#32「頼んだぞ、犬神少女たち」

暗い空間、天井には紫に輝く配線が張り巡らされている。


「完全に失態ね・・・・・・レヴィアタン・・・。ドルチェル王国からマナを集められなかった上に、あの少年まで奪還されてしまったわ」


笑顔のままタマモは邪龍に声をかける。


「弁解はせぬ・・・。全て妾の責任じゃ」


レヴィアタンは俯いたまま静かに答えた。横で船虫はこっそり退散しようとしたが、


「アナタもよ? 船虫ちゃん。アナタの怠慢で一気に計画が崩れてしまったのだから」


タマモの目線が船虫に移る。船虫はビクッと固まった。


「ひーーー!! タマモ様! おゆるしを~」


そして静かに立ったままのヌイにも向けられた。


「ヌイも。大切なお友達のギアを奪われたのは痛いわ」


暗い空気が漂う。船虫は恐る恐る答えた。


「タマモ様だって~! レヴィアタンから~・・・。貴重な新型をパクって・・・失っちゃたじゃねーですかあーーー!?」


全員の視線が船虫に集まった。気まずくなった船虫から滝の汗が溢れる。


「ふ、ふふふふ・・・・・・あははははは!」


タマモは突然笑い出した。船虫は再びビクッと驚く。


「そうだったわ・・・。アナタに言われるなんてねー。私も、遊び半分で最後にディープ・アクムーンをけしかけちゃって・・・、最終的に壊しちゃったわ。2世に怒られちゃう! 後でみんなで反省会しましょうか。さて、ドルチェルはもう遊び飽きちゃったわ・・・。レインボーバブルに戻りましょ! 北にあるオモチャを動かせるようにしないといけないし・・・」


「へ・・・? 秘術は諦めるんですかい!?」


船虫は聞いたが、レヴィアタンが口を挟んだ。


「いや、少年の封印があるし、解くために今度は向こうからやって来る。必ずじゃ。それに、奴らも秘術の解明を進めることじゃろう。それまで泳がせるのもありじゃ。何か分かればまた奪ってしまえばいい」


「ほへーーー」


船虫は感心した。


「ふふ、抜かりないわね。・・・・・・ヌイ、熱くなるのはいいけど、まだまだチャンスはいっぱいあるんだから・・・さあ、いくわよ」


ヌイは一礼して静かにタマモの後ろについて行った。




☆☆☆


数日後クリーミートップの大通りでは、ナイトメアユニオンに討ち勝ったとして凱旋パレードが行われた。まだまだツメ跡は残っているが街のみんなは活気が戻り、勝利の美酒に酔いしれていた。


その様子を王城のバルコニーから、ぐらたんたちは眺める。


「うわーすごい! まるでスノードームみたいだね! おもしろい」


カオリはぬいぐるみから取り出された水晶玉で遊んでいた。テーブルに敷き詰められた料理をひとつまみしては水晶玉に近づける。すると吸い込まれるように溶けて、ゆっくりネビロスの元に降ってくる様子を眺めて楽しんでいた。


「食べ物をくれるのはありがたいが・・・カオリ、あまり遊ばないでくれ」


「ゴメン、ゴメン! おもしろくてつい・・・さて、ネビロス君。ぐらたんとはどこで?」


「え? ぐらたん? 初めてあったのは・・・」


「あーーー!! わーーーーーーー!! ダメ! ネビロス様、言わないで!!」


ぐらたんはテーブルに飛び込んで、水晶玉を取り上げる。


「おやおやー!? ぐらたん、顔が赤いぞぉ!?」


「もう! カオリちゃんのバカ・・・」


「う、ぐらたん・・・やめろ・・・揺らすなー」


荒ぶるぐらたんに振り回され、水晶玉の中でネビロスは大回転する。


その様子をエクレアが楽しんで見ていた。


はっちゃんの周りには子供たちがいっぱい集まっていた。モフモフの魔力は流石である。アギャンは女の子の姿のままウンギャンと一緒にテーブルの料理を食べていた。その横でやどりんは相変わらず黙々とイヌガミントのギアを調整していた。


この賑わいを見ながら、ぐらたんはとても居心地よく感じていた。




しかし、まだ終わらない。戦いはまだ続いている。


ネビロス様を元に戻すまでは! それに・・・




☆☆☆


それから1週間後、ドルチェル王国東部のグラスカップ港。レインボーバブル行きのフェリーが停泊していた。天界が残した防空システムが生きているため航空機が使えないのがこの世界の現状だ。人間界において、航空に関しては発展は途絶えて今や失われた文明となっている。大陸を渡る手段は主に船舶になっている。


国王の話によると、他にレインボーバブル大陸の2か国にそれぞれ勇者からの


献上物がおさめられているそうだ。秘術の手がかりとなるものを求めて新天地へ旅立つのだ。




「ネビロス様、ホントに考え直さないの? その結界を解く方法は冥界に戻れば分かるかもしれないのに・・・・・・」


ぐらたんはそばで浮遊している翼の生えた白い犬のぬいぐるみに話しかけた。ネビロス玉は、エクレアから友達の印として新しくもらった魔法少女関連のぬいぐるみに宿っていた。ネビロスは決意した眼差しで答える。


「ああ。僕自身、あの力がなんなのか知りたい。それにナイトメアユニオンも放っては置けないんだ。アクムーンは死者の魂を利用している。死者をあんなことに使うなんて許してはおけないから。死神としても、人間としても。・・・・・・だから、ぐらたん、力を貸してくれ」


ぐらたんは少し思い悩んだ表情をしていたが、笑顔を作り同意した。




ネビロス様となら何も恐れることはない。




「うん! ネビロス様!! 私も早く本来のネビロス様に・・・ ふぁ!!?」


途中で何を言おうとしたのか躊躇し、赤面するぐらたん。


「?」


突然思考停止したぐらたんを不思議そうにネビロスは見つめる。


沈黙が続く中、その横でカオリとアギャン、ウンギャンがニヤニヤしていた。


「お二人さんいつまで見つめあっているの? やどりんを挟んで・・・・・・愛の告白かにゃあ!?」


「・・・」


キャリーケースを引きずるやどりんは状況がよく分かっておらず、目線をぐらたんからネビロス、ネビロスからぐらたんに移すのを繰り返す。


ぐらたんは顔をさらに真っ赤にした。


「もう! またカオリちゃん・・・・・・えへへ」


「お嬢様! 置いて行きますギャン」


アギャンとウンギャンは先に乗り込み口へ向かっていく。


「分かった・・・行きましょ! ネビロス様!」


「そーだな」


ぐらたんは手を差し伸べ、浮遊するネビロスの小さな手を取り、みんなが待っているフェリーの乗り込み口にかけて行った。


その後ろで、はっちゃんはやどりんにレクチャーをしていた。




☆☆☆


「良いか、魔力と神通力の融合じゃぞ! 犬神少女クロスプロジェクトはこれを絶対に達成させねばならぬ。ぐらたんやネビロスにマナのことはしっかり教えてもらうのじゃ」


「あいあい! 分かった、分かった! 後で連絡できるんだから・・・。乗り遅れる!」


「ワシはいったんミンティーフォレストに戻ってイヌガミコのギアのシステムを一から再構築せねばならん。ここを動けんワシの代わりに、しっかりと犬神少女たちをサポートしてやるのじゃぞ!」




魔力解放したときのイチゴミントの戦闘データ。あの膨大な魔力に耐えるように一から作りなおす。あとドレスのデザインも考える。

新たな犬神少女、「IGX-0」を完成させるために。




「やどりーーん! はやくーーー」


「おーう! じゃあ、またな。じーさん」


ぐらたんの呼びかけに、やどりんは乗り込み口に走っていく。


残されたはっちゃんは犬神少女たちが乗る船を見送った。




頼んだぞ、犬神少女たち。ソナタらがこの世界から悪夢を打ち払ってくれることを・・・




出航した船は希望を乗せて、新天地へ渡っていった。

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