Q. カードゲーマーは星の救世主になれますか?

上殻 点景

突然の置換(1)

  【宇宙決闘法】

 ────宇宙に文明が出来て早数億年。

 銀河同士の戦争は苛烈になり、銀河治安は脅かされつつあります。

 そこで制定されたのが、喧嘩両成敗もとい【宇宙決闘法】

 8つの条約からなるルールは、迅速な問題の解決を促します。

 銀河に刻まれているので、辺境の惑星でも安心です』


──────────────────


 流れる星々。


 尾をひく流星は命の輝きを示すように儚く、

 不格好な小惑星はゴツゴツとした無垢の表情をこちらに見せる。

 遠方には赤く光る星。炎のように燃える星は安心感と疎外感を与える。


 窓の外はまるで地上から見る星空の様。


 「いやどこだよ、ここは」


 俺はそう言わざるをえない。


 右手には様々な計器、

 左手にはもっと様々な計器、

 正面の窓には映像で見たような宇宙。


 (まるで、宇宙船の中みたいだ)


 感想はそれしか出てこない。

 

 俺は大きく息を吐いて、

 ゆっくりと息を吸うと、

 脳に空気がいきわたる。


 「確か、俺の最後の記憶は......」


 (地元のショップで友人とカードゲームしていたハズだ)


 ガンメタを張られて、

 台パンする友人に対して、

 俺はやさしい笑顔を浮かべて、


 「俺の勝ち、お前は無価値ッ」

 「なんや、上引きだけのカスがよォ」

 「ジャン負けはプレミなんだよなァ」

 「なら、負け先ヨコセや、カスがァ」


 煽り散らかしたまでは覚えている。


 (......我ながらクソみたいな記憶だな)


 自分がやられると台パン案件だが、

 この状況だと思い出す抗うつ剤だな。

 気持ちも少しだが落ち着いてきたってやつだ。


 「だが、それにしてもここはどこだ」


 俺はつんつんと金属製の床を叩く。


 (地元の店にしては機械的過ぎる部屋)


 罰ゲームやドッキリにしては、手が込みすぎている。


 「アンタ、人の船に堂々と乗っているとはいい度胸ね」

 「えっと、どなた?」


 振り向いた先には、金髪の少女。

 俺に向けられているのはよく見る機械バーコードリーダー


 「あれ、機械が読み取らない?」

 

 訝しむような視線を、少女は俺にむける。


 「黒髪黒目人気クローン顔の癖に、コードレスとは珍しいわね」


 (コードレス?なんだそれは)


 電源プラグがあるとかないとかだろうか?

 無論、意味は絶対違うとはわかっているが、

 それぐらいしか言葉の意味を知らないのだ。


 「俺の名前は、山田太郎だ。よろしく」


 勿論、偽名。


 言葉が通じているかは分からんが、

 故にアクションとジェスチャーが大事。

 とりあえず思いつく友好的な動きを再現する。


 というわけで少女に握手を求めてみる。


 「密航者の癖に、慣れ慣れしいな」


 俺の手はぺちんと弾かれる。


 だが少女の反応からするに、

 言葉は通じているようだ。


 「ところで、ここはどこだ?」

 「どこもなにも、我が愛船【銀河隼ギャラクシーファルコン】ですが」

 「凄い名前だな」 

 「当然です。重力エンジンを積んだ私の船は」


 宇宙一は言いすぎですね。冥王星一ぐらいは速いですからっと少女は誇らしげに言う。


 だが少女よ、問題はそこではない。


 「冥王星って、星の」

 「そうよ。先居た星すら知らない?」


 俺は冥王星にいたつもりは無いんだが。


 さっきまで友人と地元のカードショップで対戦してたし。


 「すまん、広島の江波って分かるか」

 「どこですか、それ」

 「じゃあ、日本」

 「知らないです」

 「地球とかは」


 「チキュウですか。ああ、それなら知ってますよ」


 ようやく少女の回答を得られる。


 が、少女の二の句は絶望的だ。


 「ずいぶん辺鄙な所から来たんですね」

 「辺鄙な所......なのか?」


 スピーカから音が聞こえる。


 [ザザ...現在、タイムトラベルに成功した....ザ]

 [勇敢なる───は、天の川において「プチ」────]


 少女はスイッチを切る。


 「世間は時空転位タイムマシン成功で賑わってるってのに、私は密航者と相手とは」

 「なっ密航したつもりはッ────」


 体を震わす、爆発音。


 「なんの振動だ?」

 「探知機レーダーに反応。おまけに海賊とは運がないわね」

 

 操縦席に座った少女は悪態をつく。


 操縦席上部に取り付けられたスピーカが震える。


 [ヒャッハーッ、暗礁経路なんぞ使ってんじゃねぇ]

 [ここは天下の海賊様の縄張りだァ]

 [通りたきゃ、金目の物をよこしなァ]


 世紀末な声が聞こえたと思えば、再び爆発音。


 各計器から音も鳴る。


 「なんか、マズくないか」

 「どう見てもピンチでしょうがッ」


 船体が────

    ────左右に揺れ


 俺の体もぐわんぐわん揺れる。


 「ちっ、振り切れないかッ」


 [へへへッ、おとなしく荷を置いてくんだな]

 [そうすりゃ精神ぐらいは]

 [ゴミ箱ジャンクヤードには飛ばさないでやる「ピッ」────……]

 

 少女は赤いスイッチを切る。


 「煩い連中よね全く」

 「でも、どうするんだ?」

 「密航者は、ちょっと黙っててッ」

 

 ちん/もく


 「ああ、この手は使いたくなかったけど」


 少女は赤いスイッチを再び押します。


 「聞こえますか、海賊クズども」


 [おいおい、女かよ]

 [積み荷の準備か?]

 [それとも俺達にサービスでもしてくんのか]


 スピーカからは野性的な声が返る。


 「まさか────【宇宙決闘法うちゅうけっとうほう】を申請ッ」


 [[[おいおい、正気かッ]]]


 向こうから驚いた声が、

 こちらからは真剣な声が、


 静かな宇宙にひびきわたる。


 「宇宙決闘法第一条ッ────」

 [面白い女だ────ライフが0となった者は敗北となる]


 [「この決闘に一切の偽りなしッ!!」]


 契約の切の字は、

 2つの船体を突き抜け、

 銀河に盟約として記録される。


 『【宇宙決闘法】承認されました』

 『賭けの対象をお選びください』


 「対象は、奴らの船────」

     [────積み荷と女だ]


 『等価であることを承認』

 『それでは、良い決闘を』


 目の前の操縦席コクピットが変形。

 少女の手元には、光るフィールドが形成される。

 

 虚空から、配られた札は5枚。


 (ポーカーか、いや絵柄が奇妙だ)


 とすればボードゲームの一種か?


 「先手は、速度の速い方がもらうわよ」

 [いいぜ、それぐらいはくれてやる]


 ガコンっという音とともに操縦棒が倒される。


 「私のターン────魔力を増加」


 計器のランプが1つ灯る。


 「そして、ターンエンド」


 手元で光る5枚のカードを見て、

 少女は動かない。


 [おいおい、正気か]

 [あいつ手札詰まってるぜ]

 [皆、笑ってやるな。失礼だろぅ]


 「好きに言ってなさい」


 [ならば、こっちは速攻で行かせてもらうぜッ]

 [魔力を使い、我がしもべ共ォを召喚ッ]


 海賊船の周りに現れるは、異形の化物たち。


 「ちっ、やっぱり黒-速攻デッキか」

 [海賊仕込みの速攻を見せてやるぜ]


 化物どもが襲い掛かり。

 船体が揺れる。


 画面の体力ライフは残り17。


 「速攻デッキ……」


 少女の発言を思い出す。


 先手後手、カード魔力マナ体力ライフ

 全部を纏めて考えると────カードゲーム。

 

 (だが、札を見る限り、知っているモノじゃない)

 

 そもそも、知る知らないより問題がある。


 彼女に勝利に、何故か俺の命運もかかっているってことなんだが。


 (どう考えても宇宙で男とか売り飛ばされるヤツですよね)


 嫌な想像で、頭が痛い。


 ◇◆◇


 『8ターン目です』


 少女の顔に焦りはない。


 [このアマ、粘性スライムをチマチマ出しやがって]

 [さっきから、俺たちの軍団と相打ちだとォ]

 [生意気なアマだぜ]


 「悪いけど、母粘性マザースライムがいる限り子粘性は増えるわよ」


 海賊で流行りの黒-速攻に、突破する手段は無いでしょ。

 

 「───この勝負貰ったわッ」


 少女はニヒルにほほ笑む。


 盤面は4 vs 3。

 数の上では優勢。


 [けっ、馬鹿が]

 「なっ、私の母粘性マザースライムが」


 無残に溶けていく母粘性マザースライム


 黒-速攻に破壊手段はないハズ。


 [最近、貴様のようなヤツが多くてなァ]


 コイツは流行りの粘性デッキを殺す為に作られた最強の黒-速攻

 ────除去多めの速攻だァ。


 [守っりゃ勝てるとでも思ったかぁッ]

 「だけど、盤面には3体の子粘性がいるわ」


 あんたのライフは3────殴ったら勝ちでしょ


 [おいおい、殴ってもいいのかなぁ]

 [お前のライフも3]

 [俺たちの残り魔力が見えないのかぁ]

 

 残っているのは、先の除去と等しい魔力。


 「ちっ、厄介なことを」


 下手に除去を食らうと、相手の攻撃を防げなくなるか。


 「ここは殴らず────」

 「いや、攻撃するべきだ」


 密航者が後ろから口を挟む。


 「なによアンタ、密航者のくせに」

 「生憎、ルールもカードも知らんが」


 ────思考回路ロジックなら知っている。


 「除去があるなら、さっき使ってる」

 「引かれてるかもしれないでしょ」

 「なら運が無かったまでだ」


 密航者は、真顔で話す。


 「正気?ライフが0=死よ」

 「どうせ除去あれば死ぬだろ。なら、前のめりに死ぬべきだ」


 私は口元が引き攣る。


 密航者のくせになかなか肝が据わってるじゃない。

 

 いや、切り札を破壊されてビビってたのは、私か。


 「────面白い、乗ったわッ」


 操縦棒を強く握り、私は指示を出す。


 総員、全軍突撃フルパン


 [んな、あのアマ、全攻撃してきましたぜ]

 [もしかして1枚だけピン差しってのがバレたんじゃ]

 [おい、馬鹿ッ。余計なことを言うな]


 つい私の口角があがってまう。


 「いい話を聞いたわ────覚悟はいいかしら」


 スピーカから流れるは、胡麻をするような声。


 [いやー、すんません]

 [ゴミ捨て場ジャンクヤードだけは許して]

 [他の奴らは売ってもいいからですとも]


 「大丈夫、全員売り飛ばしてあげるわ」


 一人だけ仲間外れは良くないものね。


 [[[ヒェッ]]]


 決闘にも勝ち、

 

 予想外のお金も入ったし。


 発破に免じて密航者は許してあげましょうか。


 ◇◆◇


 俺はほっと一息をつき、

 これからの事を思案する。


 (正直、海賊みたいにどっかに売り飛ばされのがオチだと思ったが)


 金髪少女は意外と優しく、 

 海賊のようにボタン1つで、

 消されたりはしなかったのである。


 あーだこーだと考えていると少女の声が聞こえる。


 「もうすぐ星に着くわよ」

 「もしかして地球ことかッ」

 「なに言ってんの、アンタの星じゃなくてワタシの星」


 少女は呆れた目で説明をする。


 「ここは銀河第13番惑星【イース】

  私の故郷の王国が存在する星でもあり、

  絶賛──────魔王軍と戦争中の星よ」


 かなり物騒な発言だが、

 俺の耳には少女の声など届かず、

 俺は宇宙船の窓に釘付けになっていた。


 ぱっと見は水の星。

 だが地球と大きく違う一点がある。

 それは宇宙からでも分かるぐらい世界が闇に包まれていること。 


 「冗談だろ」


 俺は呆然と呟くことしかできず、


 ただただ唖然とするばかりであった。

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