元》は無いのかい?」

 「うるせェ」

 

 初手を見る、

 手札は魔力加速がフォーカード、

 そのくせ肝心なカードは初手には無い。


 (ミットレンジ対面にこの手札はマズイ)


 手札を見られもしたら、

 なにも無いのがバレて、

 打点連打されて投了もんだぞ。


 「僕はターン終了」


 だが意外にも、帰って来るは終了宣言。


 (てっきり手札を捨てられると思ったが)


 「おいおい、挨拶は無しか?」

 「毎回引けるなら苦労はしないよ」

 「奇遇だな。それは俺も同じ気持ちだ」


 そしてトップは《聖なる次元》。


 (いや、1ターン遅ェ)


 コイツ、初手に無いと無料で場に出せんねェんだよなぁ。


 そして本体のコストは重く、

 普通に唱えれるのは数ターン後、

 一見、どう見ても不要牌だと考える。


 「だがそれは、雑魚の思考」


 俺は手札を切り飛ばし、

 無理やり魔力を捻出して、

 《聖なる次元》を場に出す。


 (これによってコンボ始動が遅れるが知った事ではない)


 どうせ魔力加速とか上から引けるし。

 ちょっと嫌な予感がするが気にはしない。


 「それ、無理やり出す必要あるのかい?」

 「おいおい、この高等テクニックが分らんのか」

 「色々間違ったテクニックだとおもうんだけど」


 何と言われようと、

 ハンデスを食らうワケにはいかない。

 俺の手札に何も無いことがバレるからな。


 (精々、手札を訝しんでくれ。頼む)


 もはや、プレイングはお祈りに近い。


 「僕のターン......うーん」

 どうした? 長考のお時間か

 「いや見事にハンデスを引かされてね」

 「ならせいぜい手札で温めておくんだな」 


 俺はドヤ顔で威張っておく。


 なお、内心。


 (あ、あ、あっぶねェー)


 ハンデスカードを、

 トップで引かないで欲しい。

 先に見切ってなければ即死だったぞ。


 内心ガクブルでのドヤ顔は体に沁みる。

 

 そんな俺をケルベロスは見据える。


 「君はさ、何を思って決闘をしているの?」 

 「急にどうした」


 心理戦か?

 だがそれは効かんぞ。

 そういうのは余裕がある奴にするもんだ。

 

 俺の内心はすでにガクブル。


 (もはや動揺する余地は残ってねェ)


 ケルベロスの3つ首は懐かしむように口をひらく。


 「昔は僕たちも沢山いたんだ」

 「でも皆、真面目に決闘に挑んで負けちゃって」

 「それで皆から外道と呼ばれていた僕だけが生き残った」


 思い思いの言葉を吐く3つ首。


 「僕は怖いがりなんだ」

 「負けたら死に等しい決闘」

 「だからこそ一手ずつ詰める様に戦う」


 ケルベロスの瞳は異物を見るような眼だ。


 「君は決闘で失うのが恐くは無いのかい?」

 「いや、知らんがな」


 長話すぎて少し冷静になったが。

 結局、決闘の勝ちとか負けとかよりも、


 「俺は決闘が出来ればそれでいい」


 それだけである。


 俺の真面目な回答に、

 ケルベロスは少しだけ目を閉じ、

 俺に向かって言葉を紡ぎ始める。


 「やっぱり君には修正がいるね」 

 「おいおい、急に物騒な発言だな」

 「君のような人間は問題なる可能性があるから」


 そう言い切って、

 ケルベロスが召喚するのは《地獄犬》。


 (ここでの打点の投入はやっかいだな)


 やっかいだが、

 その低い攻撃力なら、 

 こっちコンボの方が早い。


 「更にハンデスカードを唱えるよ」

 「止めとけ、俺は対象には取れんぞ」


 俺は聖なる光に包まれている。


 「いや、ハンデスの対象は──僕だよ」

 ッ!?


 墓地に落ちるは2種類のカード。


 (無理やり攻撃力を上げに来たかッ)


 現在地獄犬の攻撃力は5、

 これでキルターンは縮まり、

 俺の勝ち筋は一気に怪しくなる。


 「くくくッ」


 俺から思わず笑いが溢れる。


 「ちょっと絶望しちゃったかい?」


 否、


 絶望ではない。

 この笑みは賞賛。

 この戦いへの賞賛。


 俺の口角は更に上がる。


 「ああ、最高だぜ」

 

 (この一瞬の為にゲームをやってると言ってもいいぐらいだ)


 俺は満の笑みで、手札を握りしめる。


 「ここで笑うか、キミは」

 「こんな試合、笑わなきゃ損だろ?」

 「まったく嫌になるよ。本当に強い子だ」


 草原の草木は、

 そよ風を受け、

 少し揺れ始める。


 ◇◆◇


 数度のターンを跨いで、

 俺のライフは残り少ない。


 相手の盤面から見ても、

 これが俺の最後ターン。

 

 「これがラストドローか」


 俺の手札を見る。 

 手札は数枚の魔力加速のみ。

 

 (《竜の創嵐》を引く以外勝ち筋がねェな) 

 

 俺はデッキから、

 1枚のカードを右手で取る。


 だが引いたカードを、

 まだ手札には加えず、

 裏側で右手に持っておく。


 「ちょっと待て」

 「どうしたいんだい」

 「俺の手札の魔力加速は4枚だ」

 「急に手札を公開して何がしたいんだい?」

 

 俺は一枚ずつ手札を数えていく。 


 「これを全部赤色の魔力にして、ぴったり10。

  そんでカウントは5で、ドラゴンが5体出て、

  全員でお前さんを殴ってライフが0になる」


 俺の意図に気づいたのか、

 ケルベルスは口をひらく。


 「それが《竜の創嵐》だと?」

 「それしか勝てるカードが無いんでな」

 「それでも魔力の色は考えた方がいいと思うよ」


 引くカードの裏目を消すならそうだろうな。


 「忠告はありがとう、だ」

 「いや無粋な発言だったね」

 「そんなことは無いと思うが」


 俺は笑顔で言葉を返す。


 ふぅっと息を吐き、

 右指でカードを擦って、

 引いたカードを表にする。 


 「ラストドローは────《竜の創嵐》ッ」


 「......引かれたかぁ」


 ケルベロスも笑って俺を見る。


 俺の盤面に並ぶは5体のドラゴン。

 消費した手札とライフでは盤面を捌けず、

 ケルベロスのライフを0にするのであった。


 ◇◆◇


 嵐が収まった草原に、

 向かい合うのは俺とケルベロス。

 妙なことに二人の顔は笑顔である。


 「それで僕はどうすればいいんだい」

 「さっさと軍をどかしやがれ」

 「それだけかい?」

 「それだけだ」


 ケルベロスは三つ首を揺らす。


 「本当に決闘する事以外に興味がなさそうだね」

 「失礼な、これでも多趣味で通ってたんだぞ」


 暇があれば釣りや読書ぐらいはしてたが。

 現状、そんなことをやる暇がないだけだ。


 ケルベロスはジト目で俺を見る。


 「全く、帝国といい、王国といい.....」 

 「王国がどうしたんだ?」


 知らないの?とばかりにケルベロスは話を始める。


 「王国にはイカれた姫──決闘姫がいるのさ」


 聞いた噂によると、

 王国の伝説の剣を用いて、

 10万の大軍を決闘で屠ったらしい。


 魔王軍じゃ、王国の決闘姫に賞金がつくレベルさ。


 「君も彼女には気を付けた方がいい」

 「アッハイ.....」


 王国、剣、姫、


 凄く思い当たる節があるが気のせいだろう。


 「もう時間のようだね」

 「急に風が強くなってきたな」

 「軍を退くのが決闘の対価だからさ」


 びゅうびゅうと砂嵐が魔王軍を囲う。


 「君との決闘は意外と楽しかったよ」

 

 そう言い残すと、

 ケルベロスも、魔王軍も、

 砂嵐は全てを運んでいくのであった。


 あとに残ったものは、

 自然豊かに生える草原と、

 俺達を照らす暖かな日差しだけ。


 「んじゃ、帰るか中将」

 「......そうですね」


 少しボケっとしている中将を蹴り飛ばし、俺は車に乗り込む。


 こうして真実を知るのは2人だけの、

 【第2乾季首都防衛戦】は終わりを告げるのであった。

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