魂の導管(2)

 宇宙船の目下から見えるのは、中世な煉瓦と石で彩られた城下。

 周囲を囲む長々しい城壁は、年季と安心感を与える。

 

 国の名は───王国。

 

 惑星の中では小国ではあるが、かつては国と国の中継点として栄えた国。


 現在では魔王軍に進行され、幾つかの街や村が被害にあっているらしい。


 と、いうのが宇宙船運転中の彼女の談だ。



 以下、王国についてからの俺のダイジェストである。

 

 「景色スゲー」

 「城デケー」

 「飯ウメ―」

 

 以上三節の感想、言葉が拙いのは語彙力の不足。


 そして俺が案内されたのは、ホテルのような客間。


 フカフカのベット、

 よくわからない優雅な香り、

 おつきのメイドさんが最後まで居る豪華っぷりである。


 (なんでこんなに歓迎されているか分からん)

 

 まあ、細かいことは気にせずさっさと寝るのがモットーである。


 問題は明日の俺が何とかしてくれるだろう。


 ◇◆◇


 俺は目をぱちくりさせる。


 豪華な天井。

 正方形に区分けされた天井には、金の細工が施され、鬣を携えた動物が幾度もなく彫刻される。精巧な細工は、平成の感性からしても美しいと言わざるおえない。


 体を起こそうと腕を動かす。


 沈みすぎるベッド、

 鼻につく甘い香り、

 そして何故か腕にかかる銀髪。


 引っ張ると痛みは頭部から感じられる。


 「おいおい、俺の髪は黒髪短髪だったよなァ」

 「それは色々ありましてな」


 問いに答えるは初老の男性。


 目前に佇むは、

 黒を基調とした燕尾服、

 グレーの髪とモノクルが良く似合う初老の男性。


 老人の落ち着いた視線は俺を憐れむようだ。

 

 「話すと長くはなりますがな」


 「まて、まずは俺がここに来て何日たった?」

 「あと数刻で1日というところでしょう」

 「つまり、寝ぼけてる線はねぇ」

 

 この豪華な天井も見たことがある。


 昨日飯食った城の装飾がこんな感じだったわ。


 (とすればここは王国の部屋)


 だが夜に寝た部屋より豪華だ。


 俺の寝相が悪いで済ますには無理がある。


 「昨日の事は覚えていますかな」

 「ああ、この星についてから───」


 豪華なお城に着陸して、

 王国第三王女に出迎えられて、

 豪勢な食事をプレゼントされて、


 眠くなって寝たハズだ。


 「そうですな」


 「そしてこの国について知っていますか?」

 「絶賛魔王軍に戦争吹っ掛けられてることは知ってるよ」

 「王国は目下戦争中でございます」


 戦争中ねぇ。


 お空から見た感じ、

 幾つかの村、街は焼けてたし、

 魔王軍の侵攻止まらず、敗戦濃厚って感じだが。


 「それと何の関係があるんだ」

 「つまりは、そういうことなのです」

 「どういう事だよ」


 一呼吸おいて老人は答えを話し出す。


 「第三王女様は別の星に避難されました」

 「はぁ」


 それがそうした?


 「しかも貴方様と体を交換してです」

 「はっ?」


 えっ、この体俺のじゃないの。


 腕を上げてみると、

 いつもより肌は白く、

 腕の筋が細く感じる。 


 「お気づきではありませんですか」

 

 老人は俺の体を通して誰かを見るように答える。


 「───その体は第三王女様のモノでございます」

 

 俺の頬が引き攣っている気がする。

 

 衝撃的だ、

 自分の鈍さよりも、

 朝起きたら女性になってた事よりも、


 「いや、体って簡単に入れ替えられるものなのか」

 「技術の進歩はすごいものでございます」


 最近の技術凄すぎだろ。

 そんな簡単に体を入れ替えれるのか。

 いや個人の宇宙船があるぐらいなら可能なのか?


 (ちなみに少女になることは夢の1つなので問題はない)


 これで野郎の体とはおさらばできるしな。


 ただ気になるのは何故入れ替わったのかだ。


 「俺と入れ替わっても利点なさそうだけど」

 「いえいえ、貴方様はコードレスでございます」


 コードレスとは───この宇宙に記録されていないモノ。 


 「つまり宇宙の法律に縛られず」

 「縛られず」

 「行動が宇宙の記録にも残らないという」

 「なるほど惑星外逃亡にはうってつけの体だと」


 だが老人の説明では、俺は納得が出来ない。


 そもそもの疑問として


 「なぜ女王が逃げる必要がある」

 「戦争に連敗した責任問題というものがあります」

 「まだ若い少女にか?」

 「若さではありません、軍のトップという肩書の方ですな」

 

 それ絶対、国の第三王女という奴で押し付けた肩書だろ。


 「クソみたいな話だな」

 「責任というのは、少女には少々重かったという話です」

 「それを含めてクソって言ってんだ」


 何を考えたら一人の少女に責任を負わせれるんだよ。


 (逆か、少女しか責任を負わせれる人材がいないのか)


 それはソレとして現状確認


 「ちなみにトイレには行けるのか?」

 「ドアから一歩でもでると王国裁判のお時間です」

 「最低で」

 「処刑」

 「最高で」

 「晒し首」


 「裁判の意味あるかソレ」

 「裁判したというのが大事なのですよ」

 

 そうかそうか、と俺はベットから降りる。


 窓の外から差し込む日差しは眩しい。

 

 きっと日差しは銀の髪に反射して、周囲から見れば神秘的な姿に見えるだろう。


 俺は腰に左手を当て、

 右手の力はぬいて自由に、

 誇らしくもない胸で大きく息を吸い、

 

 とりあえず一言、


 「ファ〇クッ!!」


 日差しを受けて俺の中指が輝く。


 勿論、中指は宇宙の向こうの第三王女にだ。



 ◇◆◇


 老人と俺の話は続く。


 メイドの従者と話をさせろという気分だが、


 従者は全員姫様と逃げたというのが老人の談だ。


 「美女になったがいいが、明日にはお陀仏か」

 「残念ながら晩餐をする物資はありませんゆえ」


 誰が最後の晩餐をよこせっていった。


 よこすなら起死回生の一手にしろ。


 (現状積みすぎて逃げる気すらおきねぇんだよなァ)


 俺はベットに転がる。

 老人の視線が刺さる。

 そして部屋のドアが盛大に叩かれる。


 (もう少し時間を稼ぎたかったが)


 まだ今後の指針すら立ててないんだが。


 「失礼しますッ」

 「人払いはしていたハズだが」

 「緊急事態につき、すみません」

 「構わん、落ち着いて話してくれ」


 老人は冷静に対応する。


 一方、訪ねてきた兵士は焦りをみせる。


 (どうやら処刑話とは違うようだ)


 俺の安堵もつかの間、兵士から洩れた話は火急となる。


 「先程、魔王軍が王国首都に接近との報が」


 「馬鹿な周辺の街の連中は」

 「現在、状況不明です」

 「そうか」


 老人は俺に振り向く。


 兵士は既に駆けてどこかに行ってしまった。


 「申し訳ないが───」

 「魔王軍が来たって話だろ、聞こえてるし、見えてるよ」


 窓の外を顎でさす。


 見えるは黒い大群。

 禍々しい雰囲気を放つ大群。

 地面に対して、黒は半分というところである。


 「じいさん、今暇か?」

 「暇に見えますかな」

 「主が不在で暇には見えるな」


 ドアまで歩いていき、ついて来いと会釈する。

 

 「ですが外は、既に」

 「魔王軍来てるのに、審議もクソも無いだろ」

 「ですが逃げることも不可能ですぞ」

 「逃げる、まさか?」


 俺は口元を吊り上げて、老人に言い切る。


 「無論、魔王軍を見に行くに決まっているだろ」

 

 老人は目を見開き、口を唖然とさせる。

 

 「正気、ですかな」

 「どうせ遅かれ早かれ死ぬんなら誤差だ、誤差」 

 「......なんというお方だ」


 老人の手によってドアが開かれる。


 その姿は堂に入っており、貫禄を感じる動きである。


 ◇◆◇

 

 主と従者は動き出す。


 「ところでじいさんはなんで逃げなかったんだ」

 「おかしなことを聞く主ですな」


 「若者に宇宙船の席を譲ったまでですよ」

 「アンタも対外だぜ、じいさん」


 周囲が一望できる、王国首都城壁まではあと少し。


───────────


以下補足

Q. 宇宙船あるのに王国の風景はなぜ中世なの?

A. あくまで宇宙船は他から買っただけだから。あと王国名乗ってるけど、惑星全体としてはかなり小さいほうの国である。

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