価値ある理由(11)

 皇女様の屋敷玄関にて、

 壁に沿った階段には赤いカーペットがひかれ、

 壁の絵画には翼の生えた生物が描かれている。


 王女こと俺は、

 玄関のドアに手をかけ、

 帝国首都の観光に出掛けようとするのであった。


 「お姉様、外に出るのはおすすめしません」


 俺が振り向くと皇女様。

 今日は軍服にサーベルと、

 この前より物騒な姿である。


 「物騒な姿と関係あんのか?」


 俺は皇女様に疑問を返す。


 「実は、帝国からお姉様に殺害命令が」

 「まーた、命狙われてんのかよ」


 王国といい、

 帝国といい、

 王女様の命をなんだと思っているのか。


 「そんなに価値があるかねぇ、王女様の命は」

 「目の前にいる第四皇女よりはありますよ」

 「小国の姫だぞ、一銭の価値もねーよ」

 「価値をつけるのは他人ですので」


 全く嫌な時代なことだ。

 

 「ここは部下に見張らしていますが、外の安全は保証できません」

 「そいつは面倒をかけちまってんな」

 「気になさらなくて大丈夫です」

 

 俺は頭をかく。

 長い銀髪は揺れ、

 着ている服がなびく。


 (正直なことを言うと気にくわんな)

 

 俺の命を狙われるのは構わんが、

 やりたいことを妨害されるのは、

 ちっとばかし、いやかなり癪だな。


 「皇女様、殺害許可出したのって誰だ」

 「帝国軍中将の1人です」

 「軍のお偉いさんか?」

 「参謀本部の策略家が考えそうなことです」


 へー、そんなヤツがわざわざね。


 「で、ソイツはどこで高みの見物してんだ」

 「彼が私物化してる帝国中央第二駐屯所ですね」


 駐屯所?

 当然だが俺が知らん場所か。

 とすれば案内は皇女様に頼むのが吉。


 (あとは足だな)


 「皇女様、車の運転は出来るか?」 

 「嗜む程度になら」

 なら十分だ


 元無免許学生の俺よりは事故らんだろ。


 (下手に人数連れて行くとバレそうだしな)


 計画は、

 俺と皇女様で実行でいいか。

 皇女様の負担がデカいのは許してもらおう。


 「よし、なら外に行くぞ」

 「あのー、お姉様?」


 話を聞いていましたか?と言いたそうな皇女様の顔。


 だが俺は止まらない。


 「もちろん──カチコミに行く」


 中将よ、

 殺っていいのは、

 殺られる覚悟がある奴だけだと教えてやろう。

 


 ◇◆◇

 

 帝国中央第二駐屯所、執務室(中将)


 簡素な机の上には豪華な調度品などはなく、数枚の書類が置かれるのみとなっている。

 

 書類を握るは、

 軍服の袖が見える男の手。 

 手は細くペンのタコが目立つ。


 「......妙ですね」


 ドアが叩かれ、

 軍服の男は呟く。


 丸い眼鏡はゆれ、

 白髪のまじるオールバックは顔になじみ、 

 軍人というより文官というのが適当な男性。 


 「今日は来客の予定は無かったハズですが」

 「ハロー、中将殿」

 「─────ッ」


 中将の眼鏡は白く曇る。


 「どうした鳩が豆鉄砲食らった顔をして」

 「生憎、第四王女様に出す茶菓子は無い物で」

 「安心しな、茶菓子なんぞは求めてねぇ」


 俺はドカッとソファーに座る。

 中将はそんな俺を呆れた目で見る。


 「先に言っておきますが、殺害命令の解除はできない相談です」

 

 「貴方にも王国にも悪いですが」

 「貴方の国には莫大な価値が出来てしまった」

 「少なくとも貴方をすり替えて国を奪う起点とするぐらいには」


 「───という訳で本物の姫は不必要なのですよ」

 

 中将は語りを終える。

 俺はシラけた目で見つめる。


 (ガチでどーでもいい理由で狙われてやがる) 


 国とか政治とかじゃなくて

 強大な魔王軍を破ったとか、

 皇女を倒したとかの理由で狙ってくれんか。


 「あー、懺悔の時間は終わったか?」

 「おや、見当違いな話でしたか」

 「子守歌には最適なレベルだ」

 

 正直、やる気が無くなってきた。

 狙われた理由もしょうもなかったし、

 なんか命乞いしに来たと思われてるし。


 (やりたい事終わらせてさっさと帰るか)

 

 俺は退屈そうに口を開く。


 「いいから、さっさと決闘を始めようぜ」


 [【宇宙決闘法】が申請されました]

 [賭けの対象をお選びください]

 

 空間に機械的な電子音声が流れる。


 やはり噂は本当でしたか 

 「なに1人で納得してるんだ」

 「いえ少し考えごとをです」


 中将は少し思案した後、


 「では───」


 軍服の懐に、

 手を突っ込み、

 俺に対して口を開く。


 「“さようなら”です」

 「はっ⁉」


 中将が向けるは銃口、


 ダン、ダンと重々な撃鉄が鳴り、

                《color:#ff0000》/《/color》

 俺に撃ち出されるは数発のcolor:#ff0000/《/color》弾。

              《color:#ff0000》/《/color》


 紅の剣撃が奔る。


 「ナイスだ、皇女様」

 「当然です、お姉様」


 銃弾は全て、

 皇女様によって、

 床に切り伏せられるのであった。


 「動揺すらなし......この程度は想定済みですか」

 「当然だ」


 すまし顔で言う俺。


 (もちろん何も見えてないぞ)


 気づいたら中将が銃を抜いてて、

 床に切られた銃弾落ちてた件についてだ。

 状況把握してから俺の冷汗は止まんねぇよ。


 まさか中将殿も、俺がただ動けなかっただけとは思うまいて。

 

 追加で俺の微笑みもつけておく。

 

 [決闘の合意を確認]

 [賭けの対象は互いの命令権]


 「まあ、楽しい決闘にしようや」

 「結構、返り討ちにするまでの事です」



 ──

 ────

 ───────



 「あのーまだ始まらない感じで......んっ?」 


 俺は宙に浮く文字列に気づく。


 [決闘を開始できません]

 [法に違反している点有り]

 [カードが不足(デッキ枚数39枚)]


 ふうー、

 久しぶりに、

 やったなコレ。


 (まさか三大新デッキあるあるをするとは)


 カードスリーブがないからデッキ枚数確認する方法が無いんだよなァ。

 

 という心の言い訳をしつつ、


 手でTの字を中将に向ける。


 「あっ、ちょっタンマで」

 「どうかしましたか?」

  

 俺は後ろにいる皇女様に話しかける。


 「皇女様、カードを一枚貸してくれ」

 「えっ、そんな急に言われましても」

 「強いカードなら何でもいいぞ」

 「えっとならコレでどうですか」

 

 皇女様はデッキから、

 一枚の光るカードを取り出す。

 渡されたのは紅炎を纏う竜のカード。


 「確かに一番強いカードだぜ」


 再度、俺は中将と向き合う。


 「悪いな、待たせて」

 「この後を考えれば些細な誤差ですよ」


 [決闘を開始します]



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