#24「それは・・・確か、勇者が私に献上した物」

王城地下にある宝物庫。


ネビロスを閉じ込めた水晶を片手にレヴィアタンは国王と2人で目的の宝を探す。


ショーケースに入った文化財、棚や宝箱から溢れる財宝をパッと見ても秘術と関係する物は無さそうである。


秘術と関係ありそうなものはないかと、2人は保管された財宝を棚の端から順に漁る。


探すこと1時間が経過した。


「これは!?」


国王は何か見つけたようだ。


「どうしたのじゃ!!?」


レヴィアタンは国王のそばに駆け寄る。


分厚い本だ。


箱にギッシリ詰まった書物を数冊取り出しては床に積み、国王は一冊を手に取って見せた。




これに秘術に関することが書かれているのだろうか?




ネビロスはその古びた本を見つめるが何も思い当たらない。


そのまま国王は本を開く。


「これは・・・! 私の娘エクレアのアルバム!! こんなところにあったか・・・」


開いたページには、幼い少女の写真。エクレア姫のものだ。


普通にデータからプリントされた古い形式の写真もあれば、ホログラム映像が浮かび上がる従来の魔導プロジェクションカードもファイリングされていた。


目を輝かせながら国王は娘の成長を思い返して打ち震えているところを、邪龍がバシッと尻尾で彼の背中を軽く打ち据えた。


「ぶふ!! ノオ~ッ! アルバムが!!」


反動でアルバムを床に落とした国王。


「馬鹿者め! 思い出に浸っとらんで真面目に探せ!!」


「わ、悪かったよ。その少年が思い当たりそうなものだったな」


しぶしぶ国王は積み上げたアルバムを箱に戻しているところ、


「むっ? おお! これは!!」


邪龍は国王を押しのけ、アルバムが入っていた箱を漁る。




こんどはなんだ?




ネビロスは覗き込む。


レヴィアタンが引っ張り出してきたのは、


「おお! 妾が作ったシードラゴンくんではないか!! 懐かしいの!!」


黄色いタツノオトシゴの大きなぬいぐるみ。


レヴィアタンはそばにあった棚に水晶玉を置いた後、高々とそのぬいぐるみを抱き上げた。


「それは! 私の2番目の娘ワッフルのお気に入りのぬいぐるみ!! まさか、お前が作ったと言うのか!!」


国王は驚愕しながらも感動の気持ちを抑えきれなかった。


「当り前じゃ! 海の底に軟禁されていたころは暇で死にそうじゃった。何百体も縫ったものじゃ」


「そういえば、もっと大きいものが・・・」


国王は対抗して邪龍が持っているのよりも大きいシードラゴンくんを取り出した。


「それは一番くじのために作った限定の・・・!」


「ああ・・・。これも我が王国の宝だ」


「ソナタ・・・なかなか見どころがあるの~! それにワッフル姫とは気が合いそうじゃ・・・」


レヴィアタンは親近感を感じていた。


国王は次から次へとシードラゴンくんを引きずりだしては、邪龍とどうでもいい話をして盛り上がっていた。


その様子を見て、取り残されたネビロスは頭を抱える。


「もしもし・・・」


水晶の中から、ネビロスは声をかけた。ようやく二人は気づき水晶に振り向く。


話を邪魔されたレヴィアタンは激怒した。


「黙れ、少年! キサマにこれの良さが分かるか!!」


横で国王まで涙を流しながら頷いていた。


「サッパリ分からん! これがあの秘術に関係しているとでも? そんなのいいから、サガシナサイッ」


ネビロスは真顔で答えた。


邪龍はショックを受け、我に返った。


「はうっ!! そうじゃな・・・・・・うむ。探すかの」


2人は再び黙々と探し出した。


「はぁ・・・。 ん??」


ネビロスはふと横に目をやると、隣には小さな箱のような物があった。見たことのない作りだ。非常にシンプルで装飾が全くない。


「これは・・・なんだ?」


ネビロスの声に反応して二人が寄ってきた。


その小さな箱を手に取った国王は顎に反対の手を当てて暫く考えていたが、次第に思い出す。


「むむ、それは・・・なんだったか。思い出した、思い出したぞ! 確か~、勇者が私に献上した物・・・・・・15年くらい前だったか? なんせ、よく分からん物だったので存在すら忘れておった。「いらんっ!」と言ったんだが、何でも必死にしつこく押し付けるもんだったし・・・。 まあ、世界を救ってくれた恩があるから結局受け取ってしまうことになった。呪物かなんかでなければ良いが・・・」


「なんじゃ? 気味が悪いのなら捨てればよかっただろうに」


「いや、捨てたら呪われるって話も聞くし捨てることもできなんだ。まあ結局、今のところ何ともなくて良かったが」


レヴィアタンは王から受け取り、箱を開けて見せた。


中には水色の透き通った小さな直方体。薄っすら配線が張り巡らされたような模様が刻まれている。財宝でも何でもない。確かに献上物として、よくわからないものだ。


横で国王はつぶやく。


「うん。そう・・・このガラスのような謎の物体。これが何なのか、君たち、わかるだろうか?」


見たこともないはずが、ネビロスの口から意図せず言葉が出てしまう。


「これは・・・・・・魔界製の記憶装置・・・!?」




何か・・・脳裏に浮かんだような気がした。


部屋だろうか、天井から床にかけてつながる円柱の水槽のようなガラス管、そして見たことのない装置など色々ごちゃごちゃとしたビジョンが一瞬浮かび上がった。




「・・・。なんだ、さっきの?」


ネビロスは頭を抱え込む。脳内でビリッとした痛みが走るの感じた。


その様子を見て、レヴィアタンは再び手に取った水晶玉にその記憶装置を当てる。すると吸い込まれるように水晶玉の中に入って、ネビロスの手のひらの上に小さくなって現れた。


「ほう、ビンゴじゃな・・・。これはソナタに授けよう! また何か思い出すやもしれん。ぬふふ、良い収穫じゃった・・・・・・して、これは・・・」


レヴィアタンは続けて同じ箱に入っていた円形の金属片を摘まみ上げた。直径は3センチほどだ。平面ではなく少し球面で薄い紫色の光沢を持つ。反射によってはキラキラと、色んな色に輝く。邪龍はその謎の金属片をじっと眺めていた。




記憶装置と一緒に入っていた金属片・・・・・・




その物体を見ていたネビロスには、それが何を意味するのか全く分からなかった。


それよりも、この記憶装置に応する解析装置はないが、これを見て何か思い出しそうである。


ネビロスはじっと記憶装置を見つめるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る