現実を砕くもの(17)

 時刻は夜。

 中将はあたりを見渡す。

 場所は広場が一望できる建物の屋上。

 

 「王女より先に証拠を見る羽目になるとは」


 村の広場では、

 篝火と祭壇が用意され、

 中央に向かって村人たちが平伏している。

  

 中央には人形使い。

 ダークな体を包み込む黒のフード。

 唯一の特徴と言えば笑った道化師の仮面。


 「そして、その横には村長ですか」


 訪問の時とは違う媚びた顔。

 

 私が屋敷で調べた通り、

 村長は村の迅速な復興の為、

 住民をゴーレムにしていますか。

 

 (ならば 、上手く隠して欲しいものです)


 知ったからには対処する必要がありますし。

 対処されるのは彼らも望んでいないハズです。


 「しかも、組んだのがあの人形使いですか」


 3つの街を囮にして、

 宇宙船で焼き払ったはずですが、

 討伐にはいたってはいませんでしたか。

 

 (山に籠って暗躍としている辺り、まだ本調子ではなさそうですね)


 本来なら早急に帝都に帰り、対策を練りたいところですが。


 「まずは王女様の発見になりそうです」


 ◇◆◇


 広場の中央。


 「人形使い様、今日も用意が出来ています」

 「今日の贄は良いものであると期待しますよ」


 村長はごまをすり、

 人形使いは愉快な声を出す。

 

 「お前ら、運んで来いッ」


 広場の外から大きな箱が運ばれてくる。

 男たちは中央に箱を置き、

 村長は説明を続ける。


 「今日の贄は────」

   「────残念だが今日の贄はいねぇよ」


 箱の内側から、

 箱蓋が吹き飛び、

 俺は壇上に躍り出る。

 

 「村長、アンタには命令をかけさせてもらった」 

 「ワシは何も......」

 「俺が贄だと思い込むって命令だ」

 

 俺は人形使いに目線を向ける。


 「よう、醜悪な仮面男」

 「どうも、甘美なお嬢さん」


 仮面のせいで人形使いの表情は分からない。

 

 (だが内心は俺を馬鹿にしてそうな野郎だな)


 だが関係はない。

 どのみち俺のやる事は1つ。

 宇宙決闘を仕掛けて勝つことのみ。


 「説明はいるか?」


 俺は右手をデッキに当てる。


 [宇宙決闘法が申請されました]


 勿論、左手には皇女様特製の防御アイテムを握りこんでおく。


 「これは物騒な嬢さんだ」

 「礼節はわきまえたはずだがな」

 「では大人しく贄になってもらうとしましょう」


 人形使いは俺に右手を向ける。


 空間には複雑な術式が展開され、


 最後に眩い輝きを持って完成する。


 (今だッ!!)


 俺は左手のボタンを押し、

 ドンッと音が鳴った瞬間に、

 前面には無敵のバリアが展開される。

 

 「悪いが、見切っ───ガハッ」

 

 俺の口から血が吹き出る。


 (馬鹿な......バリアは出たハズだ)


 なのになぜ、

 俺のどてっ腹に、

 風穴があいてやがる。


 「いい顔ですねェ。

  なぜ怪我したのかすら分かってない様子だ。

  実は自分が邪魔者だって気づいていません?」


 指で後ろを示す人形使い。


 俺の思考はヤケに冷静だ。


 (あーあ、なるほど)


 俺が撃たれたのは背中側。

 つまり背後の広場にいる住人から。

 よりもよって撃ったのはあの少年かよ。


 少年は目を真っ赤にして俺を見る


 『も、もう俺から何も奪うなよッ、

  これ以上俺から何を奪う気だよッ

  妹も俺も全てを捧げて村を取ったんぞッ』

  

 人形使いは愉快そうに手を広げる。


 「知ってましたかァ、

  贄は村人全員で決めるんですよォ、

  少女を哀れに思って敵討ちとかですかァ、

  そいつはなかなかに泣ける話ですねェッ」


 俺はケガ人だっつうのに長い話だ。


 (そして全くもってどうでもいい話だぜ)


 俺はデッキに手をかける。


 「それだけか、なら──決闘を始めようぜ」

 「はっ? その状態で決闘を始める気ですか」 

 「当然だろ」


 別に決闘前に馬鹿が弾受けて、

 腹から血をタレ流しているだけだ、

 ルールには何一つ抵触してねぇはずだが。


 「その状態じゃ1分も持ちませんよ」

 「なら40秒で片づければいいだけだ」


 俺は血の混じった唾を飛ばす。

 

 [決闘を開始します]


 ◇◆◇


 「さっきまでの威勢はどうしたんですかァ」

 「うるせえ野郎だ」


 決闘が始まって早数ターン。

 本来なら速攻で片付ける予定だったが、

 そうはいかない理由が盤面にありやがる。


 「私は更にゴーレムを追加しますよ」


 盤面に並ぶゴーレム達。

 攻撃力は皆無だが体力が無駄に高い。

 それが1体だけではなく複数体盤面に並ぶ。

 

 通称、壁デッキ

 高耐久で耐えて、切り札を通すデッキ。


 (ドラゴンデッキなら打点をねじ込めそうだが)


 今の俺は中将のデッキ。

 俺の盤面の打点は小さすぎる。

 壁のゴーレムを突破するのは至難の業。


 「遅延行為しやがって」

 「まさか? 偶然そうなっただけですよ」


 人形使いは余裕といった感じだ。


 俺に勝ち筋がないわけではない。


 だがその前に、


 (腹から出る血が止まらねぇ)


 足元は真っ赤

 滝のような汗が流れ、

 痛みは既に感じていない。


 立っているのは既に根性の領域。


 人形使いはそんな俺をあざ笑う。


 「その意地、捨てたほうが楽ですよ」

 「意地すら曲げた人間に意味があんのかよ」

 「理性を持たぬ人間など家畜以下の獣ですよ」

 

 「獣で結構ッ───理性で今動けねえなら、そんなもんはいらねぇよッ」


 俺は血を吐き出し、

 気力と足で踏ん張る。


 手札には2枚のカード。


 (コンボに必要なパーツはそろっている)


 後は魔力が十分に──


 不意に、


 意識がふっと、


 視界が闇に落ちる。


 前後左右が分からなくなり、

 俺の体は重力に引かれて、

  

 体は地面に─────


 「本当に仕方ない人です」

 

 誰かに体を支えられる。

 天使の声にしては嫌みな声だ。

 人形使いは誰かを殺気をむき出しにして睨む。


 「決闘に部外者とは困ったものですよ」

 「あなたも部外者を使ったことをお忘れですか」

 「帝国の犬は口も上手だとは知りませんでしたよ」


 助ける予定は無かったんですが、

 そんな小さな声を耳が捉えたあと、

 俺の腹に異物と激痛の感覚がはしる。


 「起きましたか」

 「グエッ──中将、何をした」

 「超応急的に傷を塞ぎました」

 「ずいぶん、荒っぽいやり方だぜ」


 中将の手は真っ赤だ。

 俺は腹に手を当てると、

 ヌメッとするが風穴はない。


 (原理はよくわからんが助かった)


 未だに体はふらつき、

 立つには中将の支えがいるが、

 衝撃のおかげで眠ってた目は覚めている。

 

 「俺のターンだッ」

 

 体に喝を入れるが如く、

 俺は言葉を口から吐き出し、

 手に握るカードを睨みつける。


 ◇◆◇


 「まだやる気とは健気なモノですね」


 人形使いからは呆れた視線が通る。

 俺は知らんとばかりにカードを唱える。


 (まずはコイツからだ)


 「《朽ちたゴーレム》を召喚」

 「可哀そうなぐらいボロボロの巨体ですね」

 「別にボロいからって問題がある訳じゃねえ」

 

 コイツの真価は効果の方だ。

 貧弱なステータスは飾りにすぎん。


 「愛着より性能ですよ、お嬢さん」

 「勝手に言ってろ」

 

 そして俺はもう1枚のカードを切る。


 「ゴーレムに《双子の欠片》を付与」

 「付与? 攻撃力でも上げる気ですか」

 「俺の目的はそっちじゃねぇよ、馬鹿が」


 そのままゴーレムに攻撃宣言を出す。

 

 「《朽ちたゴーレム》、敵を殴り飛ばせ」

 「ならこっちもゴーレムでブロックですよ」 


 俺のゴーレムの拳は、

 ヤツのゴーレムの巨体の前に受け止められ、

 拳圧の衝撃で周囲には土ぼこりが舞い上がる。

 

 「結局何がしたいんですか?

  防がれるだけの意味のない攻撃。

  残ったのは燃料切れのゴーレムが2体......2体?」

 

 そう、

 土煙が晴れた場には、

 同じ見た目を持つゴーレムが2体。


 「《双子の欠片》の効果だ」

 

 攻撃時に付与されているカードをコピーする。


 「そして《朽ちたゴーレム》の効果」


 場のカードを生贄に捧げ、

 

 「コイツは再び起き上がるッ」


 コピーが光の粒に変わり、

 光の粒はコアに吸い込まれ、

 ボロボロのゴーレムは再度動き出す。


 「なっ、まさかッ」

 「そのまさかだッ」


 再び《朽ちたゴーレム》で攻撃し、

 場に自身と同じコピーを生成して、

 コピーを生贄にゴーレム自身を再起動。


 「この意味が分かるよな」

 「む、無限攻撃ッ」

 「ご名答ッ」


 無限のエネルギーを得たゴーレムは止まることを知らない。


 「跡形もなく吹き飛ばせッ」


 鉄壁のゴーレムに亀裂が入り、

 人形使いの軍団は崩壊を始め、

 ヤツの体力ごと跡形もなく消し飛ばす。


 「私の鉄壁のゴーレム軍団が......」

 「グッドゲームだ、クソ野郎」 


 勝敗はここに決した。

 

 ◇◆◇


 目の前には人形使い。

 

 俺は中将に支えられながらも口をひらく。


 「テメーには3つの命を下す」


 1つ、人に危害を加えることを禁じる。

 2つ、ゴーレムにした人間を戻す研究をする。

 3つ、研究が終わるまで村から出ることを禁じる。


 「あとは中将、何かあるか?」

 「“良き人間の心になる”なんてどうでしょうか」

 「それ、意味あんのか?」

 「ありますよ、万が一の保険です」


 まあ中将が言うんならといった感じだ。


 (ちょっと納得がいかん節もあるが)


 なんというか、

 中将にしては周りくどいというか

 無理やりな理由を付けた感じがある。 


 「ちなみに本音のところは」

 「私と同じ苦しみを味わって欲しいですが?」

 「凄く分かりやすい回答をありがとう」


 そんなに嫌だったかね俺の命令。

 そんな会話を聞いてかなのか、

 人形使いは急に慌てだす。


 「いいんですか村の皆様ッ

  ここに居るのは帝国の兵士、

  村の悪行は彼に知られてしまいましたよッ」

 

 人形使いの芝居がかったセリフを聞き、

 沈黙していた周囲の村人たちはざわつく。


 「何がいいてえんだよ」

 「彼らはどのみち不幸になるってことですよォ」

 

 人形使いは首を中将に向ける。


 「そうですよねェ、そこの帝国の兵士さん」

 「それは......」


 中将は言葉を紡げない。


 「おやおやァ、黙りですかァ。

  それはもう語ったも同然なんですよォ、

  やはり帝国は我ら魔王軍を許しはしない」


 人形使いは盛大に声をあげる。


 「そしてェ、それに加担したものも許しはしなゲェッ」

 

 人形遣いを殴りつける。

 俺の腹からは再度血が噴き出すが、

 ヤツの汚い口が閉じれたので十分だ。


 「んなこと、どーでもいいんだよッ」 

 「わ、私を倒しても帝国が彼らを殺しますよ」

 「知るか。そん時は──俺が帝国を倒すまでだ」


 周囲は静まり帰る。


 「あァ、なんか文句あんのか?」

 

 俺は周囲を睨みつける。


 人形使いは化物を見る目で俺を見る。


 「しょ、正気の人間の発言じゃない」

 「魔物にそう言って貰えるとは感動的だな」

 「自分が何を言ったのか分かっているのですかッ」

 

 別に帝国に喧嘩売るって言っただけだろ。


 コイツ俺の事をまったくわかってねぇな。


 しかたねぇとばかりに俺は腹に力を入れる。


 「俺が気に食わねえものはぶっ壊す、

  俺が胸糞クソ悪いと思ったものはぶっ潰す、

  俺を止めたきゃ決闘で自害でもさせるんだな」

 

 もう一発とばかりに人形使いの顔に俺の拳を叩き込む。


 そして拳を振り切った後、


 俺の体は再び重力に引かれるのであった。


 (ヤバッ、ちょっと無理をしすぎたか......)


 だが地面を拝むことなく、

 ぼふんという軽い音と共に、

 再び中将に抱きかかえられる。

 

 「今の発言は風で聞かなかった事にします」

 「また口が滑って言うかもしれんぞ」

 「そしたらまた風が吹きますよ」


 俺を担ぐ中将は、

 眼鏡を軽く光らせて、

 ニヤリと笑うのであった。


 ◇◆◇


 「相変わらず山しかねえな」


 場所は代わり車の中。

 通算3回目となる景色を、

 俺は車の窓から眺めるのであった。


 「結局、アレでよかったんですか」 

 「何がだ?」

 「少年少女の件ですよ」

 「ああアレか」


 《双子の欠片》を実体化させて、

 人形使いを無理やり叩き起こして、

 妹の魂を欠片の中にぶち込んだ奴か。

 

 (幽霊みたいな存在になったのはビビったが)


 「まあ喋れるようになったからセーフだろ」

 「そういう事を言いたいのではないんですが」


 中将は眼鏡を曇らし思案する。


 「(あの欠片、国宝級の産物でしたが)」

 「(本人がいいと言うならいいのでしょう)」

 「(大方、気づいてないだけな気もしますが)」


 「どうした? 町に思い残しか?」

 「まさか全部を置いてきましたよ」

 「確かに前と違って車が空っぽだな」


 車に積んであった箱や書類は一切が無くなっていた。


 「村の悪行を暴かなくていいのか?」

 「どんな人でも犯人がいない悪行は暴けません」

 

 中将はふっと笑ってから返答する。


 「帰宅後の仕事は、調査書類の不備を直すだけです」


 荒れた道を車は進む。

 風を受け、土で汚れながらも、

 その進路は変わることはない。


───────────

ここまで読んでいただきありがとうございます。作者です。

上中下で分ける予定の話がここまで長くなってしまい申し訳ないです。

お付き合いいただいた皆様にはもう一度感謝を申し上げます。


あっ、感想を貰えると更新速度が上がりますので感想下さい。


さて以下補足です。

Q.人形使いのデッキ

A.壁デッキ。最後に攻守を逆転するカードを使って一気に勝負を

 決めます。アグロにもクロパにも耐性があるいいデッキです。

 なお本文のようにコンボは弱点です。


Q.主人公のデッキ

A.中将のデッキにコンボとドロソを搭載したクロパコンボデッキ。

 隙を見てコンボを通しに行くという中々なクソ使用。

 本来ならピン投げのカードをドロソで探す構築だが、

 主人公は初手から二枚とも持ってた。ただのズルです。


Q.リスタン村の今後。

A.徐々にウッドゴーレムは減り人が戻っていく。

 ただしゴーレムがいなくなるという訳ではなく、

 これから彼らはゴーレムと共に支え合って生きていく。


Q.中将の苦悩とは?

A.いい人だから村の連中は救ってやりたいが、ほっとくと帝国の

 脅威になるために心をすり減らしていた。そのため出した結論は、

 とりあえず自分の足を止めての問題の先送り。

 だが、主人公の言葉を聞いて理性よりも行動が上回った。


Q.町の外れのウッドゴーレムの山

A.別名死者の墓。人形使いに従っている都合上、下手にゴーレムを

 弄ることが出来ずできた山。村の中では神聖な場所とされており、

 定期的な警備が行われる程である。


Q.おっちゃんのウッドゴーレム

A.もともとはおっちゃんの奥さん。病気で体を悪くしていたところを、

 贄に選ばれ、自分で志願した。人形使いの尽力?もあって後に

 人間の体に戻ることになる。


以上補足となります。


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