レインボーバブル編

#34「海行こうよ!」

ドルチェル大陸から旅立つ前に国王に渡された文書を見ては彼の言葉を思い返すぐらたん。


—今日、君たちを呼んだのは、勇者風守ユーマから献上された物について、話しておきたいことがあるのだ。ハーディニル魔王国に、討伐命令を依頼したのは、私たちで間違いない・・・。他にレインボーバブル王国国王、そして当時バニラホワイトポリス自治区首長・・・現バニラホワイトポリス大統領であるな。彼らも共に勇者に依頼したのだ。そして、勇者は私以外にも、魔王国から得た戦利品をその2国に献上した。二人に会えばネビロス殿のこと、何かわかるかもしれない。二人への紹介状を書いた。これを持って、レインボーバブル大陸に向かいなさい。私は・・・改めて、あの魔王国について深く考えていく必要がある― 



レインボーバブル国王、バニラホワイトポリス。

この先に、ネビロス様の秘密が分かるものがあるというのか。世界の均衡を破るナベリウスの遺産。これが明らかになってしまった場合、私は・・・



⭐︎⭐︎⭐︎


レインボーバブル王国、大陸最大の国家で水産物と交易が盛んで豊かな国だ。強い日差しの下、メロンソーダ港に犬神少女たちは降り立った。停泊場から広大なビーチが見える。赤道付近に近いここの気候は常に夏だ。そのため世界中から沢山の旅行客が海水浴にくるというが、この場には観客があまり見当たらない。波を打つ音が聞こえるのみで静かなものだ。


ひとけの少ないことに違和感を覚えながらも、ぐらたんたちは綺麗な景色に感嘆した。

カオリが潮風を浴びながら振り返る。



「うわあー、すっごーーい! キレイ! 見て見て、ぐらたん! 透き通った青い海・・・泳いだら気持ち良さそう!」



「そーだね! それに、釣りもやってみたいな~」



カオリとぐらたんは、真っ先にビーチに押し寄せる波を眺める。



「ああ・・・海か・・・。嫌な思い出しかないギャン!」



「そーだギャン!」



アギャンとウンギャンはズーンと気分が落ち込んでいる。そういえばフェリーでも物静かだった二匹。

ぬいぐるみであるネビロスはアギャンたちに聞いた。



「何かあったのか?」



「我々、泳げないギャン!」



「元々、お嬢様のお父上の関係で、海で仕事してたギャン・・・。遠泳訓練で海に放り出されたり・・・死ぬかと思ったギャン」



「んん? 魂の移送船かなんかか? 別に泳ぐ訓練なんかあるはずは・・・。とにかく、大変だったんだなー」



「ギャン・・・」



ネビロスは順番にアギャン、ウンギャンの頭にポンっと手を乗せる。



「ネビロス様ーー! 海、海行こうよ! せっかく来たんだから」



ぐらたんは手を振って叫んだ。

そして、ネビロスの後ろの方で、やどりんがフェリーから降りてきた。



「おい! お前ら! 遊びに来たんじゃ・・・ねーーんだからなあ!!」



荷物を運ぶ彼女は大きめTシャツ、そしてサングラスを身につけていた。

完璧なまでに海辺の装い。

様になっていた。



「お前さんが、一番楽しみたいようだな・・・」



「うるせーよ・・・」



赤面したやどりんはそっぽ向く。

ネビロスは、ぐらたんたちの方に向き直る。



「よし、船の長旅に疲れているようだし・・・ここは、3日はこの辺で滞在して行くか」



ネビロスの提案にやどりんは、グッと両手を握り込む。



「まじか!!」



ぐらたんとカオリは歓喜する。二人はぴょんぴょん飛んではしゃぐ。



「やったーー! ネビロス様、太っ腹!! 楽しもー!!」



「うん、うん! お金は問題ないよ! 沢山あるから、存分に楽しもーー!!」



国王から頂いた軍資金もあるが、元々の帝国軍の軍資金があるので全く持って心配はない。最悪、支給が止まっても錬金術で金を生成するのはお手のものだ。ぐらたんはニヤニヤが止まらない!


その様子を見て、カオリも悪い顔をする。



「どーしたの? ぐらたん? ははーん、さては、ネビロス君と二人きりになるつもりだなー!?」



「ふぇ!? ああ、そーだね! 夕暮れのビーチでネビロス様と・・・・・・わふふ」



また茶化されて、困惑したが、自然と脳内でデートのシミュレーションをしてしまうぐらたんだった。予想外の反応で、カオリは少し悔しがった。



「ああー、流石に耐性ついちゃった? 全くこの子は・・・って、あれ?」



気がつくと、その場には二人しか残されていなかった。

ネビロス他は、ビーチに向かっていた。

やどりんが気づい手を振る。



「おーーい! 置いてくぞーー!? 二人とも!!」



ぐらたんとカオリは急いで、後を追った。



「「ま、待ってよー!!」」





☆☆☆


準備を済ませた後、ぐらたん一行は一斉に砂浜にダッシュした。


ぐらたんとカオリ、やどりんは海に飛び込む。


暑い日差しの中、体に伝わる海水がひんやりとしてて気持ちいい。


ぐらたんは、砂浜の泳げない組のネビロス、アギャンとウンギャンが目のつく範囲で浅瀬を泳ぐ。


潜れば、目は少ししみるが海水は透き通るように綺麗なものだ。海面の下は少し青みのかかった世界が広がり、海藻が揺れ、色とりどりな小魚たちが泳いでいてとても幻想的だ。


海面に上がって、ぐらたんは手を振る。



「ぷはーー、ネビロス様~!」



砂浜の方で、アギャンとウンギャンたちとバーベキューの準備をするネビロスは気付き、手を振ってくれた。


ぐらたんは口元まで顔を沈める。



やっと、ネビロス様と一緒にこうして楽しい時を過ごす。とても嬉しいことだ。しかし、ぬいぐるみの姿で海水に浸けることが出来ない・・・。折角の海を一緒に泳げないのが不満だった。


カオリがこちらに泳いで来る。



「ぐらたん! どう? 岸まで競走する? どちらか速くたどり着けたら、バーベキューのお肉を多めに頂くってのは?」



「え~! お肉は均等に分けるんだから・・・。でも、勝負はしよう!」



「オッケー! レディー・・・」



「ゴー!」



ぐらたんとカオリは岸に向かって泳ぐ。

どちらも犬カキだ。



「やるね・・・。だった、おねーちゃん、本気だすぞお!」



カオリは元の妖精の力を解放して、クー・シーの姿に戻った。三角耳と、フサフサな尻尾が生えた。カオリがスピードアップした。



「あー、ズルい!」



「にひひー! 本気出すって言ったでしょ?」



底に足がついて腰あたりの深さにくると、



「とう!」



水しぶきを上げ高く跳躍すると砂浜に着地した。



「ふふふ・・・私の勝ちだね!」



「う~~~・・・」



ぐらたんは、競争に負けて悔しがる。ふと、あさっての方向を見て、ぐらたんはカオリを呼んだ。



「ねえ、カオリちゃん。こっち、こっち・・・」



「ん? どーしたのぐらたん」



カオリはぐらたんのところまで泳いで戻る。

ぐらたんは、カオリの耳に手を当てて小声で話す。


あさっての方向、やどりんが浮き輪の上に寝るように浮かんで、何かしら携帯端末をいじっていた。


ぐらたんの言葉に、カオリはニヤリとする。



「ほほう、ぐらたん・・・。キミはなかなか悪よの~」



「いい? せーので、行くよ?」



ぐらたんとカオリは、悪そうな笑みを浮かべて、海面の下に消えた。

やどりんの真下にきて、一斉に海面にとびだす。



「!!? どえええ!?」



浮き輪ごとやどりんはひっくり返った。


やどりんは浮かび上がり、



「お前ら・・・!! このーーー!!」



やどりんは腕を払い、水を2人にかける。



「やったなー! 反撃ーー」



お互いに水を掛け合い、3人ははしゃいだ。




☆☆☆


ぐらたん達が海ではしゃいでいる中、砂浜でパラソルの影の下、ネビロスとアギャン、ウンギャンの泳げない組はバーベキューの準備をしていた。とは言ってもまともに作業できるのは人間体のアギャンであるが・・・。



「お肉よ~し! お魚よ~し! お野菜は・・・いいギャン」



無人だった海の家から拝借したテーブルに串を通した食材を並べるTシャツ姿のアギャン。



「おねーちゃん。キャベツくらいは買えばよかったギャン・・・」



「う~ん、ここのお野菜よくわからなかったし、バーベキューに合いそうなのなかったギャン」



「いや、だからキャベツ売ってたのに・・・」



横でネビロスは黙々と作業を続ける。コンロに木炭を入れて金網をかぶせる。



「ふ~。この体もだいぶ慣れてきたが、いろいろ大変だな・・・。ウンギャン、頼んだよ」



「承知! ファントムフレイム」



ウンギャンはコンロに向かって両手をかざすと、幾何学模様がコンロの中に浮かび上がる。しばらくして淡い赤色の小さな火が炭から発し、コンロ内で広がっていく。



「ふふふ。ネビロス様、我々の苦労わかってもらえましたギャン?」



アギャンは腰を手に当てて、得意げにネビロスを見下ろす。


なんだか大きく見える彼女に主従関係が逆転したような気分であった。しかし、



「そうだな・・・。 うん、いや。このモフモフな体も悪くないなあ。・・・いや、合成繊維だし、やっぱり本物の毛ざわりには負けるか。しかも肉球の質感は全く違って最悪。う~~ん・・・」



緩んだ表情でネビロスはぷにぷにと自身の頬っぺたをサンドイッチするように触ったあと、真剣な顔つきになって深く考え込む。その様子を見て二匹は少し身を引いた。



「な、なんだよ? さっきからジロジロと・・・。 お前たちは間に合ってるだろ!?」



「「それはこっちのセリフだギャン・・・」」



彼の心中を察したアギャンとウンギャンは声を揃えて言い返すと、ネビロスは言葉に詰まり後ろを振り向く。



「う、うるさいな・・・。もう準備はできたことだし、3人を呼び戻すぞ・・・ おーい! 準備が出来たからそろそろ飯にしよう!!」



ネビロスは波打ち際へ飛んでいく。



「はあ、どうしてお嬢様はネビロス様を・・・」



アギャンから漏れたぼやきに、ウンギャンは苦笑い。



「答えるまでもないギャン」

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