#41「我々の協力はそきょまでだ・・・!」

翌日、ぐらたんたちはここら北東、レインボーバブル王都スパークリングスへと向かう。ロビーでチェックアウトを済ませた。



「本当にありがとう。アナタたちには、迷惑をかけてしまって・・・・・・本当にごめんなさい」



部屋鍵を渡してカオリはウインクした。



「いえいえ、私たちはアクムーンで困っている人たちを助けるために旅を続けるのですから。・・・・・・それに曰く付き宿みたいで退屈はしませんでしたよ? また遊びに行きますから!」



カオリは笑顔を見せ、ぐらたんたちも微笑んで見せた。

その横で、ネネが話しかけに来た。



「キミたちの活躍のことは王国政府から聞いている。ドルチェルのことや犬神少女のことも・・・・・・おっと、今更だが自己紹介がまだだった。私は間宮ネネ。国王陛下のところまで私が案内しよう」



「へえ~、私たちの活躍がもうこの大地まで!? よろしく、ネネさん」



カオリは握手を交わした。



「!? 国王陛下のところまで・・・。ネネ、一体何者なんだ?」



ネビロスは驚く。国王と直々に会うことができるということはタダ者ではないことに。



「ああ! ネネ隊長はスパークリングス治安維持ギルドの魔獣対策課課長だが、実はな・・・・・・レインボーバブル防衛軍王宮騎士団の騎士少佐殿でもあるんだ。オレたちにとって戦乙女なんだぜ! ・・・ちなみにトトネさんはオレたちの女神!!」



ギルドのハンターの一人がやってきては説明した。ネネは眉間に皺を寄せ叱る。



「・・・。我々も撤収する。無駄口を叩いている暇があったら、車の準備しておけ!」



「は、はい! ・・・ただいま!!」



「全く・・・」



ネネは、駆け足で持ち場に戻っていくハンターの青年を見届けては、ため息をつく。



「すごい! 戦っている姿が凄いカッコいいと思ったら、本物の騎士さんでしたか!!」



カオリは目を輝かせ、ネネを見上げていた。



「あ・・・いや、気にするな・・・・・・。私はそんなに・・・。そろそろ手を離してくれ」



「あ・・・ごめんなさい」



ネネは少し顔が赤くなって、顔をそっぽ向けた。頭部にある赤い単眼の瞳が荒ぶるように泳いでいる。


カオリは握手する手を離した。



「ネネさん? ・・・意外と可愛いとこあるな・・・・・・」



「・・・うっ。陛下のところまでだ・・・! 我々の協力はそきょまでだ・・・! うっ!」



しまらないネネは振り返ると、肩に力が入った状態でハンターたちの方へ歩いていく。



「カオリ・・・ぐらたん、僕たちも行こう」



ネビロスも後に続いて、到着した軍用車両に飛んでいく。



「うん!」



「そうね! 冒険の再開と行きますか!」



ぐらたんとカオリも後に続く。



「綺麗にシメてんじゃねーぞ? 客全員の面倒を見た後は、ミントの修復だ・・・。くそお、ミントロッドを折りやがって・・・」



寝不足が溜まり、グッタリとしているやどりんはアギャンに担がれながら喚くのであった。





☆☆☆


密林の中、船虫は立ち止まっていた。まだ未練があるのか、後ろを振り返っては旅館を見る。



トトネ、ネネ。良かったな・・・。アタシのことはもう忘れて、家族と楽しく暮らせ。

あばよ・・・アタシのトモダチ・・・



気づかないうちに、目が潤んでいた。目を手で拭ってそれが涙だと気づいた。



へ・・・まだ泣くことができたなんてな・・・



「それにしても・・・トトネはどこでアクムーンを・・・。しかもアクムーンが自我を持つなんて・・・きーてねーぞ」



懐から自身が所持していたアクムーン結晶体を取り出しては眺める。



タマモ様に聞かねば・・・



ふと顔を上げると、蜘蛛の巣が張っていた。この間の戦闘でビーストが張った巣である。



「ん? あれは?」



船虫は巣に黒い衣服が引っかかっていたのに気づいた。

鎌を取り出して切り裂く。



コイツは・・・!? ナスビ犬のローブじゃねーか!!



切り取ったものの、ベッタリと蜘蛛糸がついた黒いローブを手に取る。ほんのりイチゴの香りがする。袖や裾には金糸で淵取られている。裾の淵に刺繍されているエンブレムに驚く。



「魔界帝国軍魔導士官ローブ・・・。アイツ・・・!」



こんなもん街中で着て・・・よくバレねーな・・・。

こんな紋章を掲げれば、天界側の過激派に襲ってくれと言っているようなものだ。今までこんな目立つものを自分が気づかなかったのは、ヤツの魔術によるものか・・・



襟裏のタグには「F.M.M」と刺繡されていたが、襟元についているドッグタグの方に目がいく。


ドッグタグを手に取る船虫。


その拳より小さめのメダルには帝国ラボラス伯爵家の紋章、裏には階級章と所属と名前、グラーシャ・ラボラスと刻印されていた。



「ラボラス家・・・・・・ブラッディードッグ・ヴィルか・・・」



ヴィルヘルム・ラッペンマイヤー・ラボラス伯爵。血塗れの猟犬ブラッディードッグヴィルという異名で知られている。



天魔戦争末期、旧魔界連合時代から天界に最も恐れられた海軍最強の魔犬。彼の手によって壊滅した艦隊は数知れないという。魔界にとっては帝国という新時代を切り開いた一人として英雄的な存在だが・・・


あの血も涙もない、天使どもの血を吸ってきた殺戮マシーンが娘を・・・? 


へっ、そんなヤツが他者を愛せる心を持ち合わせていたとはな・・・・・・



「おっと、こんなところで油売ってる暇はねえ・・・・・・放置するのもマズいしコイツは回収するか・・・」



船虫はローブを折りたたんで懐にしまうと、札を使ってゲートを開き、密林から姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る