#29「すみれ・・・どうして!!?」
「誰にも、妾を止めることはできぬ・・・・・・」
広い渡り廊下に冷たい霜が降りていて薄く霧がかかっていた。暴風が吹き去り霧が晴れたところで、ぶすぶすと煙を出しながら毛が乱れたはっちゃんはその場に倒れた。
「うぐ・・・・・・一体何が・・・? ワシのキューティクルが・・・」
うつ伏せに倒れるはっちゃんにレヴィアタンが迫る。
「やかましいわっ!! ソナタに勝ち目があると思ったか? ソナタの風を利用して、フロア内で小さな雷雲を作り出した。毛の心配よりも自分の命の心配をしたらどうじゃ」
・・・・・・。馴れないケンカはするものじゃなかったか・・・報いか・・・・・・孫娘に討たれるのなら悔いはあるまい・・・。すまぬ・・・ばしょう君、さくら・・・そして・・・・・・
「はっちゃん!!」
背後の扉から飛び出してきたのは、ピンク髪の犬神少女。そのまま、はっちゃんを飛び越えて、ミントスラッシュで斬りかかる。邪龍は刀でいなした後、後方に跳んで距離を取った。
よせ・・・イチゴミント! 今のソナタには勝てる相手では!!
ミントの後ろ姿を最後にはっちゃんの意識は途絶えた。
☆☆☆
「オマエがレヴィアタンだな!? ネビロス様はどこだ!?」
ミントはロッドを構える。レヴィアタンは両手を広げて答えた。
「・・・。返してほしければ妾を倒すがよい! ・・・・・・そうか、船虫の言っていた少年の使い魔もソナタのことだったか・・・ぐらたん」
ミントはぎゅっとミントロッドのグリップを強く握り込む。邪龍から発する形容のし難い負の気がこの廊下中に溢れかえっている。そこに入り混じる殺気と闘志は奴に攻め入る隙がない。その気に飲み込まれ体が熱く、視界がぼやけてくる。
まただ!・・・・・・
しかし、不思議なことにぐらたんの心は妙に落ち着いていた。体の中で、駆け巡る犬神少女の力が溶けて混ざり合うような感じがした。
自然とミントのドレスの各箇所が赤く発光していた。
ミントは前に飛び出す。
「ミントスラッシュ!」
ロッドに纏わせたミントエスカッションを高速回転させ振り下ろす。レヴィアタンが振るう太刀によって弾き返される。刃がかち合った衝撃で腕が持っていかれた。完全に力負けしている。大きく隙が空いたところで、邪龍は逆手に持ち替えて柄頭でミントを突き飛ばした。
「かはっ・・・・・・!!」
「今ので分かった・・・・・・。これ以上は無駄・・・」
ミントの落下地点には、はっちゃんが寝ていた。ポンっと跳ねてさらに後ろの方で体勢を立て直して着地する際に、最後の一本のエンゲルファウストを発射した。
「・・・って、それは反則じゃ!!」
焦った表情で、飛んできたロケット弾を尻尾で弾く邪龍。
軌道のそれた弾頭は後方の壁に着弾し、爆炎が広がった。
穴の開いた廊下の壁を唖然として眺める。
「・・・。なんて奴! しかし、さっきのが最大の攻撃なら、これまでじゃな」
邪龍はミントに向き直り、太刀を構える。
息が乱れてきたミントは不適に微笑んで見せた。
「それはどうかな?」
「!!?」
邪龍の頭上からミントスラッシュが襲う!
浅いか・・・!?
攻撃を受けた際、ロッドから切り離したミントスラッシュが邪龍の頭部をかすめた。兜が真っ二つに割れて、レヴィアタンの足元に落ちた。
「ぐぬ・・・」
邪龍の金色の鋭い瞳がぐらたんを見据える。
「!!? あ・・・・・・そんな」
ミントは愕然とする。兜で見えづらかった目元がはっきりと見えた。角の形、髪の色は違えど、その顔は確かにあの龍神だった。
邪龍は額を抑える。
「すみれ・・・どうして!!?」
ミントは目を疑ったが、しかし咄嗟につぶやいた名前に邪龍は返事をした。
「・・・ぐらたん・・・。確かに伝えたぞ! この街から去れと・・・・・・」
モニュメントの前で再開した会話を思い出して、彼女だと確信してしまった。
「・・・そんな、そんな・・・すみれが・・・・・・!?」
一歩、一歩と後ずさり、ミントはロッドを取り落としてしまう。
「すみれなど・・・もうおらん! 私はレヴィアタン! ・・・厄災を呼ぶ邪龍!! キサマには分かるまい・・・・・・自由を奪われた上に、大切な者を奪われた・・・・・・この・・・くっ・・・!!?」
ズンと城が大きく揺れた。次第に地響きがこちらに近づいてくる。
レヴィアタンは懐を探る。
「!!? 新型アクムーンがない! まさか・・・タマモめえ!! 余計なことを!!!」
レヴィアタンは異空間ゲートを開く。
「今回は負けにしておいてやる。エクレアと王は最上階じゃ、少年はどこぞに消えてしまった・・・。城を探せば見つけることができよう。ぐらたん・・・、また立ちはだかるというのなら次こそ容赦はせん!」
そしてすぐにゲートに入って消えてしまった。
「まてーーー!! すみれーーーーー!!!」
砂埃が天井から落ちてくる。
後ろの扉から、ミカンとミルク、ウンギャンが入ってきた。
「ミント! まずいギャン!! あのドラゴン型のアクムーンビーストが押し寄せて来るギャン!!」
「はっちゃん!!」
ミカンは倒れていたはっちゃんに気づき、駆け寄る。
ちょうどはっちゃんも目を覚まし、起き上がった。
「ぬ・・・、何が起こっておる!? 奴はどこにいった!?」
ミントははっちゃんのそばでしゃがみ込む。
「邪龍なら逃げたよ・・・。いや逃がしてくれたのが正しいか。・・・・・・それよりも急いで、エクレアちゃんを!!」
この場にいた全員が頷いた。みんなは最上階を目指す。
邪龍の言葉によると、ネビロス様が行方不明・・・一体どこにいった?
ミントは不安でいっぱいな気持ちを押し込めて階段を駆け上がってく。
すると、上の段から誰かが駆け降りて来る。国王とエクレアだ。エクレアがこちらに気づく。
「カオリちゃんとぐらたん! それに・・・」
「エクレアちゃん! それに、チョビ髭おじさん!!」
ミカンが叫ぶと、国王がわざとらしく咳き込む。
「ゴホン! ・・・エクレアの父です」
気づいたミカンは訂正する。
「あああああ! 国王陛下!! これはご無礼を!! どうか私のお首を納めください!」
「イヤ、そんなの構わんし、いらん! 早く逃げよう!!」
エクレアを助けにきたミントたちは後ろを向き、エクレアたちと共に階段を降りていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます