#31「ネクロ・ミューティレーション!」

ミントは何とかして、魔術の風力を活かして落下を遅らせていた。


再度増幅させるが、


「イヌガミック・ドライブ!」


犬神少女の神通力イヌガミックパワーが尽きて来た。これ以上は必殺技が出せないようだ。


もう落下速度を抑えることができない。


「ダメか・・・」


「やっぱり・・・諦めきれない! ・・・そうだ!!」


ミントは最後の悪あがきを試してみることにした。犬神少女に変身した上で、魔力解放だ。


「どうするつもりだ?」


腕の中でぬいぐるみのネビロスは答える。


「翼が戻れば・・・・・・マナアイドリング・リリーース!!」


ミントから赤黒い炎が溢れ、身体中をバチバチと電撃がまとわりつく。


変身システムが悲鳴を上げているのが分かる。背中の赤黒い炎は形を成し、コウモリの翼になる。フサフサの尻尾は悪魔の尻尾に変わった。神聖な衣を纏いつつも、悪魔の姿を取り戻すことができた。


「ぐらたん・・・」


犬神とも魔犬とも言い難いその姿をネビロスはただ見守る。


飛行能力を得たミントは上昇して、城の上空を飛び回る。


ミントは、はっちゃんの方に接近する。


「ミント・・・良かった!」「ミントに翼が生えたギャン!」


「ぐらたんが・・・・・・魔法少女から飛行少女に・・・かっこいい!」


はっちゃんにしがみつきながら、みんなが歓喜した。


はっちゃんは横目で、


「ソナタ・・・その姿は!? ・・・・・・体の方は大丈夫なのか!?」


「今のとこ、大丈夫!! なんかバチバチいってるから、また壊れちゃうかも・・・・・・。今はアイツを止めないと!!」


ドラゴン型のビーストは城に見向きもせず、街の方に向かおうとしていた。


ミントは姿勢を傾けて旋回していく。


「おい、どうするつもりじゃ!!」


はっちゃんから離れ、ぐらたんは単騎で巨大なビーストに向かっていく。




いや、もう一人じゃない。


ネビロス様が一緒なら、あんな奴なんかに負けるかっ!!




「ぐらたん! 地上の被害は抑えたい! 常にヤツの上を取るんだ!」


左肩に掴まったネビロスは指示する。


「承知!」


ビーストがこちらに気付く。


「あくむーーーん!」


大きな口を開けて咆哮し、極太のビームが照射された。


ミントは錐揉みしてビームを交わした。


「ミントスラッシュ!」


ミントスラッシュを撃ち出した。ビーストに命中したものの、傷ひとつつけることができない。


続けざまに左手を突き出し、光の線が幾何学模様をつくる。


「マナ粒子を喰うんだったな? 食えるもんなら食ってみろ! ファントムフレイム!」


今度はミント自身を飲み込むほど大きな紅い火をビーストめがけて放った。


ビーストは大きく口を開けて吸い込もうとしたが寸前で弧を描き、火球はビーストの右側2つの目に炸裂した。


「あくむーーーーん!!」


怒りを爆発させたビーストは、口からビームを乱射する。


何本も発射される閃光を、ミントはジグザクに不規則な軌跡を描くように曲芸飛行して回避する。


「うおっ!? うっ・・・くう・・・!」


何度も天地がひっくり返り振りまわされる中、ネビロスは激しく飛び回るミントから投げ出されないように必死に彼女の左肩にしがみつく。


「ネビロス様! ゴメン、もう少しだけ我慢して」


「かまうな! 次! 来るぞ!!」


第二波のビームが飛んでくる。


ミントは体を傾け、ビーストから距離をとるように旋回する。


しかし、だんだんと高度が下がって来た。


「飛行能力の限界か・・・」


小型の翼は主に陸戦仕様で、市街地や障害物の多い環境の中で高速に移動するのに特化した形態だ。本来のヘルハウンドの翼のように広い空間での長時間飛行には向かない。




本来の翼が戻れば・・・・・・


今回は従来の形態が限界だ。とにかく・・・高度が下がる前になんとかしなければ!




ビーストから第三波が来る。外れたが、すかさずビーストは首の向きを変えた。ビームが押し寄せて来る。


「ミントエスカッション!」


バリアを展開して、ビームを防ぐ。流石に防ぎきれず、ミントエスカッションが粉々に弾け飛んだ。


再び旋回してミントは射線から逃げのびた。


「アイツにダメージを与えれば・・・」


ミントは飛行しながらビーストを睨む。


肩に捕まるネビロスは思い出したようにミントに話かける。


「そうだ! アイツらのアジトにいた時。奴らの会話を聞いた。アクムーンは死者の魂を元にして作られている。試してみないとわからないが、死霊呪文が効くかもしれない・・・。ぐらたん、犬神少女の力はまだ出せるか?」


「もう一回くらいなら!」


「僕の力も合わせる! 神通力を集中しろ」


「分かった! イヌガミック・ドライブ!」


ある分だけ神通力を集中させた。




ミントから神通力が伝わって来る。ネビロスは発光すると。ミントの身の丈ほどの大きなペンチに変身した。


「え!? ネビロス様? ネビロス様が今度はペンチになっちゃたーーー!!」


突然手に取ったペンチを見て喚きながら困惑した。


「ネクロプライヤーだ。いいから集中! 正面だ! 奴の喉元に結晶体が・・・」


ミントは今まで見えなかったビーストの喉元に輝く一点の光を見つけた。


「ほんとだ!」


「ぐらたん! そのまま突撃だ!!」


「よーーし!」


ビーストの正面へ真っ直ぐに飛んでいく。


ビーストが発射体制に入る。


「怯むな! そのままぶち込むぞ!」


「承知!!」


ビーストからビームが発射された。ミントは下側に避けて、ビームの下をくぐっていく。




後は喉元目掛けて・・・




ミントがネクロプライヤーを開くとハサミの部分が発光する。


「「ネクロ・ミューティレーション!!」」


二人は呪文を唱え、ビーストの喉元にハサミが突き刺さる。


ビーストの体から激しい閃光が溢れだした。


ネクロプライヤーを閉じて引き抜くと三日月状の結晶体が引っ張り出される。


コアを失ったビーストはそのまま勢いよく閃光を発しながら消滅した。挟んだ結晶体も弾けて光の粒子になっていった。





眩い閃光と共に、クリーミートップに日が昇り、ボロボロのドルチェル王城をそっと照らすのであった。

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