#40「ネネ・・・おかえり」
目の前の娘。
トトネは信じがたい出来事を目の当たりにして言葉が出なかったが、ようやく口を開いた。
「ネネ・・・」
「え!? でっかいネネちゃん? もう何が何だか・・・」
ミントは長身の少女をただ見つめる。
「!!? そんなバカな!! ありえない! ボクが・・・ネネなんだあーーー!」
頭部が再生したビーストはネネに襲いかかる。
鋭い前脚を繰り出し、蜘蛛糸を吐くが、
ネネはその場から跳躍してビーストの攻撃をかわした。
「え!?」
ビーストが気づいた時には、前脚が切断されて目の前に落ちていた。そして次第にビーストの体が縦半分にゆっくりずれ落ちる。
ビーストの後方にはすでにネネが振り下ろした大剣を再び背中に背負う姿があった。
「悪いが、私はそんな人間離れした姿じゃない」
真っ二つに割れるビーストを背後に、右手で背負った大剣に手をかけたままネネは振り向く。
その様子を見ていたミカンは両手を合わせて感激していた。
「か、かっこいい!」
しかし、真っ二つになったビーストは再生して間も無く起き上がりネネに振り向く。
「おのれ~!!」
「ちっ・・・やはり、私では倒せないか・・・キミたちに任せる!」
ネネは両手から蜘蛛糸を出して、ビーストの脚部を絡めとり動きを封じた。
「ミカン! お願い!」
「オッケー! 任された! イヌガミック・ドライブ!」
ミカンは神通力を集中させ、ビーストの上に飛び上がった。
「シトラスカット・ストライク!」
勢い良くブレイドをビーストに一閃すると、ビーストから激しい光が迸る。
「・・・。心が落ち着く・・・・・・トトネ、娘にやっと会えたんだね・・・・・・願いは叶えたよ・・・」
穏やかな表情になって、ビーストは浄化された。
呆然とトトネはビーストを浄化されていくのを見ていた。
放心する母親の前に、ネネが歩み寄る。
「母さん・・・30年振りだね」
優しく声をかけると、トトネは娘に抱きついた。
「ネネ・・・おかえり。ごめんなさい、私は・・・・・・ただ・・・」
「もう済んだことだよ・・・私の部下たちは現に無事だ」
横で嬉しそうな船虫が見ているのにネネは気づいた。
「ひひひひ・・・ネネ。大きくなったなあー」
船虫は彼女を見上げると、ネネは船虫を抱きしめた。
「ふーねーちゃん!!」
「ぐえ・・・!! ネネ。 やめろって!」
船虫は照れくさそうに頬を指で掻く。
その様子を見守る中、
「30年!! そんなに!?」
ミントはブランクを聞いて驚愕する。ネネが大きくなっているのは納得出来た。ネネがまだ若く見えるのは、彼女もまた女郎蜘蛛の妖魔であることだろう。
「えへへ。でも、本当によかったねえ! 女将さん」
ミカンは横でじんわりと涙を浮かべていた。
旅館を巻き込んだアクムーンによる事件は幕を閉じるのであった。
☆☆☆
「そうか・・・・・・そんなことが」
「我々がいい夢を見ている時そんなことが!!」
「不覚だギャン・・・」
ロビーカウンターの上で雁字搦めにされていたネビロスは無事救出された。
アギャンとウンギャンも無事に解毒されたようだ。
女将や船虫、ネネのことや、ことの顛末を聞いた。
「神々と魔族との大きな戦争があったのは知ってるわよね。30年前、既に天魔戦争は終結したけど、世界ではまだ続いていたわ。疲弊した神々は神威を取り戻すために、魔女狩りならぬ残党狩りを始めた。干支十二国に近いワタノは地獄だった——」
30年前、天界連邦軍と魔界帝国軍との第7次パンデモネア海海戦を最後に天魔戦争は終戦を迎えたが、人間界では取り残された旧魔界連合時代の残党軍との小競り合いは続いていた。それはワタノ島でも例外ではない。
ワタノで宿を経営していた女将トトネは、疲れ果てた人々に分け隔てなく宿を提供し料理をふるまったが、客の中に魔族が潜伏しているということで残党狩りが押し寄せてきた。隠れていたのは本当のことだと分かり魔族を幇助したということで、暴動に巻き込まれてしまった。トトネの家族はバラバラに。娘ネネともそこで生き別れてしまった。
残党狩りに追われる中、船虫と共にレインボーバブル大陸に逃げて来た。
落ち着いてきた頃にこの地で経営を再開したが上手くいかず、たまたま拾ったアクムーン結晶体が娘に化けた。そのアクムーンがトトネの願いを叶えるために悪さをしていたが・・・・・・生き別れた娘は実は生きていたという。
「——ゴメンなさい・・・アナタたちを騙して、巻き込んでしまって・・・」
泊まっていた客も無事解毒され、ロビーに集まっていた。驚くことにほとんどが討伐以来を受けたハンターギルド、ネネの部下たちだった。全て、やどりんが解毒処置を施したのだ。
トトネはハンターたちに深く頭を下げた。
彼らはざわつく中、
「・・・。頭を上げてください、トトネさん! オレたちは毒でアナタのことを好きになったのではありません! アナタが作ってくださった手料理。この綺麗な旅館。全て覚えています。それにアナタ自身、お美しいのは変わりありません! たとえ、隊長の母君だとしても」
前に出て来たハンターの青年は膝をつき、彼女の手とった。トトネは意外な行動に戸惑う。
周りは笑顔で声を上げる。
「私も!」「オレも!」「ワシも!」「僕も!」
目の前の青年は口を開く。
「みんなが・・・アナタ自身に心奪われているのです! おつらい過去、お察しします。みんな一人で頑張ってきたアナタを支えたい! だから、オレと付き合ってください!」
「ええ!!? ど、どうしましょう・・・」
トトネは頬を赤らめて戸惑う。
「きゃあ~! 告白だあ!」
カオリは口を押さえてテンションが上がっていた。
しかし、真っ先に告白した青年の後ろは黙っていなかった。
「何~!! 貴様ずるいぞ!!」「許さね~!」
「うおっ!」
トトネの前にいた青年は引きずり出されて、我先へと次々に別のハンターが彼女の前に躍り出てはまた引きずり出されて、次第に乱闘になってしまった。
「あ、あちゃー・・・。 でもモテモテだね、女将さん」
ロマンティックな展開を予測していたが外れてしまい、苦笑いでカオリは見守る。ネネは不機嫌な顔で前に出てきた。
「貴様ら~!! 私の母に手を出すんじゃない! 父はまだ生きているし・・・・・・それに、貴様らは分かっておきながら、こぞって任務を忘れて遊んでいたのか!! このていたらく・・・帰ったら始末書だ。覚悟しておけ!」
「「「「「「「!!?」」」」」」」
男ども全員が固まった。
「そ、そんなあ・・・・・・」「酷いですよ隊長~」「それは毒のせいです・・・」
むくれているネネ。自身を差し置いての母の人気に焼いていたのかもしれない。
「コウイチも生きてる・・・?」
トトネはネネに聞いた。
「ええ。王都に・・・父にも会ってあげて。父の変わりようにビックリするかもしれないけど・・・」
「あー、コウイチはただの人間だったなー。今じゃもうハゲてんじゃね? ひひひひ」
横で船虫は笑うと、ハンターの一人が近寄る。
トトネは下を向く。
「でも、私は・・・・・・出頭しようと思うの、討伐依頼の上がっていたアクムーンの魔物をけしかけたのは私自身なのだから・・・・・・しっかり罰は受けたいの」
「しかし、そこまでしなくとも我々は・・・」
ハンターたちは騒めく。その時船虫は不適な笑顔で声を上げた。
「ひひひひ! 貴様ら~! 誰かを忘れちゃ困るなぁ!!」
彼女の声で、みんなが振り返る。
「たしか船虫さん? トトネさんのお知り合いなら・・・・・・是非とも後でお食事にでも!」
「はあー!? ちげーよ!! ちょーし乗んなよ能天気ヤロー・・・・・・! まあ、バッタに改造されてジャンプキックができるようになったら考えてもいいぜ・・・ってそんなことはどーでもいいんだよ!!」
みんなが静まり返る。
「馴れ合いはもうお終いだぜ? アタシはナイトメアユニオンの船虫! アクムーンを使ってこの旅館に仕組んだのは全てアタシだったんだー!!」
船虫は歯を剥き出して笑う。
「・・・!? そんな・・・・・・アナタを捕らえて、ネビロス君のことを聞き出したのは私だし・・・私もアナタに酷いことを・・・・・・」
ぐらたんは手を差し出して、トトネを止めた。
「・・・。悪いけど、トトネ。あの虫が言っていることは間違っていない。私たちはアイツらと戦ってきた。アイツは人々に絶望をもたらすナイトメアユニオン・・・!」
「そんな・・・」
ネネも驚愕し、黙り込んでしまった。
「そうだぜ、ナスビ! さあ、アタシを捕まえな!! 捕まえれるもんならなあ!! アディオス!!」
船虫は黒い残像を残して消え去ってしまった。空いたエントランスの扉が閉じていく。
トトネは思い詰めた寂しそうな表情で扉をただ見つめる。
「母さん・・・ふーねーちゃんは・・・・・・」
ネネは心配そうに顔を覗くが、
「あの子ったら、またそうやって・・・」
ロビーが静まり返る中、再び、勢いよく扉が開くと、息を切らした船虫が戻ってきた。
「ぜえ・・・・・・おっと、言い忘れてたぜえ・・・。タマモ様やレヴィアタンは、北のバニラホワイト地方、フローズンショコラマウンテンでお待ちかねだ! 飼い主の封印を解きたきゃ来な!! そこがキサマら犬神少女の墓場になるんだ・・・・・・!! アディオス!!」
すると再び船虫は目にも止まらぬ速さで走り去った。
フローズンショコラマウンテン・・・
そこに邪龍レヴィアタン・・・すみれが待っている。アイツといずれ決着をつけなければならないのか・・・
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