移動経路(14)

 剥き出しの地面を、

 豪快なスピードを出して、

 アンティークな自動車は進む。


 風を切る車、

 俺は車の窓から覗き、

 窓の外に見える風景は───


 見渡す限りの山、

 山の新緑は怏々と茂り、日光の加減によってその色を好きな緑色に変化させる。輪郭たる新緑は、太陽を含んだ背景をもってその色を強調する。風が吹くたび木々は揺れ、境界線はさざ波のように変化する。


 (いい天気なこって)

 

 やることが無ければ、

 昼寝と行きたいところだが、

 そうはいかない理由が車内にはある。

 

 「なーんで中将も来てるんですかね」

 「貴方一人に任せるとか正気ではありません」

 

 運転席に座る中将は、

 ハンドルを握りながらも、

 いたって真面目な顔で呟く。


 「仕事はどうしたんだ」

 「3徹で終わらしてきましたよ」

 「なら大人しく寝とけ」

 

 中将の隈は酷いレベルである。

 

 (墨汁がしみ込んだってぐらい悲惨な色だぜ)


 到底運転していい人の顔ではない。


 「この程度、体に珈琲を入れておけば動けます」

 「体の限界って知ってるか」

 「体の限界は魔法で誤魔化しが効くので」

 「まず魔法で仕事をどうにかしろよ」


 時間関係の魔法は帝国憲法で禁止されているんですよ、とは中将はため息をつく。


 「なら部下でもつければよかっただろ」

 「貴方の正体を知った上で信頼できるのが私しかいないモノで」

 「そいつは上々」

 

 俺もはぁーとため息をつく。

 口が滑ったとはいえどうして、

 おっさんと2人で旅行になるのかねぇ。


 (せっかくなら皇女様と旅行と行きたかったぜ)


 見かけ上は姫とおっさん。

 だが姫の中身は安定の俺だし、

 絵ずらに花がねぇなとは思ってしまう。


 叶わぬ思いを諦めて、

 俺は口をひらくことにする。


 「で、行く場所はどこなんだ」

 「東部のリスタンという場所ですよ」


 帝国領東部、

 農業・酪農を中心として栄え、 

 王都の穀物庫として重要な場所だっけな。


 (リスタンはそんな街の1つだったような……)


 俺は頭を痛める。


 思い出そうとしても、

 詰め込みで覚えさせられたから情報が朧げ、

 真っ先に脳裏によぎるは俺をシバく妹の顔だ。


 中将は言葉を続ける。


 「リスタンは襲撃後存在する村の1つで」

 「村? 街じゃなくてか?」

 「街の方は消し飛びましたよ」

 

 俺は額に皺を寄せる。


 「今あるのは街の人々が集った村ということです」

 「説明させてすまんかったな」

 「いえ結構」


 (悲惨な話としか言えんな)


 魔法や宇宙船がある世界だから、

 街ぐらいは簡単に吹き飛ぶものなのか。

 なんにせよ俺の中では想像がつかない話だ。


 「今回は特に被害が大きかった地域です」

 「岩石巨兵が襲来という報告もありましたし」

 「村が残っていること自体が奇跡だと感じていますよ」


 中将は眼鏡を曇らす。


 (奇跡ねぇ)


 むしろ致命傷受けても、

 国として成り立っている、

 帝国の方が奇跡に感じるが。


 「よく帝国は生きていられるな」

 「現在は国境線に宇宙船を飛ばしていますから」

 「宇宙船を?」


 中将は窓の外に目を向ける。

 視線の先にはわずかに見える黒い点。

 

 (あれの米粒みたいな点が宇宙船?)


 帝国の国境線はまだ先のハズだぜ。


 「あれは補給帰りです」 

 「補給? そんなに過酷な任務なのか」

 「年中国境侵犯する連中を消し去しさってますよ」

 

 物騒だな、オイ。

 

 宇宙船から国境侵犯する連中なんて判断つかんだろ。

 

 「他国の輸送車ごと消し去る気か」

 「交易は基本、帝国の車でおこないます」

 「移民はどうすんだよ」

 「彼らには帝国製の馬車で十分です」

 「あっそう」 


 王国の姫は移民と一緒ですか。

 

 (まあ、従者がついてた辺り絶妙な配慮はあるんだろうが)

 

 それでも馬鹿にされていることには変わらんか。


 俺は皮肉たっぷりに口をひらく。


 「なら馬車の乗り心地は改善した方がいいぜ」

 「馬車の乗り心地は悪い方がいいんですよ」

 「その心は?」

 「その方が移民が減ってくれるので」

 「そいつは名案だな」


 (暗に帝国に来んなと言われてただけか)

 

 中将はふっと笑い、

 思わず俺は窓の外を見る。


 「見えてきましたよ」

 

 中将に言われずとも、

 目線の先に見えるのは多数の家。

 山のふもとにはまだ建築途中の家も見える。


 ペンキがべったりと塗られた看板には【ようこそリスタンへ】と書いてあった。


 ◇◆◇


 レンガ造りの町並み、

 色ムラのあるレンガは交互に積まれており、その表面には汚れという物は見当たらない。

 レンガの隙間は無理やり埋めてあり、積み方を職人の技というには少し物足りない。


 「意外と発展してるな」

 「書類は所詮書類ということですか」


 兵士が言っていた復興が進んでいないいという話とは違う。

 

 人も多ければ、

 村は活気に溢れている。

 路上には採れたであろう作物を売る人。

 

 (中には芸を披露するヤツまでいるな)


 そんな町の中を車は進む。


 「ここが村長の家ですか」


 町の中を突っ切り、

 噴水がある広場を越え、

 一際大きな家の前で車は止まる。


 (皇女様の家よりは小さいな)


 クソみたいな感想を抱き、

 車を降りようとしたところで、

 中将から静止の声がかかる。


 「貴方は車で待っていてください」

 「えっ、どうしてだよ」

 「どうしてはこっちのセリフです」


 中将の視線は服に落ちる。


 「軍服はどうしたんですか」

 「勿論家に置いてきたが?」

 「どうしてですか......」

 「いや、軍服って蒸し暑いし」

 

 移動を考えると、

 暑いかなって思い脱いできた。

 今日の俺の服装は動きやすいワンピースである。


 ボケっとする俺、

 頭を抑える中将。


 「いいですかッ、今回は帝国軍の任務です」

 「軍服すらなければ一般人と変わりません」


 捲し立てる中将の発言。


 「つ、つまり何が言いたい」

 「一般人は大人しく車で待っていてくださいということです」


 いいですね、と中将に念を押される。


 その眼は“仕事を増やすなよ”と言わんばかりの目である。


 「あー、分かった、分かったよ」

 「嫌ですが、貴方を信じることにします」

 「そりゃどうも」


 中将の眼鏡はやや曇る。


 「どうせすぐに引き上げることになります」

 「今日来たばっかりなのにか?」

 「それだけ救いようがないということです」

 

 そう言って中将は車を降りていくのであった。


 ◇◆◇


 もちろん、

 車に残ることなく、

 町の探索をする俺である。


 町の中には人も多ければ、

 人では無いモノもある。


 (窓から見た時から気になってたんだよなぁ)


 目線の先には建築中の家。

 そしてそこで働く、

 木でできた巨人。


 「すげーロボットが動いてんな」

 「嬢ちゃん、ウッドゴーレムに興味かい」


 職人の一人に声をかけられる。


 「ウッドゴーレム?」

 「そう、この村が早期に復興できた理由さ」


 木の巨人は、

 ゆっくりと建築材料を持ち、

 どすんどすんと音を立てて動く。


 (人間がやっても変わらなさそうだが)


 なんなら作業効率だけで見ると人間がやった方が早そうな気もする。


 「そんなにか?」

 「そんなにだぜ」


 職人は熱く語る。


 「俺達より重いものを持てる無敵のアーム」

 「疲れを知らない24時間働けるボディ」 

 「なかなかイカすだろ」


 言い切った職人は

 歯を光らしてグッドポーズをする。

 心なしか後ろのゴーレムも輝いて見える。


 「た、確かにすごい気がする」

 「お、分かってくれるか嬢ちゃん」


 もちろんだ。

 重いものは持てそうとは思ったが、

 休息が要らないってのは普通に驚きだ。

 

 (まあ、確かにゴーレムって疲れなさそうだよな)


 だいたいパーツが摩耗して止まっているイメージがあるし。

 こいつらもきっとパーツが壊れるまで動き続けるんだろう。

 

 「ゴーレムさんよ、お前も頑張れよ」

 

 ゴゴゴっとゴーレムには言われる。


 「......あんがとよ、嬢ちゃん」

 「そいつはどうも」

 

 そんな職人たちの声を背に、

 俺は町の探索に戻るのであった。


───────────

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は前中後で書いてみたいと思います。

説明回でもっさりとした話なのは許してください。

あと、感想をいただけると更新速度が上がります。



以下補足

Q.どうして大国なのにレンガなの?

A.リスタンの山を削るにあたって粘土層の土が沢山出てきたから。

 余りにも大量にでてくるから、木材を使うよりも優先的に使われた。

 まあ、木材は別の用途で使われちゃったんでね。


Q.宇宙船とかあるのになんで車で向かっているんですか?

A.帝国の宇宙船は他の惑星のモノを買っただけなので技術力は

 宇宙船を作れるほどではありません。でもホバーな車や飛行船

 とかはあります。車輪のついた車で行っているのは中将の趣味です。


以上補足となります。

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