#33 「はあー。監視隊の言う通りになったねー」

魔界帝国陸軍本部サタナキア中将の執務室。


サタナキア中将閣下は、ホログラムに映る悪魔から報告を受けた。


「そう・・・やっぱりそーなるのねー? 分かった。引き続き監視を頼むよー。え~? 怒らないでよー、キミの好きなレーションもっと送っておくから・・・。うん、頼むねー」


通信が終わり、ホログラムは人間界ドルチェル王国王都の戦闘映像に映りかわった。


ネクロプライヤーを持ったイチゴミントの映像。ぬいぐるみに宿るターゲットの少年。


さっき報告に来た悪魔から届いた映像である。


映像を見返していると、ノックする音が聞こえた。


「どうぞーー」


サタナキアが声をかけると、制服姿の青年が入って来た。


「失礼します。閣下」


入ってきた悪魔は敬礼するとサタナキアも敬礼を返す。ぐらたんが所属する陸軍人間界方面軍戦略侵攻部隊を束ねる司令、バルバトス大佐だ。


「ラボラス少尉からの伝文です。「我、そのままターゲットを監視し、レインボーバブルに向かう。及び、ナイトメアユニオンの殲滅を推進する」、以上です」


バルバトスの報告を聞き、サタナキアはため息をつく。


「はあー。監視隊の言う通りになったねー。ばるたん、万が一のこともあるから、念のため軍備を整えておいてー」


「はあ・・・閣下。まさか・・・・・・!? 私は賛同しかねます。彼女は少々問題ありますが、あの英雄ラボラス准将の御息女。それに、幼い少尉とは遊んだこともあります」


バルバトスは人間界の大々的な軍事介入を否定した。


「ばるたん。これをどうみる?」


サタナキアはドラゴンタイプを倒すイチゴミントの映像を見せた。


「ああ、これが例の。犬神少女ですね」


「あーごめん、そうじゃないんだー。ぐらたんたちが使った魔術さ」


「それが何か・・・」


「これは、おなべちゃんが開発した死霊魔術の一つ。彼は優秀な死神でもあり、死霊使いでもあった。この少年が使ってみせたということは、ナベリウスの遺産の一部が解き明かされたみたいだ。このままだと全ての遺産が解放されることになる。そうなるととても危険だ」


「!!? ・・・しかし少尉が裏切る可能性は・・・」


「あまり考えたくないけど、ないとは言いきれないねー。彼女がスペードのエースを握っている限り、今の彼女は危険だ。私はともかく、他の上層部の連中は黙ってないはずだよ。正直・・・私もこんなことはしたくないんだけどね~。全く・・・こちらもなんとかそうならないように、あすたろーに言い訳を考える。彼女に目をつけられてしまってはおしまいだ。だから、キミも武器を磨く振りさえしてればいい」




あすたろー・・・。


陸軍のトップ、アスタロト元帥のことである。中将閣下は何かとあだ名をホイホイつけたがる・・・


確かに、陸軍最強の魔竜「クリムゾン・ヴァイパー」の異名で知れ渡る彼女がナベリウスの遺産のことを知ってしまうと、黙って見てはいないだろう・・・


あの紅い暴れ竜を黙らせるのには、やはり陛下にもお力添えを・・・




「はっ! ・・・して、皇帝陛下にはいかが説明するおつもりで?」


サタナキアは吹き出した。


「陛下あ? ダメダメー・・・あの変態ポンコツおバカさんに話すだけ話がややこしくなるから無視だよー! まあ、陛下はぐらたんを絶対支持すると思うけど・・・」


「そ、そうですか・・・そうですよね・・・。了解しました。できる限りを尽くします」


バルバトスは部屋を後にした。




・・・ナベリウスの遺産。いくら少尉を守る方法だとは言えど、いきなり重大な任務を新米に与えるとは、無茶がありすぎる・・・。


あのを出し抜くことはできたが、奴も黙っていはいないだろう・・・。


私も、私なりに動くとしよう。あの掃討作戦の調査を急がせるか。


准将・・・ラボラス大佐の最期の作戦。あれは不自然な記録が多すぎる。


我々が奴の尻尾を掴むまで、生き延びろよ。少尉・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る