ともだち
@orsnnskdz
第1話 告白
春一番に吹き上げられた、柔らかそうな焦茶色の髪を見ていた。そこから覗く、血色の良い頬を見ていた。頬は鼻先と、耳と同じ色だった。私が急に立ち止まるので、隣から視線が向けられる。
「ねぇ、陽ちゃんさ、私たち、もうずっと2人でいるんだし、付き合っちゃおうか。」
声にしてから、我に帰る。一体、何を言ってるんだろうか。溢した言葉をしまおうにも、もう遅い。
幼馴染の陽ちゃんは私の1番のともだちだ。私は可愛くて優しい彼女が昔から大好きだ。けれども、穏やかで人当たりの良い彼女を取り巻く者は多く、もしかしたら彼女が1番のともだちに挙げるのは、悲しいかな、私以外の他の誰かかも知れない。クラスも部活も昔から違う。そんな私達が唯一、2人きりになれる時間。
それは、登下校。片道15分を1日に2回。私たちは小学校入学から、毎日一緒に登下校をする仲なのだ。2人して学校が指定した学区から外れている地域に住んでいるから、という物理的な理由がきっかけなのだが、そのおかげでこのポジションは、お互いに揺らぐことがなかった。彼女のことはずっと、好きだった。でも、それは単純に“親友として”の感情のはず、だった。
思いがけず自分自身の口をついて出た言葉を、飲み込めないままでいた。やらかした。青い顔で隣をチラリと見る。
「えーっ?何それ。冗談言わないでよ!ふふっ」
こちらを見ないままそう答えて、陽ちゃんはまた歩き出した。一歩一歩進むテンポは、先程より少し速い。
私のさも提案のような情けない告白は、あまりにもあっけなく笑い飛ばされてしまった。しかし、私にはむしろ、彼女に笑い飛ばして貰えた事は幸福だった。
「もっ、もちろん。冗談に決まってるよぉ」
急いで調達した笑みを貼り付けて答えた。平静を装ったつもりだったが、多分顔は真っ赤だっただろうし、汗もかいていた。動揺しながらも、告白しておいてこの返答は正直、苦しいと思った。苦しすぎるのだが、この告白ははじめから冗談だったのだ、と通す事で、私はどうしても守りたかったのだ。
陽ちゃんとのいまの関係性を、心地良い親友同士の関係を、彼女を独占できるポジションを。だから自分自身のことばを、彼女に本意が伝わらないよう、なんとか、誤魔化そうとしたのだ。
しかしそんなふうに、告白はさも冗談だったのだと誤魔化しているうち、奥底で燻っていたなにかを自覚してしまい、自分自身の誤魔化せない感情に気付いてしまった。
私は、彼女に対して、友達の領域を超えた感情を抱いてしまっている。
ともだち @orsnnskdz
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