#42「あれがレインボーバブル宮殿だ」
★★★
レインボーバブル南東部の密林。
色鮮やかな野鳥たちが驚きの声を上げ、一斉に飛びあがった。
生い茂る熱帯雨林で覆われた地表は暗いが、
光るシダ系植物の明りを頼りに必死に茂みをかき分け、浅い沼地を渡り、大きな樹木の裏に隠れる二人組の男たち。
身に着けた探検装束はボロボロで泥だらけ、顔や前腕、ひざ下は軽傷ながらも傷だらけだ。
背にした樹皮からズレ落ちるように根本に座り込んだ。
胸が張り裂けそうなぐらい暴れる鼓動。酸素を欲するように息を荒げる。
二人の男は魂の限り叫ぶのであった。
「かはっ・・・はあ・・・ちくしょ~~~~っ!!! 何だあれっ!?」
「7年前凍結された20億レインブル案件があった場所には、それ相当のお宝が眠ってあるって聞いたのにっ!!?」
20億レインブル。一生遊んで暮らせる額だ。
お宝の噂を聞きつけ、遠くはるばるレインボーバブルまでやってきたというのにっ!!
その瞬間、頭上の空気が裂ける感じがすると、背にしている木の幹がミシミシとゆっくりと倒れだした。
倒れる巨木から現れた巨影を目にした二人はお互い抱き合うように絶叫した。
「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!」」
★★★
レインボーバブル王都スパークリングス。
密林を抜けて視界が開けると、広大な都市が広がっていた。
白い石造りの建物が並ぶ特徴的な街並みだ。水路が多く、小船で移動する者や釣りをする者も居たりと、ここは正に水の都である。
ぐらたんたちとギルドのハンターたちが乗る軍用車両数台が街を走っていく。斜面を下ると水路に入っていった。
車両の足回りが変形。ホイールがせり出してパドルになった。
水陸両用車だ。暑い環境の中、風を浴びながら水路を進むだけでも涼しく感じる。
「すごい・・・変形した!」
「ホイールがパドルになってるギャン!」
目を輝かせたネビロスとウンギャンは頭を出して、水面を眺める。
目の前、助手席に座るネネは振り返り答える。
「タイヤも大きいし、整備によっては起伏の激しい砂漠地帯も走破できる」
運転しているハンターのオオカミっぽい獣人も補足を入れる。
「後、ソリに換装すればバニラホワイト雪原も走れるぜ! レインボーバブルの色んな環境に適応できるようになってるのさ」
「「へえ~!!」」
二人は感激する。アギャンは2人の様子見てつぶやく。
「ふふ・・・二人とも、こういうの好きだギャン」
「そうだね~」
カオリも楽しそうにしている2人を見ては微笑む。
ウンギャンはアギャンに振り向く。
「ギャン! 変形はロマンだギャン!」
「ああ! そうだな・・・なあ、ネネ。他に後ろから天井が覆って、潜水出来たりとかないか?」
「・・・。それはないな・・・・・・」
ネビロスの質問に戸惑ったネネは静かに答えた。
「そうか・・・」
残念そうに返事すると、運転手はフォローを入れる。
「潜水か・・・。いいなそれ! 後でメカマンに言ってみるぜ」
やどりんも反応して、前席の背もたれに寄りかかる。
「お! バンパーが展開してそこからミサイルが出たり、ドリルが出てきたりするのはどうだ? リアにロケットエンジンも積んで加速力もアップさせたり・・・」
「は、ははは。スパイ映画みたいにそこまで魔改造できるかどうか・・・」
岸に辿り着き、再び道路を走り出す。車両は元の形態に変形した。
中心都市に着いたのだ。
ここからは高層ビルが多くそびえ立つ。さらに奥には王宮が見えてきた。
「見えてきたぜ。あれがレインボーバブル宮殿だ」
「キミたちを王宮に送り届けた後、我々はギルド本部に戻って報告をする。そこでお別れだ」
「承知! えーと・・・」
偽物は幼いネネちゃんだったが、今はネネさんと呼ぶべきか・・・
「ネネちゃんで構わない」
ネネは少し照れた様子で答えた。
「うん! ネネちゃん。ありがとー!」
ぐらたんは笑顔で返事をする。
白いワンピース姿のぐらたんはよりいっそう天真爛漫さが際立つ。
ネビロスはその眩しい笑顔に静かに見とれていた。
「? どうしたの? ネビロス様」
キョトンと首を傾けながらネビロスに目を合わせたぐらたん。
急に目が合ったので顔を逸らし、誤魔化すようにネビロスは聞いた。
「・・・そういえば、ぐらたん。ローブはどうしたんだ?」
ぐらたんはしばらく沈黙すると、めいいっぱい口を開けた。そのまま開いた口が塞がらない。
「あーーー!! 蜘蛛の巣に引っ掛けたまま取るの忘れたーーー!!」
「そーか・・・でもそのワンピース姿も、・・・ぃいな」
思わず自然とネビロスの口から出た言葉に、ぐらたんは反応した。もちろん最後の言葉はしっかり彼女には聞こえている。
「えっ! 何? ・・・もう、ネビロス様ったら~・・・。もっと可・愛・い・って言っても・・・いいんだぞ?」
ぐらたんはほっぺに両手を当てて照れているが、彼女の言葉は若干ワザとらしさも感じる。彼を煽るようにも聞こえる。
「・・・」
ネビロスは反応に困って黙り込む。
「もー、何か言ってよ。ネビロス様ー!」
「ネビロス君、もう一度なにか一言!」
横でカオリも横でほっこりとした表情で旅館のお土産コーナーで買ったお菓子を口に運びながら、からかう。
「・・・」
後部座席での甘酸っぱい雰囲気に運転手は苦笑いする。
「ぷははは。いいね、いいね~。しかし少年、紳士なら会話を途切らせちゃダメだぜ? あーあ・・・オレも仕事が終わったらまたトトネちゃんのところに・・・。ゴメンなさい・・・」
横からのネネの視線を感じ、ビビりながら運転手はしばらく黙ると、カオリに話を向けた。
「お、そーだ。カオリちゃんだっけ?」
「なんですか?」
「アンタ、クー・シーだろ? においで分かった。オレも似たようなもんだ。気を遣わず隣のガーゴイルちゃんみたいに、元の姿でもいいんだぜ? ドルチェルじゃ珍しいが、ここいらじゃ結構亜人族は珍しくもなんともない。まあ、シークワースほどじゃないがね」
「そうなんですね~」
街を見渡してみると、ケモ度の高い人をちらほら見かける。
「この大陸の北西部、シークワース大公国か・・・行ったことないが、モフモフパラダイスだと聞く」
目を光らせたネビロスは通り過ぎるたびに獣人に目が行き、最終的にカオリに視線を戻す。期待の眼差しで見つめる。その彼にはぐらたんからの鋭い視線が刺さっているが・・・
カオリは苦笑いで運転手に向き直る。
「あ、ありがとうございます。また羽を伸ばしたいときにでも」
王宮の門が正面に見えてきた。
バックミラー越しにネネは目線を後部座席のぐらたんたちに合わせる。
「そろそろだな。事前にドルチェル国王経由で話は通してあるから、そのまま直ぐに王宮に入れる」
「ああ、何から何まですまないな」
ネビロスはドルチェル国王の紹介状を一旦ネネに手渡した。
「なーに・・・母さんの件を手伝ってくれたんだ。これくらい安いものさ」
門の前で停車すると、ネネは降りて門兵に話かけに行った。
手続きは進むが、
「何? 私が居ないときにそんなことが!? ・・・・・・そうか、分かった」
門兵と色々話しているうちにネネが戻ってきた。
気難しい顔をしている。
「どうしたの? ダメだったの?」
ぐらたんは心配そうに聞くが、
「いや、そこは問題ない。 急遽私も同行することになった。 はあ・・・」
ため息をつくネネにアギャンは聞いた。
「我々としてはネネがいてくれるのは頼もしいギャン。どうしたギャン?」
「・・・。大したことはない・・・・・・ただ、陛下は色々と・・・できれば会いたくない。キミたち、陛下に会ってもくれぐれも驚かないでくれ」
ネネは助手席に戻る。
レインボーバブル国王・・・一体どんな人物なのか・・・
魔界皇帝もかなりの変人だから、そういうのは慣れているが、こちらの王もどうだろうか・・・
ぐらたんは気になって考える。
「悪いがキミたち・・・ここで降りて待っててくれ。私は支度をしてくるから。・・・お前は、あの二人のフリーハンターにきっちり指導するよう事務所に伝えておいてくれ」
「・・・はいよ。なにやら面倒な匂いがしてきましたぜ」
ぐらたん達が降りた後、運転手はハンドルを回し、方向転換する。
ネネを乗せた車は走り去っていった。
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