#26「マスターの命により、ここは通さない」

城門の監視を突破して、無事に城の敷地内へ潜入できた。


「ぐらたん様、カオリ様、上手くいきましたね」


ヒロは帽子を脱いで、城の裏にトラックを進めていく。


バックミラーに映るコンテナの小窓からカオリが覗いた。


「ヒロさん、グッジョブです!」


暗いコンテナの中で、モノクルゲイザーを身に着けたぐらたんはアギャンたちに通信を入れる。


「アギャン、そっちはどう?」


『アリっぽいアクムーンがたくさん徘徊していますが、特に動きはないですギャン。本当に業者だと思って、そっちに向かう気配はないギャン。お城は静かなものです。お城の一番上に、エクレア様と制服姿のチョビ髭おじさんがいるギャン。それ以外は誰も見えないギャン』


「陛下です・・・それは」


ぐらたんたちの会話を運転席から聞いていたヒロがつぶやいた。


「分かった。オマエたちの合図で潜入するから、思いっきり挨拶してあげて! 十分相手したら城の中で合流!」


『承知!! ミッションを開始するギャン』


通信はここで終わった。装備を固めたぐらたんは魔力解放の呪文を唱える。


「マナアイドリング・リリース」


各武装が反応しロックが外れた。二人はイヌガミギアをかぶる。


「「イヌガミライズ!マジカル」」


「イヌガミント!」「イヌガミカン!」


赤と黄色の光を発して、彼女らは犬神少女に変身した。


トラックが止まり、みんな降りる。


ミントは腰に吊るしたグレネードを城の壁に設置した。


「ここなら大丈夫!?」


ヒロは頷いた。


すると正面の門から爆音が響き渡った。続いてまた爆発が続く。




始まった!




「じゃあ二人とも、いくよ!!」


「ええ!」「はい!」


壁に設置したグレネードを起爆し、城に穴が空いた。ミントとミカン、そしてヒロは突入していく。




☆☆☆


「うわ!! なんだ!!?」


正面の庭に起こった複数の爆発に船虫は驚く。爆風でアリ型のビーストたちが吹き飛んでいく。


爆炎の中から、二匹のガーゴイルたちが躍り出る。


「私はアギャン!」


「某はウンギャン!」


「「お相手するギャン!!」」


二匹は左右に展開して魔導グレネードを投擲、MMMスリーエムを発射した。


「うおわ!!?」


船虫は咄嗟に飛んできた小型ミサイルやグレネードを避けるが、後ろにいたビーストが吹き飛んだ。再生中のビーストも再生する間も無く吹き飛ぶ。


「な、なんなんだ! テメーら!! 犬神少女はどうした!!?」


眷属たちの攻撃はまだ続く。




倒せなくても、こちらに釘付けにする。武装のマナが残っている限り、撃ち続ける!


今ごろ、お嬢様たちは人質を助けに侵入したはずだ。




☆☆☆


王室では、外の爆発による衝撃が部屋中に響きわたっていた。


「な、何事だ!?」


国王は狼狽えながらも、怖がるエクレアを抱きしめる。


「もしかすると誰かが助けに来たのかもしれませんね」


水晶玉にいるネビロスは二人に話しかけた。


「だ、誰が・・・!?」


国王は聞く。するとエクレアは気を取りもどして顔を上げた。


「犬神少女だわ!・・・きっとそうよ!! カオリちゃん・・・ぐらたん・・・」


「ぐらたんを知ってるのですか? お姫さま」


姫がぐらたんのことを知っていて驚いた。


「ええ! 私のお友達・・・そう言えばお兄さんもどこかで・・・・・・あっ!」


「そうだ、去年のパフェ祭りの!」


国王は、その少年が去年開催された祭りに来ていたことを思い出した。




あの超高いパフェ・・・・・・何を作るか結局思いつかなくてヤケクソに作ったものが、話題になるとは思わなかった。




ネビロスは苦笑いする。


「よく覚えておいで・・・。ぐらたんはうちの従業員なんです」


「そうだったの? 通りでスイーツに心得があると思った! ふふ、みんなでまたお茶をしたいなあー! あなたの作ったスイーツも食べてみたい!!」


横で国王は寂しそうに呟いた。


「・・・・・・パパもいいかな?」


するとまた爆発が起きて城内が揺れた。


エクレアは怖がり国王にしがみつく。


「うわ!?」


棚に置いてあったネビロス入りの水晶玉が転がり落ちた。その下にはエクレアのぬいぐるみがあった。


水晶玉はぬいぐるみに吸い込まれるように溶け込んだ。


「「ええ!!?」」


不思議な出来事に国王とエクレアは驚くのであった。




☆☆☆


城内渡り廊下。


「シトラスカット・ストライク!」


「ミント・リフレッシュ・トルネード!」


城内に徘徊するビーストたちを浄化してく。後ろからヒロが続いて、


「はあ!」


回し蹴りをビーストにお見舞いした。吹っ飛ぶビーストはミント・リフレッシュ・トルネードに飲まれて浄化された。


「ヒロさん! やるう!!」


ミカンはサムズアップした。ヒロもつられてクールにサムズアップをきめる。




廊下を進んで、突き当りにある厨房の前までやってきたが、


「んっ?」


ヒロは扉に手をかける。しかし、硬く閉ざされて開かない。扉には札のようなものが張られているのに気づいた。


ミントが駆け寄る。


「結界? ここに誰か閉じ込められている!?」


ミントはノックすると、誰かの声とドンドンと激しくノックが帰ってきた。


「おーい! 誰かあけてくれ!!」


ヒロが声をかける。


「その声は、シュクル殿下!!」




モノクルゲイザーにより、扉の向こうには生体反応複数。


他にも人質がいるようだ。解呪には時間がかかる。ここは・・・




ミントは魔導グレネードを設置した。力技で結界ごと吹き飛ばす。ミントは囚われている人たちに声をかけた。


「みんな!! 聞こえる!!? 聞こえていたら扉から離れて!!!」


するとまた声が帰って来た。


「誰だねキミは、城は・・・どうなって・・・・・・」


「殿下! お下がりください。爆発します!」


ヒロは扉に呼びかけた。


「ヒロか・・・えっ!!? な、なんだって!? みんな、出来るだけ下がるんだよーーー!!」


ミントたちも退避し、グレネードが起爆した。


扉は吹き飛び、爆炎が広がる。


厨房にはゴホゴホと人質のみんながむせていた。


「シュクル殿下、ご無事で・・・」


「ああ、ヒロ・・・助かった・・・・・・この子たちは?」


厨房から、金髪の青年が出てきた。ヒロと同い年くらいだ。詰襟の赤い制服を着ている。


ドルチェル王子がミカンとミントに注目しているところ、ヒロは答える。


「エクレア様が大好きな魔法少女です!」


ミカンは手を振るが、王子は戸惑っている様子だった。何言ってんだコイツと。


「・・・うん。分かった。アギャン、ウンギャン合流して、人質の護衛をお願い!」


ミントは眷属たちと交信していた。


「ヒロさん。アギャンとウンギャンが護衛につく。合流したら避難して・・・・・・」


「分かりました。姫様と陛下の居場所は?」


「最上階! 上に行けば分かる!! 行こうミカン!」


ミントはホールの方に向かった。


「ヒロさん! あとは任せてください!」


サムズアップしてミカンもミントの後を追った。




☆☆☆

エントランスホールに入った犬神少女たち。


ほとんどのビーストは浄化したせいか静かだ。このまま奥に見える2階にある扉を目指す。


その時、モノクルゲイザーが反応した。


「まって、ミカン。誰かいる!」


「アクムーンビースト?」


ミントとミカンは立ち止まる。


モノクルゲイザーが指し示す位置。ホールの奥に見える階段の踊り場には誰も居ない。




誤作動!? いや気配はする!




ミントはミントロッドを構える。


「気づいているか・・・さすがだな」


すると、階段の踊り場から声がして船虫が逃げる際に使う異空間ゲートが出現し、そこから白髪の少女が現れた。


少女の背中には真っ白な翼が生えていた。その姿は天使そのものである。


「キミは・・・?」


ミカンが聞くが、そのまま純白の少女は階段を降りてくる。


「私は、犬江ヌイ。マスターの命により、ここは通さない」


少女はイヌガミギアを被った。


「!!?」「それは、まさか!!?」


頭に身に着けたギアに驚きを隠せない二人の犬神少女。

そして目の前の彼女は変身呪文を唱え、


「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミルク!!」


水色の光につつまれる。


対峙する犬神少女2人に緊迫した空気が張りつめる。





犬神少女同士の戦い・・・こんなことが起こるとは思ってもいなかった。

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