#21「でもね。私は戦う!」
王城近くの市街地。
街は物騒になっていた。兵や戦車が集結し、四足歩行する巨大なドラゴン型の魔物を包囲する。
戦車のハッチから頭を出した部隊の隊長は、無線から連絡受ける。
「市民を安全に誘導しつつ、応戦せよ!? 姫様はどうなさいますか? ・・・はっ! 了解しました。・・・・・・時間を稼げ・・・か。・・・・・・頼んだぞ救出部隊・・・」
無線を下ろし、隊に命令する。
「歩兵部隊は、市民の避難を徹底させろ! 機甲部隊はこのままの陣形を維持! A小隊からD小隊、いつでも撃てるように待機せよ!」
後方で兵士たちが民間人をつれて後退していく中、次々とドルチェル王国国防軍ブッシュドノエル7F型戦車の砲塔がドラゴン型ビーストに向けられる。
隊長は拡声器を持って、ホログラムの邪龍に叫んだ!
「邪龍に次ぐ! 直ちに王女様を解放せよ! ここはパフェの聖地だ! 貴様が甘党なのはわかっているぞ! そんなことはやめて、パフェを食べようではないか!! 独り占めをして食べるよりは、みんなで食べたほうがおいしいぞ!! 王女様を解放せよーーー!!」
食べ物で釣る隊長の言葉にレヴィアタンは動揺する。
『ぐぬぬぬぬぬ・・・食べ物で釣るとは卑怯な! 貴様たちは妾の恐ろしさを知らないらしいな!! ディープ・アクムーンよ、少し教えてやるのじゃ!』
ゆっくりとビーストは四本足で前進し始めた。
「く、来るぞー!! 市民の避難を急がせろ! 何としても魔物の進攻を食い止めろ! ファイアーー!!」
隊長の合図により複数の戦車から火が吹く。ビーストに何発もの90mm砲弾が命中し、火花と爆炎が身体中に発生した。辺りは爆炎と煙で包まれる。
双眼鏡で隊員が確認する。煙の奥には、四ツ目の紅い眼光が怪しく光る。
「も、目標、変化なし!! ・・・・・・なお、前進!!」
ビーストが眼前まで迫ってきた。
レヴィアタンの声が響く。
『攻撃してくるとは勇ましいものよ。しかし、その程度の攻撃が効くと思っているのか?』
ビーストが前足を振り上げた。最戦列の戦車一台に影が覆い被さる。
『そこの戦車よ! 今から叩き潰す! 死にたくなければ・・・・・・引っ込んでいよ!!』
ゆっくりとまだ前足が掲げ上げられていく。ビーストの前に戦車砲は無力。
「ひ、ひゃあーーー! 退避だ!!」
ターゲットにされた戦車兵たちは恐怖に怯えて次々と降りていった。
ビーストの前足は振り下ろされ、乗り捨てられた戦車は無惨にもひしゃげる。破裂した燃料が引火し、弾薬によって戦車が爆発する。
「あくむーーーーん!」
ビーストが咆哮すると、たちまち戦車隊は後退、または戦車を乗り捨てて逃げていく。そして放棄され無人になった戦車はあっけなく蹴散らされていった。
王国軍が敗走していく中、イヌガミカンただ一人がビーストの方に駆けていく。
「ひどい・・・」
ミントがいなくても・・・・・・私だけで守って見せる! エクレアちゃんを助けるんだ!
「ミカン・イリュージョン! はあああーーー!!」
ミカンは四人に分身して飛びかかる。巨体に四人がかりで斬りつけるが、びくともしない。
ビーストはあしらうように前足で薙ぎ払おうとする。
動作は遅く容易にかわせる!
ミカンの一人はビーストの首まで飛び上がり、顎を蹴り上げる。薙ぎ払おうとする前足が止まり、別のミカンはその前足を踏み台にしてビーストの頭上まで飛び上がる。
「ミカンクナイ!」
5本、10本ものクナイをありったけ投擲する。他の分身たちもクナイを色んな方向から投擲するが、刺さることなく硬い鱗に弾かれたところで次々と爆散した。
「まだよ! イヌガミック・ドライブ!」
空中でミカンは構え直して、神通力を増幅させた。分身たちが本体に重なるように集まり消滅した。シトラスブレイドは強く輝き出す。
「シトラスカット・ストライク!!」
落下を利用してブレイドをビーストに叩き込み、眩い光が迸る。
しかし、必殺技を持ってしても刃が通らない。
「あくむーーーん!」
「そんな!? あっ!!」
ビーストの前足に薙ぎ払われ、建物に叩きつけられる。
「う、あ・・・!!」
建物にできたクレーターからそのまま地面に滑り落ちる。ミカンは左肩を抑えながらよろめくように立ち上がった。
なんて防御力・・・そしてパワー! 今までのアクムーンビーストとは違う・・・・・・
ミカンは格の違いに戦慄した。
ホログラムのレヴィアタンはビーストの戦果を評価する。
『ふむ・・・ハーディニル2世がよこしてくれた新型のディープ・アクムーンの効果は良いな・・・・・・。あっという間に恐怖を巻き上げてくれる・・・。あとは量産段階に入ればじゃが・・・・・・さあ、ディープ・アクムーンよ! とどめじゃ!!』
ビーストの口が大きく開いた。眩い光が口の中に集中する。
エクレアちゃん・・・ぐらたん・・・・・・ごめん。
ミカンが諦めて目を瞑ったその時、彼女の頭上を左から火線が走った。するとビーストの頭部が真紅の火球に飲まれ、炸裂する。凄まじい爆風にビーストはよろめく。顔右半分が焼け焦げ、角の片方が折れていた。
向きがそれたビーストの口から、淡い紫色のマナ粒子ビームが斜め上に照射された。その極太ビームがいつのまにか日没していた夜空を照らす。
『なに!!? ・・・それにキサマは!!』
突然の攻撃にレヴィアタンは驚愕する。すると同時に、ホログラムが乱れてレヴィアタンの映像が消えた。
ミカンは消える直前の邪龍の目線を頼りに見上げたら、空中にぐらたんがいた。様子が違う。ダークパープルの髪には垂れた犬耳。背中にはコウモリの翼、腰からは悪魔の尻尾が生えている。
どうして・・・・・・
彼女の息は乱れていた。病院から支給された寝巻き姿のまま駆けつけてきたというのか。
ぐらたんは構えていた棒状のものを投げ捨てると、すぐさまミカンの方へ飛びがら左手に持っていた魔術師のロッド状のものを担ぐように両手で構える。ロッドの頭の部分が閃光を発しながらビーストの方へ飛んでいく。爆音とともに再び赤い火球がビーストに炸裂する中、ぐらたんが駆け寄ってきた。すると同時に彼女は人の姿に戻ってしまった。
「さっきのが・・・私の本当の姿なんだ」
ヘッド部分がなくなったロッドを捨てるぐらたん。
「どうして・・・・・・ぐらたん・・・どうして、まだ戦おうとするの? キミはまだ体が・・・」
ぐらたんはミカンの目線に合わせてかがみ込む。
「心配かけてゴメンね・・・。休んだおかげで少しはマシになった」
そしてビーストを見据える。
「私だって怖いよ・・・・・・でもね。私は戦う!
ネビロス様が好き。カオリちゃんも好きだよ。そして、パフェを一緒に食べたこの街も好き・・・・・・。好きなものを失っちゃうのが怖いから、戦うんだと思う・・・・・・」
ぐらたんは立ち上がり、ミカンに手を差し伸べる。
「あの時、私もビビってた。ドラゴン族を相手にするのは正直頭がおかしいんだって。でもね、カオリちゃんの冗談で勇気付いた。まだまだ戦えるんだって。さすがお姉ちゃんだね」
ぐらたんはウインクする。それを見て穏やかに微笑んだミカンは手を取り立ち上がる。
「えへへ、そーだね! 私もしっかりしなくちゃね!」
目の前でビーストが体を起こす。
「あくむーーーーん!」
さっきのダメージはすっかり回復していた。怒りをあらわにしたビーストは鋭い眼光で睨みつける。
「それじゃあ——」
犬神少女イヌガミカンと魔犬の少女ぐらたんは覚悟を決める!
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