Bazaar of Baghdad(19)
町の探索後、俺達は駐車場に戻り、多数の馬車やトラックの間を歩く。
荷台からは陶器や食材が出されており、商品の種類は多種多様という言葉が似合う。
地面に簡易的なシートを敷いて商売をする様子は、ここまでくれば露店通りと見間違うほどである。
そんな中を歩くは、
銀髪の姫と眼鏡の男、
つまり俺と中将である。
「中将、見てみろよ」
「あれは古物商ですか」
地球では見たことのない商品が並ぶ。
文字が掠れた本、表面が消えたコイン、
禍々しくて触れたら呪われそうな物とかもあるな。
(こういう店大好きなんだよな)
リサイクルショップとかで無駄に漁ってしまう性分である。
「これとかスゲーな」
目に付くは表情が変化する仮面。
仮面の表情が怒ったり笑ったりと、
普段、仏頂面の奴に付けたら面白そうだ。
「嬢ちゃん、お目が高いな。そいつは───」
「───ただのガラクタです」
触ろうとした手を中将に制止される。
「なんだ、アンタ」
「しかも、法に規制されているモノとはなかなかです」
今回は劣悪なコピー品なので見逃しますが、と中将は話を終える。
(よく知ってんな、おい)
俺には仮面のどこが法に触れてて、
どこがコピー品なのかすら分からんが。
中将もこういうのを集めんのが好きなのか?
「実は中将は仮面が趣味......?」
「ただの仕事のせいです」
違法品の取り締まりも軍の仕事だそうです。
ほえーと俺が納得していると、
露店のおっちゃんに小言を言われる。
「おいおい、彼氏持ちなら先に言いな」
「これ見て彼氏って言えるか?」
手につないである手錠を見せる。
もちろん紐の先は中将がしっかり握っている。
おっちゃんは俺と中将を交互に見つめ。
「そういう趣味なのかと」
「冗談でも殺───もぐッ」
思わず決闘しそうになるが、
素早く中将に口を押えられて、
俺はもごもごするのみであった。
(クソッ、口を押えられなければ〇れたのに)
手をじたばたする俺をしり目に2人は話す。
「目を離すとこれですから」
「分かるぜ、息子がそんな感じだ」
「お互い苦労が絶えませんね」
うんうんと頷く2人。
「いや、何納得してんだよ」
納得できる要素0だろ。
カワイイ少女が手錠に繋がれてんだぞ。
ちょっとは危機感持ってくれおっちゃん。
「つったく商品買わねーぞ、おっちゃん」
「なら口止め料もかねて値引いてやるよ」
どうだと言うおっちゃんに、
俺はニヤッと笑う。
「上等だ、商品見せやがれ」
気前がいいのは嫌いじゃねぇんだわ。
◇◆◇
おっちゃんが商品を取り出し始めて数分。
中身は先ほどと変わらず訳が分らんものばかりだが。
中には気になる商品もある。
「これはカードか?」
「ああ、一部の層に人気でな」
ケースに入ったものもあれば、
籠の中に乱雑に詰められたカードもある。
「ケースのは凄くたけーな」
「そりゃ一級品の商品だからな」
「休憩地だから吊り上げてるだけです」
中将に言われ、
目を背ける商人のおっちゃん。
へたくそな口笛まで吹いてやがる。
(まあ、露店なんてそんなもんだろ)
俺は思案しつつ、
カードを眺めていると、
おっちゃんは一枚のカードを見せる。
「鑑賞用ならコイツとかどうだ」
提示されたのは、
イラストが綺麗なカード。
だが肝心の効果は微妙である。
(それよりもカードゲーマーならコイツ一択だろ)
【ブロックオリパには浪漫がある】
かの先駆者たちもそう言って爆死していった。
まあ俺がいた世界の話だし、爆死したのは友人だが。
昔を懐かしみつつ、
俺は籠のカードに目を向ける。
「籠のカードはいくらだ」
「そいつらは重量で売ってる商品だが」
(量り売りとは景気がいいな)
おっちゃんの言葉に思わず、
俺は笑みを浮かべて言葉を発言する。
もちろん、言うべき言葉はただ一つ。
「なら、全部よこせ」
「はッ?」
「支払いは勿論中将だ」
「えぇ......」
おっちゃんと中将の呆れを無視して、
銀髪少女の手には山盛りのカードが追加されるのであった。
◇◆◇
車内にて、
山盛りのカードを漁る少女、
あーでもないこーでもないと、
カードの確認に夢中である。
横に座る中将は、
流れてくるカードに埋もれ、
無言で眼鏡を曇らしている。
「この《聖なる次元》とかおもろいな」
「こんなピーキーなカードいつ使うんですか」
「そりゃいずれ合いまみえる陰キャ対策にだな」
刺されば強いカードだぞ。
まあ刺さらないと雑魚カードなんだけど。
「個人的にはいい効果だと思うんだが」
「初手に持っていることが前提のカードです」
「右手が強ければ問題ないだろ」
右手をぶんぶんするが、
中将には冷えた目で見られる。
「後手で引いてキレているのが目に浮かびますが」
「そん時はそん時よ」
そんな感じで、
カードに目を通し終えた後、
俺は中将に提案する。
「この紙束使って、対戦しねーか」
俺の手には乱雑につかみ取った2つの束。
「そして負けた方は昼飯を奢るってのでどうだ」
「私は構いませんが、お金は大丈夫ですか?」
「当然、中将に奢らせる前提よ」
俺の言葉に、
中将はニヤッと笑う。
「「いざ、勝負ッ」」
こうして、
車内で昼飯を賭けた、
絶妙に負けれない一戦が始まるのであった。
◇◆◇
「ぐ、ぐぎゅー」
俺の喉から変な声が出る。
(紙束最強を誇った俺が3連敗)
「まだやりますか?」
「ま、まだ負けてねぇから......」
いやもう3連敗してんだけど。
心が強ければ負けてないって言うし、
もはや勝ち負け関係なく、一勝ぐらいしたいのが本心だ。
そして、数分後。
「ば、ばぶー」
再びの敗北を経て思わず幼児退行してしまう俺。
ばぶった後、
数度の深呼吸を経て、
ようやく本来の感情を取り戻す。
「中将、強すぎんか」
「あなたが雑すぎるだけです」
おかしい、紙束において雑パンは正義なハズだが。
(昔からコレで勝ってきたんだが)
中将にはことごとく妨害されるし、
手札の札だいたいケアして殴って来やがる。
「中将、本当に紙束使ってるか?」
「先程文句をつけてデッキ交換したばかりですが」
ならば使っているデッキに不備はない。
そして俺は最強のハズだ。
なのに俺が負けている。
「つまり、中将は運だけのカス?」
「プレイングで負けているのを認めてください」
「ちょっとよくわからないな」
俺が認めたくない事実を言ってくれるな。
ここで負けを認めると昼飯代を払わないといけないだろ。
(財布に金が無いとかじゃなくて、財布自体がないからな)
支払いで泣きをみるのだけは避けたい。
「ここは運だけのカス証明の為にもう一回だな」
「さっきも同じ事言ってませんでした?」
「さっきは引きだけのカス証明だ」
「同じじゃないんですか」
「これだから素人は」
中将の呆れた視線を避けて、
俺は素早くデッキの準備をする。
仕方ないとばかりに用意する中将。
「次に勝った方は100億点で」
「それはどういう事ですか?」
「次負けたら方が飯を奢るってことだよ」
そんなこんなで、
車の中でワイワイと決闘は進む。
結果? それは聞かないお約束だ。
「要は楽しんだもん勝ちってな」
ふっと微笑む俺に対して、
いつもと同じ仏頂面の中将。
昼飯の天丼はおいしかったぜ。
「で、飯代は」
「金を貸してくれ」
「ツケということで」
天丼にちょっとだけ塩味が効きすぎてたのは内緒だ。
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