ハンデスタルモリリアナ(22)
魔王軍の士気は最高潮に近い。
中心部で睨み合うは、
銀髪少女と3つ首の獣人。
つまり、俺とケルベロス。
「完全アウェーだな」
「彼らに襲わせる気はないよ。もちろん僕もね」
ケルベロスの言葉は意外だ。
(真偽を疑う話だ)
周囲は完全に囲まれている、
後ろから撃たれても気づかねェし、
俺を仕留めるなんて造作もなさそうだが。
「魔王軍って割と蛮族だと思っていたんだが」
「古めかしい決闘の作法だよ」
「決闘の作法?」
「昔の話さ」
ケルベルスは俺に追加の質問をする。
「ただし、ルールの追加を望むよ」
「何か不満でもあったか」
「いや個人的な問題さ」
ケルベロスは三つ首を動かす。
「「「僕たちと3回戦って2回かった方が勝者というモノさ」」」
「ほら、僕たちの」
「誰かだけに負けて」
「不満が出ちゃうと嫌だろ?」
煽るように言葉が飛んでくるが。
「別に文句を言うつもりはねーよ」
それは強がりかい?
まさか俺は文句を言わんだけだ
負けんのはそっちてコトだ。
逆に初見殺しを一回耐えれるし、アリだろ。
[決闘のルールが変更されました]
無機質な電子音が空間に流れ、
試合数の変更を周囲に告げる。
(両者の合意があれば決闘のルール変更は可能なのか)
と、すればこっちも変更しない理由はない。
「ならこちらもサイドボードは有りか?」
「サイドボード?」
「いわゆる入れ替え用の15枚のカードだ」
2本先取のゲームでは種類によるが、
15枚の外部カードを用意することで、
デッキの相性を変化させたりする。
(いつもは一本先取だから関係ないがな)
「うーん、まあそれぐらいなら」
「魔王軍はずいぶん優しいことで」
「先に提示したのはこちらだからね」
なら15枚にはピーキーカード選んでおくか。
刺さるかどうかは神のみぞ知るが。
(サイドボード芸人って奴を見せてやる)
ふうっと息を吐き、
デッキに手をかけ、
俺は敵を見据える。
それはケルベロスも同様。
「では始めるよ」
「いざ尋常に」
「「勝負ッ」」
決闘開始のアナウンスが鳴る。
◇◆◇
「僕のターン、まずはコレかな」
呪文は黒。
俺に黒い光があたり、
手札がケルベロスに公開される。
「ちっ、初手にハンデスかよ」
「効果で手札を1枚捨ててもらうよ」
久しぶりに喰らったな、
黒色のハンデスカード。
最後に撃たれたのは大会の時か。
「ほほう、なかなかに面白い手札だね」
俺の手札は、魔力加加加加速、創嵐。
「捨てるもんには気を付けた方がいいぜ」
「では《竜の創嵐》を捨てて貰おうかな」
妨害が無ければ、最速3キルの手札だったんだが。
(今からでも誤魔化せるか?)
「こっちの魔力加速はいいのか」
「どうせソレはデッキに沢山はいってそうだしね」
俺のドローは魔力加速、
先ほどハンデスされたせいで、
もう
「俺はエンド」
「なら僕のターン。次はコイツだね」
召喚するは、煉獄を纏った犬。
「地獄犬は賢い犬でね」
「賢い? 身内びいきか?」
「墓地の種類だけ攻撃力が上がるんだよ」
お互いの墓地の種類は2種。
よって地獄犬の攻撃力は2。
「まだ可愛いチワワか」
「実際、地獄犬は可愛い犬でもあるよ」
「なら、そのまま可愛い攻撃力でいてくれ」
軽口を叩きつつ、盤面を整理する。
(黒色でハンデス、クロック......)
嫌な予感しかしねぇな。
顔をしかめつつ、
俺が引いたのはまた魔力加速。
いったい何枚引かされるんだか。
「つったっく、エンドだ」
「なら僕のターンだね」
次に召喚されるのは地獄の門。
「物騒なもんが出てきたんだが」
「物騒な効果じゃないから大丈夫さ」
地獄の門に光が宿る。
「お互いのプレイヤーは手札を捨てるよ」
「手札をそっちが選んでか?」
「いいや任意だよ」
俺は手札に溢れているカードを、
ケルベロスは装備品のカードを捨てる。
(今、カードの種類が2つ増えたな)
流石に捨てたカードは浅かったかもしれん。
「どうしたんだい、浮かない顔をして?」
「盤面の攻撃力を見てたらそうもなるだろ」
墓地にあるカード種類は4。
つまり地獄犬の攻撃力は4。
(おいおい、5パンで確殺じゃねーか)
思わず頬が引き攣る。
地獄犬は俺に殴りかかり、
残ったライフはあと4パン分。
「流石に除去引かねーと、マズイかッ」
俺のトップは、ドラゴン。
(とりあえず壁にはなるか)
手札の魔力加速を切り飛ばし、ドラゴンを場に出す。
「おお、デッカイねえ」
「コレでちょっとは止りやがれ」
起点にするには攻撃力は低いが、
地獄犬を受け止めるには十分なカードだ。
「なら僕のターン、ドラゴンに除去」
「あっ、うん......そんな気がした」
思わず素に戻る俺。
いや、黒単の時点で察してたよ。
どうせ手札は除去であふれてんだろーなって。
「何かあるかい?」
「何もねェよ」
ドラゴンを取られた俺は、
そのまま手札を絞られ続け、
地獄犬に殴り殺されるのであった。
◇◆◇
犬にぶっ飛ばされて地面に転がる俺。
「まずは一本だね」
「ああ、そうだな」
俺は地面に大の字に寝転がったまま、
デッキから入れ替えるカードを考える。
(サイドから入れ替えるカードは4枚か?)
いや、除去を考えるなら6枚。
肉を多めにとるならさらに2枚追加、
いやそれだとコンボパーツを捨てすぎか。
(あーミットレンジ寄りの黒単サイドなんて考えてねぇよ)
結局、直感に従って4枚だけを入れ替える。
「まだやる気はあるかい?」
「当然」
足に力を入れ、
銀髪の砂を落として、
俺はよいしょと起き上がる。
「ゲームの先行後攻はどうするかい?」
「後手を貰う」
「先行じゃなくていいのかい」
「この対面だとハンド1枚が欲しいからな」
ハンド1枚差のアドバンテージ。
ハンデスを警戒するなら先行だが、
引かれる確率はたいして変わらんしな。
「なら、ボクの先行」
「いや、ゲームの開始時──」
俺は手札からカードを宣言。
「──《聖なる次元》を出す」
聖なる光が俺を包む。
「ちなみに出た時効果は特にない」
「不穏だけど、今は無視さしてもらうよ」
ケルベロスは手札を眺める。
「とりあえず、手札を......妙だね」
「もう、俺にハンデスは効かねえぞ」
「寝言か......いやそれが《聖なる次元》の効果か」
いい読みだ。
付与されたプレイヤーを対象に取れない。
それが《聖なる次元》の唯一にして最大の効果。
「精々手札とにらめっこしておくんだな」
ケルベロスは手札を握りしめる。
(これで俺の手札は安全だ)
あとは早急にコンボを決めるだけ。
「悪いがこっからは俺のターンだ」
数ターン後、
龍の嵐が巻き起こり、
ゲームは終わりを迎える。
これでゲームはイーブン。
勝っても負けても次が最後である。
────────────
ここまで読んでいただきありがとうございます。
長いので今回は前半と後半に二分割します。
いや、カードの試合なんて読んでても退屈だから一話にした方がいいのかなぁ。でも5000字も読んだら飽きるよなぁ、と思いつつ今回は半分にしました。
補足は次回まとめてします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます