裂け目の突破(4)
宝物庫。
獣の装飾が壁の書く場所に描かれ、ここが王国において重要な空間であると物語る。天井には絵画が並び、絵巻物のように出来事を語っているかのように思える。
そして正面の壁には、一振りの剣が掛けられる。
「これが《王家の剣》でございます」
「これが王家の剣」
装飾は最低限、
使用を前提としての刃は
年月を感じさせず神々しく輝く。
まあ、空っぽの宝物庫で“悲しく”が付くが。
「いや、どうしてこれだけ無いんだよッ」
宝物庫には王家の剣しか残ってなかったのである。
(まじで他には何も無いんだが)
「大半は戦争のお金に消えましたからな」
「じゃあなんでこいつは残ってんだ」
真っ先に売られそうな輝きをしてるだろ。
「それはこの剣が王家の歴史を象徴するものであり」
「売れないレベルの───産廃武器だからです」
と老執事は口をとじる。
俺が剣に近づくと、
《王家の剣》は光を強め、
手のひらサイズの
で、剣の効果は......
「結構、強めの武器だとは思うが」
武器としては割とヤバい効果だ。
「問題は剣を出すための魔力コストですぞ」
老執事は話す。
「右上に数字が書いてありますな」
「ああ、10って書いてあるやつか」
「つまり最低でも10ターンいるカードであり、」
「そんな悠長をしている間に殺されてしまうのです」
じいさんの話は一理ある。
海賊との戦いを見てたが、
速攻デッキがはこびってる世界だし、
剣を出す前にライフを0にされるとか普通にありそうだな。
だからどうしたと俺は口をひらく。
「現状これしかねぇんだ」
産廃だろうと、
激重コストだろうと、
使える武器はこれしかない。
(残り必要枚数は39枚)
あと足りない枚数は、
「じいさん、あとそこの兵士、お前らのカードもよこせ」
「勿論ですとも」
「自分もですか」
「そうだ早くしろ」
「はっ、はいッ」
王女の権力で摘発......もとい貸してもらうとするか。
(これで何とかデッキは組めそうだ)
だが、紙束で勝てるとは思えんな。
せめてひと工夫欲しいところだ。
「じいさん、他にカードは無いのか」
「城の廃材置き場になら少しは......」
「それも持ってこさせろ」
こうしてデッキ構築は進む。
◇◆◇
時間は経ち───25分後
「うおおお、セーフッ」
滑り込むように城壁にたどり着く俺
「ずいぶんギリギリね」
「う、うるさい」
デッキを調整に熱中してたら、残り時間3分だったとは。
(時間泥棒は頑張りすぎだ定期)
俺は、
深呼吸をして、
荒い呼吸を落ち着かす。
「だが、お前に勝てるデッキは出来たぜ」
「なら、実際に証明してほしいわね」
「今から証明してやるさ」
姫と悪魔の2人は対峙し、
「それでは───決闘開始ッ」
老執事もとい決闘仲介人の声が飛ぶ。
「先行は俺からだ。何もせず終了」
俺は手札を眺めるだけとする。
「あら何もしないの?」
「強者の余裕ってヤツだ」
「なら私は、カワイイしもべを出して終了よ」
悪魔の場に、小さいデビルが現れる。
「捻りげのない速攻め」
「だって強いですもの」
事前の予想は的中か。
(カードが足らずメタデッキが組めなかったのが悔やまれるな)
「俺は続けてターンエンド」
「ブラフかしら」
「かもしれんな」
まあ除去も妨害もねーがな。
(見えない札にビビってくれるなら結構)
もちろん俺は余裕のポーカーフェイスだ。
「ところで知ってた? 悪魔は心が見えるのよ」
「おいおい、笑えない冗談はよせ」
「あなたの手札に除去も無ければ」
俺は手札をチラ見し、
悪魔は目を見開く。
「ずいぶん重い手札をしてるのね」
「ハッタリだろ」
「なら右から札の魔力コストは......」
悪魔はさえずるように数字を言う。
「ずいぶん運がいいらしいな」
「まだ認めないのかしら?」
言われた数字はドンピシャで正解。
手札は透けてやがるってか。
「という訳で全軍攻撃」
「ライフで受けるぜ」
デビルが俺の体を槍で貫く。
このまま攻められると仮定、
とすれば、ライフはもって3ターン。
それまでにどうにかしねーと俺の負けか。
(だがキーカードは引けている)
「なら、そっちの終了に剣を捨て、魔力を加速」
そして俺のターン、
溜めた魔力を消費し、
俺は高らかに宣言する。
「
「───こいつはカードを一枚捲り」
「それが剣だった場合、コストを支払わず場に出す」
これなら高コストの武器でも問題はない。
「珍しいゴミ魔法を使うのね」
「ゴミ言うな、キーカードだぞ」
「運に頼るようでは戦士としても3流よ」
悪魔は呆れたように言う。
「好きにいってろ」
俺はニヒルに笑う。
デッキの配合率は正直微妙。
捲る確率は50%あるかってところだ。
(だがここで引くのが俺なのよ)
伊達に地元でガチャデッキを握ってはいないんだよッ。
右手に力を籠め、
デッキからカードを、
思いを込めて引き抜く。
「俺が捲ったのは、げっ」
───《剣の創造》ッ⁉
(よりにもよってお前かよ)
もちろん《剣の創造》は魔法カードなので場には出ない。
「出せない場合は手札に加える」
「アハッハハ、いい様ね」
悪魔は笑い転げ、
俺も笑い───頭を回す。
ライフはやべーが、
計算では後2ターンは生き残れるはず。
「まさか後2ターンも生きれるとでも思ってるかしら?」
悪魔は魔法を宣言する。
「全軍の能力を強化」
「おいおい、全体強化だと」
魔法の光を浴び
ムキムキになったデビル、
いやデーモンたちが槍を向ける。
「そして一斉攻撃」
矛先はもちろん、俺。
「最悪だ──グハッ」
「姫様ッ」
老執事の声が聞こえるがそれどころじゃねぇ。
体からは出血、
ドレスは血まみれ、
頭も少々ふらつくが。
なによりも、残ライフ3。
(非常にまじィな)
肉を切らせて骨を断つ予定だったが、コイツは切られすぎだ。
「さ、ラストターンをどうぞ」
俺のターン、
フラフラの足を、
気力でささえて、
カードを宣言する。
「《剣の創造》を唱える」
「まだ諦めないのね」
「降参はしないタチでな」
諦めさせたきゃ、ライフを0にしやがれってんだ。
「効果を解決」
デッキに手をかける。
この状況、回答はデッキに3枚程度。
切り札、全除去、2ピン除去って感じか。
正直、引ける気がせん。
だが、引けなくてもしかたねえ。
そこは割り切りだ。
(大事なのは──俺が最後までカードと真剣に向き合ったかどうか)
だからこそ、
普段通りに、
呼吸の如く、
俺は、
デッキから、
カードを引き抜くッ
「コイツは───」
剣というにはあまりにも美しすぎた。細く、薄く、軽く、そして神秘的であった。
それはまさに伝説の剣であった。
「《王家の剣》ッ」
「なっ、成功させただと」
悪魔は口を唖然とさせ、
俺も内心、呆然とする。
(......マジか)
ここで引いちゃうかぁ。
本気で負け戦の予定だったんだが、
急に───勝ち筋が出来ちまったじゃねえか。
目に光が宿るのがわかる。
俺は前に倒れそうな体を、
右足で踏ん張って押さえつけ、
左足は虚栄のために取っておく。
「おいおい、なにビビってんだ」
「これが王国に伝わる伝説の武器」
「悪魔の癖によくご存じなことで」
「魔王国でも産廃として名高いもの」
嫌な伝説だな、オイ。
さっきのビビってる感じは何だったんだよ。
(まさかこの剣が使われたの初めてか?)
魔力コスト重すぎて誰も使わなかった説はあるな。
「それで、剣の効果は何かしら」
「コイツに出た時の効果はねぇよ」
「やっぱり見かけ倒しの剣ってことかしら」
見かけ倒しかどうかは、自分で決めるんだな。
俺は銀髪を翻し、指示を飛ばす。
「《王家の剣》で攻撃ッ!!」
「しもべでブロックよ」
だが無残にも《王家の剣》の攻撃はデビルに阻まれる。
「残念だったわね、最後の攻撃も届かなくて」
勝ち誇った悪魔の顔に、俺は宣言する。
「いや、まだだ」
「《王家の剣》の攻撃能力発動ッ」
「攻撃時?」
そう剣の真価は殴った時にこそある。
「お互いはデッキを捲り、カードの消費魔力量で勝負する」
「私は2」
「俺は9」
数字は俺の方が大きい。
「この勝負に勝った場合───」
「──盤面の全破壊かしら?」
「いや、追加ターンを得る」
「はっ?」
「聞こえなかったのか、もう一度ターンを行うと言っている」
悪魔は目を丸くする。
奇遇だな悪魔、
効果読んだ時の俺と同じ表情だ。
正味コスト加味してもパワーカードだよな、この剣。
(だが、魔王軍に慈悲をかける気はさらさらねぇ)
「つーわけで、俺のターンッ!!」
「再び《王家の剣》で攻撃ッ」
「そして勝負ッ」
攻撃時、
上から捲れた、
互いの魔力の数字は、
「私は3よ」
「俺は7だ」
勝負は俺の勝ち。
という訳で、
「再び追加ターン」
悪魔の表情はいよいよ崩れる。
笑みはどこへ、半泣きってところだな。
「せ、せめて捲る勝負に勝てさえすれば」
「勝てさえすれば? 馬鹿を言うな」
俺が握るはクソデッキ、
「カードの最低値は5だ」
「カードの最大値は4の私は......」
「なーに、簡単だぜ」
オメーのターンは二度と来ないってことだからなァ!!
「いいゲームだったぜ、悪魔さんよ」
俺の宣言と共に、
王家の剣の一振りが、
悪魔の体を真っ二つに切り裂く。
「勝者、第三王女ッ」
決闘仲介人もとい老執事の声が響き渡る。
「んじゃ感想戦でも───あら消えちまった」
謎の光りが俺の目前を覆い、
気づいた時には悪魔や魔王軍は、
一切の跡さえ残らずに消えていた。
「姫様ッ、お体の方は」
「安心しろ、ピンピンだよ」
俺は老執事に向けて、
腕を回して元気である、と、
ぷしゅーと額から血が噴き出す。
「あははははは」
「ひ、姫様ァーーッ!!」
ちょっと、これはヤバいかもしれない。
決闘のダメージってリアルに残るんだな。
この後、俺は病室に運ばれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます