砂塵の大竜巻(18)

 帝国首都に戻る車は足を止める。


 車内には銀髪の少女と眼鏡の男性。


 別視点で、

 唖然とする俺と、

 普段通り冷静な中将だ。


 遠くからでも分かる砂嵐。 

 上下の風景は黄土色に染まっており、

 車体にはバチバチと石が当たる音がする。


 (初めて見たぞ、このサイズの砂嵐は)


 帝国首都に繋がる道は砂嵐にのまれている。


 「この時期に砂嵐とは珍しいです」

 「砂嵐に時期とか関係あるのか」

 「冬の風物詩みたいなものです」

 

 詳しい様子を見たく、

 ハンドル回して窓を開けると、

 車内に入り込んでくる大量の砂。


 僅か数秒で、姫様の砂ダルマが完成である。


 「一瞬で砂漠になったな」

 「馬鹿もここまで来ると笑えます」


 横には同じく砂だらけになった中将。

 ご丁寧に、眼鏡も砂だらけになっている。

 

 「で、どうすんだ、中に突っ込むか?」

 「吹き飛びますよ。毎年そういう馬鹿がいますので」


 中将は眼鏡の土を落とすと、

 視線を砂嵐に向ける。 


 よく見ると、

 吹き飛んでいるのは、

 石だけではなく、木、馬、そして人だ。


 「今年もまた馬鹿が増えましたか」

 「さっきの発言は取り消しておこう」


 マジでぶっ飛ぶとは思ってなかった。

 

 「ならどうする、過ぎるまで待つか?」

 「そうですね......近くの町にでも寄りますか」


 思案のあと中将は言葉を返す。


 周囲は見渡す限り、山と平原だが。


 「そんな都合よくあんのか」

 「ここら辺は交易路です。近場に村はいくらでもあります」

 

 自信気な中将は地図を広げる。

 

 俺はボケーっと砂嵐を眺める。

 

 中将は無言で地図を畳み始める。

 

 「見つかったかぁ?」

 「見つかりましたよ」


 俺のあくびを含んだ問いに、

 中将は眼鏡を曇らして答える。


 「約200km先にある村です」

 「もう一度聞いていいか?」

 「ここから3時間かかります」


 ここから3時間の距離の村?


 「近場とは」

 「広義的に見ればそうです」


 広義的に見ても、200kmは近場とは言わない。


 「これも魔王軍の仕業ですか」

 「魔王軍が村でも焼いていったか」

 「いえ元から村はなかったのですが」

 「困ったら魔王軍のせいにするなよ」

 「日常的な報告書の常套文句です」


 中将は真顔で言う。


 (魔王軍、完全なとばっちりじゃん)


 いや、日常的に魔王軍のせいにしてもバレないほど被害がデカいってことだろうけど。


 どちらにせよ、きちんと報告書作れよとは思うが。


 俺は中将に視線を向ける。

 視線に耐えかねたのか、

 中将は話を切り出す。


 「そう、あと......町の方に期待はしないでください」

 「すでにする気も失せてるがな」


 ここから200km先だろ。

 どう考えても田舎だろ、そこ。


 「基本的に運送の休憩場所ですから」

 「俺は風景だけでも満足できる仕様だぞ」

 「さっきまで同じ風景にキレていませんでしたか?」

 

 俺は少し思案した後、口をひらく。 


 「それは山しかなかったからであって」

 「風景で満足できるとは?」


 風景は好きだけど、

 同じ風景はずっと見たくないってことだ。


 そんな雑談と共に車は最寄りの町に着く。


 ◇◆◇


 「皆考えることは同じなこって」

 「いつもはもっと空いているのですが」


 結局車を止めれたのは町の外。


 見渡す限りの車と馬車と人。


 馬車の屋上で寝る人、

 情報を交換している人もいれば、

 商魂たくましくモノを取り出して売っている人もいる。


 なんなら風に乗って旨い匂いも流れてくる始末である。


 (この賑やか感、パーキングエリア味を感じるな)


 匂いに釣られて俺の足も動き出す。


 「少し待ってください」

 「どうした『ガシャッ』──ハイッ?」


 閉じるような金属音、

 俺の手には冷たくひんやりとした感触。

 手をぶらぶらすると金属に付いた紐もぶらぶらする。


 紐の先はもちろん中将に続いている。


 「中将、なんだコレは」

 「前回の反省を踏まえた予防策です」

 「馬鹿、なんで手錠を嵌められたかの方だよ」

 

 俺はじりじり詰め寄る。

 中将は澄ました顔で答える。


 中将は指を3本立てる。


 「まず、すぐ居なくなります」

 

 (うっ、思い当たる節が)


 「次に厄介ごとを引き起こします」

 

 (うぐっ、反論できない)


 「最後に約束の一つすら守れませんので」


 (グハッ、俺が悪かった)


 なんだろう、

 行動に後悔はないとはいえ、

 いざ言われてみると心にくるな。


 「何か反論はありますか?」

 「あ、ありません」

 「分かればよろしいです」


 俺は手錠を付けられ、

 中将に引っ張られながら町を観覧する。

 気分はさながら散歩を許容される犬のようだ。


 傍から見れば、

 手錠を繋がれた美少女と、

 その紐をもつ鬼畜な男性。


 もちろん周囲の人達からは注目の的である。


 「しゅ、周囲の視線が痛い」

 「この後、胃を痛めるよりマシです」


 覚悟の決まった中将は無敵だ。


 ◇◆◇


 町を歩く。


 「どこも似たようなレンガ造りだな」

 「どこも首都の建築をマネていますからね」 

 「そういやなんで首都もレンガ造りなんだ?」


 ずっと疑問に思っていたことである。


 宇宙船や車が運用できる技術があれば、

 街並みだってビルやコンクリに溢れた物になりそうなんだが。


 「昔の名残というべきです」

 「古きものを大事にする精神か?」

 「いえ、ただ帝国市民が臆病なだけです」


 中将はレンガに触れながら話す。


 「あれは防火魔法が組み込まれたレンガで、

  元はドラゴンに家を焼かれないように対抗策として、

  魔術師と建築家の協力で生み出された建築様式です」


 そんな意味があったのか。

 

 (ただ見栄えの為に統一しているもんだと思ってたぜ)


 「じゃあ、このレンガにも」

 「いえ、コレはただのレンガですね」

 「駄目じゃねーか」


 ドラゴン云々の話はどこ行ったんだよ。


 「ドラゴンが数を減らした現在では、

  レンガの意味を知るもは少なくなっています。

  だからこそ首都と同じという見得だけ残ったのですよ」


 壁のレンガは、

 風化した部分もあれば、

 新品の物に取り換えられた部分もある。


 「時代の流れは残酷だな」

 「時代の変化なんてそんなものです」


 中将は気にせず道を歩き始める。

 俺は引っ張られるように彼の後を追うのであった。



────────────

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は2人が雑談しているだけの回です。

作者があー雑談回書きェということで、あと1話ぐらい続きます。


感想を貰うと投稿頻度が早くなります。


以下補足、

Q.町のイメージ

A.高台にレンガで作られた建物が建っています。

 一部に密集している訳ではなく、ある程度段々に建てられています。


Q.車内の砂は?

A.ある程度主人公に掃除させた後、

 中将が魔法で綺麗にしました。


Q.車と馬車?

A.車はまだ庶民にとって高いモノなので馬車は運用されています。

 中将は基本車なのでなんで馬車にのってんだぐらいの感覚です。


以上補足となります。

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