予想外の結果(6)
王国の食事室。
絢爛なシャンデリアが部屋を照らす。随所に趣向が施された椅子は、絨毯に映る人影よりも多く。
純白のクロスが掛けられたテーブルには、既に空になった皿が並ぶ。
部屋では、
俺、妹は食事を囲み、
老執事は整然と立ち続ける。
「じいさん、今日の飯もうまかったぜ」
「姫様、それはありがとうございます」
満腹でご満悦の俺と、いつも通りの老執事。
「呑気ですね」
そして呆れる妹。
その視線には侮蔑は無く、頭が痛いという目線である。
「姉上様は王国の状況を把握済みで?」
妹の問いに対して俺の答えは、
「へっ、何が?」
「....ですよね」
もちろん何も把握していない。
(元庶民に国の事が分かる訳がねーだろ)
と心の中での言い訳もしておく。
妹は仕方なくといった様子で口を開く。
「姉上様の魔王軍への要求覚えていますか?」
「魔王軍の干渉を禁じるだっけ?」
割とその場しのぎで言ったから、ちゃんと覚えていねーな。
(強い言葉使っときゃいいやろの精神だったし)
あの時はどう挑発するかが主だったしな。
「違います“今後、王国における一切の干渉を禁じる”です」
あー、そんな感じだったわ
「で、それの何が問題なんだ」
「大問題ですよッ」
妹は口を荒げて言う。
「いいですか──」
魔王軍は今まで古今東西あらゆる国を攻め手中に収めてきました。
その戦火は大国である帝国だって及びます。
魔王軍からの防衛はどの国でも課題であり、必須条件です。
ですが、姉上様が勝ち取った条件は、
「──王国国民であるだけで魔王軍からの被害から逃れれるんですよ」
と、妹は締めくくるが俺にはピンとこない。
文脈だけを見ればそう解釈できるだろ。
「そのまんまじゃないの?」
「まだ、分かんないんですかッ」
妹は身振り手振りを踏まえて、必死に訴えてくる。
「王国に大量の人民が集まるんですよ」
この文明が止まった弱小小国に大量の人が流れ込むんですよ。
姉上様が成し遂げたことは、今までどの国もなしえなかった
魔王軍からの唯一無二の安全地帯を作り上げたんです。
「そんな場所、他の人間から見たら天国みたいな場所なんですよ」
もはや妹の声は絶叫に近い。
なんなら机は、バンバンされてるし。
まあ、確かに平和なのはスゴイ事なのかな?
「そ、そうなのか」
「これだからカードゲーム馬鹿がぁ」
「な、泣かないでください、第二王女様」
頭を抱える妹。
慰める老執事。
ぽかんとする俺。
いや、まじですまない妹よ。
(凄いことは分かるんだが、いまいち実感がわかねーんだ)
妹が落ち着くまで10分かかった。
◇◆◇
話題閉廷
「ともかく王国はこれから急成長を遂げます」
「そんな急にか?」
「人類最後の楽園になった時点で確定です」
喋る妹の目は真剣だ。
「その時、問題になるのは姉上様なのです」
「そうなの?」
「そうですッ」
なぜいきなり俺が出てくる。
「どう考えても、内政とか無理だろ」
「どう考えても、祭りあげられるからです」
戦勝の姫であり、
王国の第三王女であり、
あやつりやすい馬鹿なので。
祭りあげない方が馬鹿です。
「馬鹿でバカは余計だろ」
「事実なので」
だが妹の目は真剣だな。
まじで起こり得ることかぁ。
正直、内政問題とかさっぱりだし。
(初心者は下手に深くかかわらん方がいいな)
「なら、隠居でもするか」
という俺の宣言に対して、目を丸くす妹。
「あの、姉上様は元の体に戻りたいとかないんですか?」
「いや、別に美少女にならいいかなって」
体がおっさんならしも、
銀髪ロングの美少女だし、
なんなら体のスペックは前より高いし。
ぶっちゃけ、元の体に戻るメリットがない。
隠居して俺のパラダイスタイム。
カワイイ子といちゃいちゃタイムよ
という人の夢は、
妹の次の一言で、
「いや──消えるのが恐くないんですか?」
儚く消えるのであった。
◇◆◇
目を丸くする俺。
「えっ、消える」
「はい、肉体精神置換は宇宙でも禁じられているモノの一つです」
妹は説明を続ける。
「その理由の一つとして、肉体と精神が反発し、消滅するというのがありあます」
「えっ、この体って時限爆弾付きなの」
「もちろん、知ってるものと思いましたが」
もちろん、知らなかったです。
(さも、当然のように言わないでくれ)
元の地球で肉体交換は基本じゃないんだ。
あーあ、俺の夢のパラダイスタイムが。
儚いことで夢だこって。
「はぁー」
「何やってるんですか」
「とりあえず中指立てておこうかなって」
ちょっと腹がたったし。
もちろん指の向きは、宇宙の向こうの第三王女にだ。
◇◆◇
「ならば宇宙船貸してくれ、妹よ」
「宇宙船が王国にあるとお思いですか、姉上様」
全部逃げるのに使われましたし、今のウチにそんなもんを買うお金もないです、と妹には返される。
「じゃあ、どーすんのさ」
「そんな姉上様にいい提案があります」
意気揚々と笑顔で話し出す妹。
(うっわ、嫌な予感しかしない)
古来より、腹に一物抱えた者が笑顔の時は何かあるのである。
「本来は私のためだったのですが」
妹は一つの封筒を取り出す。
「ここに帝国中央学園の推薦状があります」
「そんで」
「そして学園優秀者は帝国陛下に謁見できるそうです」
「つまり宇宙船を貸してもらうように頼めと」
「そうゆうことです」
帝国程の大国なら宇宙船の一隻や二隻、簡単に貸してくれるでしょう、と妹は言葉を終える。
(いや、メンドクサッ)
なんで宇宙船を借りるために学園に行かないといけねーんだよ。
いっそ帝国陛下に宇宙決闘を仕掛けて───
「ちなみに下手に宇宙決闘なんて仕掛けようものなら、秒で首をハネられますよ」
「か、勘が鋭いようで」
「姉上様が考えそうな事なので」
妹の眼光は鋭い。
この後、頷くまで睨まれたので、応じるしかなかった俺である。
絶対国から追い出すための策だろ、コレ。
あーあ、おとなしく隠居させてくれねーかなぁ。
──────────────────
ここまで読んでいただきありがとうございます。
以下、補足です。
Q.妹はどうして発狂していたのか?
A.王国にたくさん人が流れ込んでくるけど、それを管理、整理するための
お金も資材も不足しているから。なお主人公には言っても大変さが伝わ
らないと思ったので話すのは止めました。
Q.どうして魔王軍を撃退した主人公は呑気なんですか。
A.カードゲームの大会1回戦目を勝った気分のためです。殴り合った
り、剣を振って勝った勝利なら、もっと威張っていたと思います。
Q.ちなみに元の第三王女は消失の事は知っていますか?
A.もちろん知りません。
以上、補足となります。
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