#25「なぜこんな物がここにある!!?」
宝物庫で魔界製の記憶装置が見つかった。これが秘術と関係しているかは分からないが、確信したことはそれを見てネビロスは何かを思い出しそうだった。
一方、レヴィアタンは小さな円形の薄い金属片を眺めていた。
「このカケラ・・・、この質感、間違いない。 我々龍族の骨と同じ・・・」
綺麗な円形は明らかに人為的に切り取られたものである。
「これは・・・・・・わたしの・・・!!」
手がワナワナと震え出した。そして金属片を握り潰してしまう。
邪龍は取り乱し、国王の胸ぐらを掴み持ち上げた。その際水晶玉を手放してしまい、ネビロスは床を転がる。
「なぜ!! ・・・なぜこんな物がここにある!!? どこで手に入れた!!! 献上と言ったな!! 献上した勇者はどこだ!!! 言え!!!」
国王はもがきながら答えた。
「が・・・それは・・・・・・勇者、風守ユーマが・・・魔王ハーディニル討伐で・・・私に献上した・・・もの・・・・・・。うっ・・・・・・」
「!!? 勇者はどこだ!!!」
「知らない・・・知らない!! その後・・・彼の行方は・・・ああ・・・・・・」
「やめてーーーーっ!!」
入り口から少女の叫び声がした。エクレア姫だ。急いで、邪龍のところに駆け寄る。
「やめて・・・。お父様をいじめないでーー!」
エクレアの必死の訴えに、レヴィアタンは顔を歪める。悲痛な表情だ。
「くっ・・・・・・」
邪龍はようやく手を離して、国王は床に崩れるように膝をつく。
「ゲホ、ゲホ・・・・・・」
むせる国王にエクレアが抱きつく。
「お父様・・・お父様ーー!」
レヴィアタンは震える両手を降ろして、国王を見下ろす。
「2世がこの場にいなくて命拾いしたの・・・。しかし、魔王国討伐に勇者をけしかけたのはキサマじゃ!! キサマの命令一つで何万もの命が・・・、魔物だけじゃない! 人の命も一瞬で消えたのだからなあ!!」
レヴィアタンの怒れる瞳からは、涙が浮かんでいた。国王は目を見開いたまま沈黙したままだった。
ネビロスも黙って様子をうかがうことしかできなかった。
ハーディニル魔王国・・・。まだバニラホワイトに住んでいたころ、孤児院の先生から話を聞いたことがある。天魔戦争末期、魔界から来た旧魔界連合の侵略部隊残党がキャラメール砂漠に作り上げた王国だ。残党が建てたのも事実だが、天界側に組せず迫害された身寄りのない人々を保護するために建てられ、魔族と人間たちが共存する理想郷だったという。
どうして滅んでしまったのか疑問に思っていたが、先生は僕に教えてくれなかった。実際一人の人間によって滅ぼされたということを今ここで知ることになってしまった。
・・・なぜ勇者が!!?
ネビロスは口を手でふさぐ。胸にザワザワと気持ち悪い感じが広がる。
対岸の火事のはずが、どうしてこうも不快に感じるのか疑問に思い始める。
レヴィアタンは目線を変え、開いた宝物庫の外を睨む。
「なぜ娘を連れてきた? 二人とも部屋に連れ戻しておけ・・・」
すると船虫が入り口からひょっこり頭を出した。
「す、すまねーな!! お姫様がなあ、暴れて暴れて、アタシのお尻を蹴るわ、蹴るわ!! たまらず、ここまで逃げて来ちまった」
船虫は汗を流しながら、わざとらしく笑って見せた。
「馬鹿者め! ソナタなら簡単に避けられるものを」
「おっと、それもそーか・・・ほら、二人とも立って歩け! アイツの目が黒いうちにな」
船虫は国王と姫を連れて、宝物庫を後にした。
レヴィアタンは水晶玉を拾うと、その中のネビロスを見つめる。
「ソナタも最後まで付き合ってもらうぞ! 中央天界のクズどもに復讐を果たすまでな!!」
蛇に睨まれた蛙のように、ネビロスは黙ったまま邪龍の静かな怒りを灯した黄金の瞳を見上げる。
レヴィアタンは宝物庫を去ろうとしたその時、棚に潜む人影に気づいた。
「何じゃ・・・来ておったのか。タマモ殿」
振り向くと、物陰からスーツ姿の長い金髪の女性が現れた。赤い瞳で邪龍を見ながら笑顔を作る。
「ふふふ、やっぱり本当だったでしょう? アナタの宝物・・・愛する子・・・・・・いや、なる筈だった・・・」
レヴィアタンは入り口の方に向き直った。
「よせ! それ以上言うな・・・。今の妾は虫の居所が悪い・・・・・・。ソナタでも容赦はせんぞ?」
タマモは、すました笑顔のまま答える。
「あら、ごめんなさい・・・。でも、順調のようね。助っ人をアナタたちに用意したのだけれど、無駄になっちゃうかしら?」
さらに物陰から白髪の少女が現れた。背中には純白の翼が生えている。
「マスターにお仕えする犬江ヌイと申します。お見知り置きを・・・。レヴィアタン様」
「天使か?」
ヌイと名乗る天使は頷いた。
「ふふふ、犬神少女たちの遊び相手にどうぞ。ふふふ、私はこれで。・・・・・・頑張ってね」
タマモは闇に溶けるように消えた。
「ヌイよ・・・。奴らが攻めてくる。ついてこい」
「はい。レヴィアタン様」
邪龍は宝物庫を後にし、ヌイも後に続こうとした時タマモの声がした。
「ヌイちゃん。アナタのギアは解析中だから、代わりにご友人のもので我慢してちょうだい。戦果を期待するわ」
「はい、マスター。ヤツら如き、私だけで充分です」
再び歩き出し、ヌイは宝物庫を出ていくのだった。
☆☆☆
暗い中、船虫は持ち場に戻って門の上に座り込んでいた。
缶詰めを開け、スプーンで掬っては口に運ぶ。お気に入りのカニみそ缶である。
「へっ、骨のねえ~奴らばっかだぜ。残存兵力はまだ残っているはずなのに抵抗がしょぼいぜ」
船虫はカニみそを咀嚼しながら額にある単眼で、門の外を眺める。
奪還しに国の軍隊が攻めてきたが、戦力は乏しいものだ。あっという間にアリ型のアクムーン軍団に蹴散らされていく。
そんなに、この城を傷つけたくないかね~・・・。武闘派ぞろいのレインボーバブルとは大違いだ。
水筒に口をつけて水分補給していると、真っ直ぐ何かが近づいてくるのに気づいた船虫。
小さめのトラックがライトを照らして城門前にやってきたのだ。
「なんだあ? 堂々と。ヘタレな兵士どもじゃね~みたいだ」
警戒してビーストたちが門に集まる。
船虫はカニみそ缶を急いで平らげ門から飛び降りると、目の前でトラックが停車した。
「おっと、止まりな! そっから先は行かせねーぜ」
するとトラックからキャップを被った作業員の青年が降りてきた。
城の中で、どっかで見たことあるような・・・
船虫は少し気になったが、背を丸めて覗き込むようにトラックから降りた青年をにらみつける。
「ああ~!? なんだテメー? 命が欲しけりゃ、とっとと失せな!」
あしらうように手を振って見せたが、青年は気にせず箱を持って近づく。
「私は・・・いや、僕は人質のみんなさんのために差し入れを持ってきたのです」
青年はハコを開けると袋詰にされた食料一式が入っていた。
中には大好物のカニみそを使った食品もある。
船虫は物欲しそうに眺めるが、
「あ、ああん!? そんなもんいらねーよ!! 城にはたくさん食料が備蓄してあるからな! 余計なお世話だ! ほら、帰った、帰った!」
そっぽ向いて煙たがるように手を払った。
「そ~ですか。それは残念・・・。城の備蓄は、およそ1週間分しか持ちませんよ? 長期戦になれば厳しくなるのでは・・・? あなた方の分だって・・・食べることは大事ですよ?」
青年は見せびらかすのをやめて箱を閉じた。
「では」
キャップを軽く持ち上げて挨拶し、振り返る青年。トラックに戻ろうとしたとき、船虫が腕を掴んだ。
「待てよーー! ちっ、しゃーねーな!! 食料庫の場所は?」
「大丈夫ですよ! 週に2回、運び入れてるのですから」
「そーかい」
船虫は門を開けアリ型のビーストたちを下がらせた。
トラックは城内へ走っていく。
「クソが、またハラが減ってきたぜ・・・。こんちきしょー。犬神少女はいつ来る!?」
船虫は引き続き門の周囲を警戒した。
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