#22「犬神少女どもよ! 祭りはお開きじゃ!」
ぐらたんがいる病室前の渡り廊下、ズンと鈍い音が響く。
「うっ・・・なんだ? 一体どうしたってんだ」
いつの間にかソファーの上で横になって眠っていたやどりんは顔を上げる。
傍には、ヒロが横たわっていた。彼もまだ寝ている状態だ。
やどりんはソファーから飛び降りる。後頭部が痛いせいか、左手でさする。
たしか、
カオリが飛び出して、続けてじーさんが飛び出した。ヒロっていう王女のお付きの面倒見てたら、ぐらたんに襲われたような、いやまさか・・・
ヒロの手当ての最中、気配がして後ろを振り向いたらぐらたんの姿があった。その直後の記憶がない。
イヌガミギアがない!
懐に入れたはずのギアがないことに気づいたやどりんは慌てて病室に入る。ベッドにはぐらたんの姿はなかった。アギャンとウンギャンが眠っていただけだった。
「アイツ・・・・・・まさか!!」
窓から暗くなった外で光が発生した。また街の方に爆発が起こっていたのだ。
あの状態で戦いに行ったってのか!!?
☆☆☆
「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!」
ぐらたんはイチゴミントに変身した。
魔力はさっきかっ飛んでくるのに使い果たしてしまったが、体力は不思議なくらい回復していた。
ミントロッドを構えて、ミカンと共にドラゴン型のビーストに対峙する。
「あくむーーーん!」
ビーストは前足を振り下ろす。ミントとミカンは左右それぞれに跳んだ。
「ミントスラッシュ!」
「ミカンクナイ!」
双方から光の円盤と光のクナイが飛んでいき、ビーストに命中する。
ミントは建物の壁を蹴って三角跳びをして、ビーストの頭の上に飛び移った。
「ゼロ距離ならどうだ!」
ロッドに纏わせたミントスラッシュをたたきつける。金属が削れるような音とともに激しい火花をまき散らすが、ビーストの鱗には傷がつかない。削られているのはむしろミントスラッシュのようだ。
激しくビーストが首を横に大きく振り、ミントは振り落とされる。
「くっ・・・」
落下中、無防備のミントをビーストの前足が薙ぎ払おうとするが、
「ミカンクナイ!」
ミカンの投擲した多数のクナイがビーストの顔に命中する。刺さらなかったものの炸裂したクナイによって視界が閉ざされ、怯むのであった。
無事ミントはビーストの足元に着地した後バックステップして距離をとった。
ミカンクナイの爆炎の中、ビーストは前進しだす。咆哮して、ビームの発射体制に入った。
まずい・・・! こんな街中でまた・・・!!
ミントはミントエスカッションを展開する。防ぎ切れるのか不安しかない。続けて2重、3重にも光の盾を展開した。
盾とビーストの咆哮の間で緊迫した空気が張り詰めた。敵の溜めが随分と長い。
するとレヴィアタンのホログラム映像が復活した。
『ぬふふふ! 勇敢なドルチェル王国軍の兵士たちよ! ソナタらが時間を稼いでくれたおかげで、王城を占拠した。揺動で姫を助けようとしたことは良かったが、こちらも揺動だったのだよ!! ソナタらの負けじゃ!! ふふふふ・・・ふはははははははははははは!! 犬神少女どもよ! 祭りはお開きじゃ! 尻尾を巻いて逃げるのなら今のうちだ!!』
ホログラムが消えると、ドラゴン型ビーストもうっすらとフェードアウトするように消えて行った。
「そんな・・・」
変身が解けて、カオリは膝をついた。ミントも変身を解除する。
「カオリちゃん一旦戻ろう! 立て直して、攻めに行く・・・」
ぐらたんもフラッと座り込んだ。
「ぐらたん! やっぱり無理しないほうが・・・」
「へへへ、大丈夫。一気に緊張が抜けちゃったから」
「じゃあ、背中を貸してあげる」
カオリはぐらたんをおぶる。
「もう・・・・・・子供じゃないんだから」
「いいから、いいから」
カオリは微笑み、病院に向かって歩いていく。
☆☆☆
ドルチェル王城周辺では、アリのような姿のアクムーンビーストたちが敷地内を徘徊する。
城内の王族、警備兵や省庁の大臣はまとめて一室に監禁された。
王室で、国王と王女2人が捕えられていて、レヴィアタンと船虫が座り込んだ彼らを見下ろす。
「レヴィアタン・・・」
「久しいな・・・ドルチェドよ・・・・・・。ソナタが妾を討ち取りに来て以来じゃ」
邪龍は国王に歩み寄る。
「くっ・・・この国をどうするつもりだ!? 何が望みだ!!」
国王は腕を縛られて抵抗ができない。横でエクレアが同じように縛られて震えていた。
王が睨む中、邪龍はかがんで顔を寄せる。
「どうもしない・・・ただ恐怖を与えるのみ! それとここに用があるのは、宝物庫じゃ」
「宝物庫だとお!!? 好きなだけ持ってゆくがいい! ただし、市民には手を出すな!! ぐっ・・・」
「お父様!!」
エクレアの叫び声をあげるのと同時に、邪龍は国王を掴み上げて無理やり立たせると、腰の太刀を抜刀した。
ドルチェル国王の胴体に一閃が走ると、拘束していた縄が解ける。
「何のつもり―」
「道案内をせよ! 地下の宝物庫じゃ!! 抵抗はやめておくのだな・・・」
邪龍は尻尾を振るうと、テーブルが粉々に吹き飛んだ。勢いよく破片が散らばる。
「!!?」「きゃあ!!」
エクレアは悲鳴を上げながら、ビクッと身を縮こませる。
「コイツみたいになりたくなければ・・・」
バラバラになったテーブルの残骸を恐る恐る眺めながら国王は邪龍に聞く。
「くっ・・・一体何を探している!?」
船虫が後ろから邪龍に近づくと、
「いてえ! ひでーよ・・・・・・破片がメチャクチャ、アタシに当たったんだが・・・」
おデコをさすり、ボヤきながらポーチから水晶玉を取り出して邪龍に渡した。彼女は手に持った水晶玉を見せつける。
「コイツが知っておる」
水晶玉には小さな少年が入っていた。
その不思議な水晶を、国王と王女は言葉が出ないまま見つめるのであった。
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