やっかい児(16)

 車は荒れた道を走り、帝国に戻る。

 

 時刻は早朝、

 進みは現在道半ば、

 後一日もあれば帝国に戻ることだろう。


 そんな中、俺はしみじみと思う。


 (結局、日帰り旅行と変わらんかったな)


 町中観光して、

 少年をいじめて、

 挙句お金を投げてくる。


 「我ながらクソみたいな旅行だぜ」

 「私との約束を破った上に、呑気そうで何よりです」


 中将の言葉にはトゲがある。


 (まあ夕方まで待たせちまったし、妥当か)


 中将曰く、

 

 昼には屋敷での用事が終わったらしく、

 車の後ろにパンパンの大箱と書類を詰めて、

 眉間に皺を寄せながら俺を待っていたらしい。


 「このツケはいつか返す」

 「返すより先に約束を破らないでください」


 至極もっともな意見です。


 (仕方ない、ここはご機嫌取りといくか)


 「新作はお前さんに見してやるからさ」

 「それ、私のデッキですか」

 「ちょっと貸してくれ」


 中将のポケットには代わりに俺のデッキを入れておいた。


 俺のポケットから、

 今日拾ったカードである、

 《朽ちたゴーレム》を取り出す。


 中将のパーミッションデッキと相性はいいんだが

 

 「まだ調整が足らんな」

 「何をやっているんですか」

 「新カードのデッキ作成だよ」

 「自分のデッキでやってください」


 自分のデッキだとコンセプトが合わねえんだよ。


 (ドラゴンデッキにゴーレムってどう考えてもアンチシナジーだろ)


 「まあ帰ったら皇女様あたりに......あっやべっ」

 「どうかしましたか?」


 俺はふと思い出す。


 「いや財布が」

 「財布はあげたんじゃないんですか?」

 「いや中に入っている皇女様作成アイテムの方だ」


 (アイテム入れっぱなしなの忘れてた)


 あれ皇女様は何も言わなかったけど、

 かなり必死に作ってくれたみたいだし、

 軽率に無くしたとは言いずらいのである。


 「あのー、今から戻るとかは......」

 「できるとお思いですか?」

 「で、出来たらで」


 自分でも動揺しているのが分かるぐらい目が泳ぐ。


 (こんなことなら財布あげるんじゃなかったなぁ)


 いっときのノリで動くカードゲーマーの悪い癖である。


 中将のジト目が辛い。

 でも皇女様に悲しまれるのはもっと辛いのである。


 俺が悪かったので......お願いします


 そんな俺を横目で見て、

 中将はため息一つ、

 口をひらく。


 「仕方ないですね」

 

 そう言って車は反転。


 一路再びリスタンに向かうのであった。

 

 ◇◆◇


 時刻は昼頃、

 再び戻るはリスタンの町。


 今回は町の中心まで行かず、

 町の外れに車を止める中将。


 「できるだけ早く帰ってきてくださいよ」

 「わ、わかってるよ」


 中将からにじみよられ、

 念入りに念を押される。

 

 威圧に慌てた俺は走り出し、

 町中をすっ飛ばして駆け抜け、 

 特に考えなしに少年少女の家に行くのであった。


 ─────そして現在、


 「誰もいねぇや」


 誰もいない家で立ち尽くす俺である。


 (まさか、兄どころか妹もいないとは)


 これからどうしたものかと思う次第。

 兄弟の位置が分からんと忘れ物すら......


 「そういや忘れ物防止機能があったな」


 (慌てすぎて、ふつーに忘れてたな)


 俺は目を瞑り、

 アイテムの場所を把握、

 点が示すのは村の南である。


 「てっ、さっき通った町中じゃねぇかッ」


 思わず声を荒げる俺。

 ここまで走った意味とは何なのか。

 まさに二度手間とはこのことである。


 ◇◆◇


 たどり着くは村の建築現場。


 周囲には、

 働く男性が多数。

 働くウッドゴーレムも多数。

 

 建築現場は今日も活気に溢れている。


 (忘れ物は建物内部に存在か)


 さて勝手に入ってもいいものか。


 「どうしたんだ嬢ちゃん」

 「あーおっちゃんか」


 丁度いいとばかりに俺は状況を話す。

 おっちゃんはガハハと笑い許可をくれる。

 盛大に笑われるとは、ちょっと傷つくぞ。


 「ちなみに建築の方は順調か?」

 「当然よ、若い奴も入って来たしな」

 「まあ頑張ってくれ」


 内部に踏み込むと、

 レンガが積まれただけの、

 むき出しの室内に行き当たる。


 「おっ、少年発見」

 

 その中には目的の少年も居た。


 「.......」


 クッソ必死に作業してやがる。

 ちょっと少年に声をかけにくいが、

 皇女様の道具だけは返して貰いたい。


 そう思い彼に近づくが、


 (アレ、反応場所が少年じゃない?)


 反応は彼の横にいるウッドゴーレムから。


 「なーんで、おまえから反応があるんだよ」


 俺はウッドゴーレムをじいーと見る。


 俺があげたとはいえ、

 そこら辺のゴーレムに渡さず、

 もう少し大事に扱って欲しかったぜ。


 「ちょっと触るぞ」

 「おい、なに勝手に触ってッ」

 「だから先に触るって言っただろ」

 

 俺を見た少年の顔は、

 驚愕と悲哀に染まる。


 「アンタ......今更何しに来たんだよッ」

 「忘れ物を取りに来ただけだ」

 「忘れ、物?」

 

 少年は何を言ってるのか分からない様子。

 俺は仕方なく説明をする。


 「白い筒あっただろ。

  アレを妹にあげた財布の中に、

  入れっぱなしだったという間抜けな話だ」


 言ってて悲しくなるなこの説明。

 おっちゃんにも馬鹿笑いされたし、

 この少年にも笑われそうな話である。


 だが以外にも、少年の反応はぶっきらぼうであった。


 「か、帰れよッ」

 「分かってるよ。取ったら帰るわ」


 (すがすがしい別れをして、また会ってる俺も恥ずかしいしわ)

 

 気持ちを紛らわす為に、

 俺は頭をガシガシと掻き、

 長髪の銀髪は乱雑に揺れる。


 「という訳でゴーレムさんよ、俺の忘れ物返してくれんか」


 と俺が言うと、


 ウッドゴーレムの体は、

 絡みついた根がほどける様に開いていき、

 内部で枝に絡まった白い筒を出してくれる。


 「オイ、盛大に枝に絡ま────ッ」


 否、

 

 断じて枝ではない。

 

 それは細く乾燥した腕、


 木と一体化した────少女の腕だ。


 そして腕の先には少女の顔。

 だがその口は動くことがなく、

 悲痛を彫った女性像にしか見えない。


 「もう......帰ってくれ」


 少年は目を赤くして俺に言う。


 「......冗談よせよ、馬鹿が、

  こんな胸糞悪いもん見せつけられて、

  簡単に帰れるほど終わってねぇんだよッ」


 俺は少年に掴みかかる。

 言葉は銃弾の如く早口になる。


 「誰にやられた、どうしてこうなったッ」


 少年は無言だ。


 「なんとか言えよッ、オイッ」

 「......帰ってくれ、頼む」

 「────ッ」


 少年をその場に投げ捨て、

 俺は走り出す。


 向かうは一際デカい屋敷。

 訪ねるはこの村の村長だ。


 (元凶は大本から叩くッ)


 俺は全てを置き去りにして、

 町を駆け抜けるのであった。

 

 ◇◆◇


 場所は町の路地裏、

 俺はダンッと壁を叩く。

 手からは赤い血がにじむ。


 「当てが外れやがってッ!

  何がワシは命令されただけだ、だ。

  挙句、元凶は山のどこかにいる魔物だと」


 決闘を仕掛け、

 情報を聞き出したが

 村長はただの連絡役。

 

 今回の元凶は山に暮らす魔物。


 魔物の名は人形遣い。

 怪しげな魔法を使って、

 人間をゴーレムにするらしい。


 (だがいい情報も聞けた)


 ヤツの儀式は昨日今日で行われる。

 場所は町の広場、

 時刻は夜。


 すでに策は仕掛け、

 後は夜になるのを待つだけ。

 杜撰な一手だが俺にはこれしかない。


 「絶対に見つけてぶっ飛ば、

  ───って、急になんだお前は」


 俺の視界に現れたのはウッドゴーレム。


 「お前......いや少女か?」

 

 ウッドゴーレムは、

 大きな胴体を開けて、

 内部で絡まる白い筒を見せる。


 「別に、律儀に返さなくてもいいんだぜ」

 

 ウッドゴーレムは動かない。


 「まあ、そこまで言うんだったら」


 俺が白い筒に手を触れると、

 眩い光がゴーレム内部を包み、

 筒と共に一枚のカードをにぎる。

 

 「カードの名は......《双子の欠片》」


 効果は名前通りの複製する魔法。

 

 イラストには双子の断片が描かれている。


 (これで一泡吹かせろってか)


 カードは鈍く輝き、

 俺はデッキケースに手をおく。


 「まっ、おねーさんに任せとけって」


 俺がそう言うと、

 ウッドゴーレムはその場を立ち去って行くのであった。




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