#20「城攻めの時じゃ!」
ぐらたん・・・なぜ今になって現れた・・・・・・
しかし、ここまで離れていたら被害は少ないじゃろう。
龍姫は突然倒れた少女を運び入れた病院を眺める。そして振り返って歩き出す。
すると死神の衣を纏った少女が目の前に現れた。
「そこにいたか! こっちの準備は万端だぜえ! もう済んだか?」
「ああ、もう十分じゃ、船虫。妾も参る」
「へ・・・襲撃する前に、街を見ておきたいだなんて変なことを考える・・・」
「・・・。そうじゃな。妾もまだまだ甘いな」
龍姫の髪は次第に暗く、ワインレッド色に変わり、尻尾の鱗は黒く変化した。服装も黒装束に変わり、部分的に甲冑が付いていく。額部分のみ覆う兜から見える髪を後ろにまとめ上げ、漆黒のマントを翻す。
「ゆこう・・・城攻めの時じゃ!」
「ひひひ! あいよ、レヴィアタン」
二人は一瞬にしてこの場から消えた。空は曇りつつある。
もはや誰にも止めることはできないのだ。唯一止めることが出来る彼はもういないのだから・・・
☆☆☆
もう直ぐ日が暮れる。城のバルコニーで、エクレアは手すりに寄りかかっていた。
「ぐらたん・・・・・・。大丈夫かしら」
ぐらたんを探しにみんな出て行った。その後ヒロから、ぐらたんを見つけたという連絡が入った。彼女は病院に運び込まれたそうだ。
早く元気になって、みんなとまたお話がしたいなあ。
気を落ち着かせるため、エクレアは部屋に戻りピアノの席に着く。
ぐらたんのあの滅茶苦茶な曲すごかったなあ・・・私にも弾けるかしら。
すると部屋の扉が開いた。
「ヒロ! みんなは!? ・・・・・・!!?」
違う、ヒロじゃない!
ノックせずに入って来たのは、大きな鎌を持っている黒装束の少女。
黒装束の少女は入ってくるなり驚いた表情をしたが、直ぐに鎌を構えなおした。
「い、いい趣味してるなあ・・・・・・。ひひひ、アタシは死神さ・・・お迎えに参りやしたぜ。お姫様」
誰か・・・助けて・・・・・・
エクレアは後ろに下がるがこれ以上は下がれない。体が震えて動けない。その場で縮こまってしまった。
死神の手が迫るのであった。
★★★
-真っ暗。
視界は何も見えない、心拍数をカウントする音が微かに聞こえる。表だってハッキリ聞こえるのは、自身から伝わってくる呼吸の音。
手に冷たい感触。誰かが私の手を握っている。私の体温が異常に高いので、相手の手は冷たく感じるのだ。
冷たい感触が手から離れる。自分が移動しているのに気づく。
どこに、つれてくの? ・・・まって・・・・・・。
おとーさま・・・・・・クロナ・・・ミッシェル叔母さま・・・熱いよお・・・。
ひとりに、ひとりにしないで
★★★
「 !!? はあ、はあ・・・はあ・・・」
気がつくとそこは、白い天井。
あの頃の手術前に微かに意識はあった。その夢を見るなんて・・・・・・
「ぐらたん!」
横を向くと、カオリが立っていた。隣にはアギャンとウンギャンいる。どうしてみんな、そんな顔をしているの?
「お嬢様・・・良かったギャン!」
「御当主になんといえば・・・」
眷属たちは涙を浮かべて、ベッドに駆け寄った。
「私、どうなっちゃたの?」
ぐらたんは状況を聞くが、気を失う前の出来事を思い出しては体を起こす。怠さが残っていた。
「うっ・・・・・・」
「ダメよ! まだ安静にしてなきゃ!」
カオリは起きあがろうとしたぐらたんを寝かしつける。
後から病室の扉が開き、はっちゃんが入って来た。やどりんも一緒のようだ。
「ソナタが広場で倒れていたところを、親切な人が病院まで運んでくれたそうじゃ。その連絡が病院からくるまで、カオリたちがソナタを探し回っとった。その時ちょうど王都に着いたワシらと合流して一緒に探し回ったが・・・途中、病院から連絡が来て、ヒロという王女のお付きの人に車で送ってもらったのじゃ」
「もう! 突然バルコニーから飛び出してどっかにいっちゃんうんだから・・・・・・心配をかけさせないでね・・・」
カオリはそっと、ぐらたんの額を撫でる。
いつにも無く、カオリが真剣だったのが珍しかった。
「ごめん・・・」
やどりんが顔を覗いてきて、なぜぐらたんが気を失ってしまったのか聞く。
「しかし、一体どうしたってゆーんだ?」
「分からない・・・・・・。夢で知り合った友だちに会って、追いかけようとしたら・・・急に視界が・・・」
「ふーん、夢ねえ・・・・・・」
その友だちとの関連性は分からない。原因があるとすれば、彼女の体の問題だとやどりんは推測していた。
「ぐらたん・・・。初めて会った時にも言ったが、アンタには神通力が備わっている。それと同時に元々備わっていた魔力で競合を起こして、イヌガミギアが壊れたんだよな? そして、それと同じ様にアンタの体も魔力と神通力が干渉して、体調が悪化した」
「!? でも、わずかなものだって・・・それに今までは全然何とも無かったよ?」
「ああ。だが、変身するたびに少しづつ神通力が強くなってきたはずだ。そして魔力もプロテクトから逸脱して元に戻りつつある。今まではなんとも無かったが、強くなってきた神通力と魔力が干渉するレベルに達して来たってことだ!」
やどりんの指摘にまわりの者たちは驚愕した。しかし、はっちゃんだけは静かに目を閉じた。
「やっぱり、アンタには無理があったんだよ。悪いことは言わねー。ぐらたん、これ以上の変身は命にかかわる。変身してはダメだ! これは預かる!!」
やどりんはミントのイヌガミギアを取り上げた。
「・・・・・・嫌な予感がするんだ・・・。アクムーンと戦うのに、それが必要なんだ・・・」
ぐらたんは天井を見上げて答えた。
まだ戦おうとするぐらたんにカオリは訴えかける。
「戦う気なの! ・・・ダメよ、ぐらたん。安静にしてなきゃ・・・・・・。大丈夫! 私だけでもなんとかしてみせるよ! だから、キミは休んでいて・・・ね! おねえちゃんに任せてね」
ぐらたんは心配そうにしているみんなを見て、目を瞑った。
ありがと・・・・・・
カオリ、はっちゃん、やどりんは病室を後にし、アギャンとウンギャンはこの場に残った。
「お嬢様・・・申し訳ありませんギャン」
「我々が・・・犬神少女の誕生を望んでしまったばっかりに・・・・・・」
ぐらたんはそっと、眷属たちを抱きしめる。
「大丈夫だよ、アギャン、ウンギャン! オマエたちのせいじゃないんだ・・・。ずっと一緒について来てくれて、ありがとう」
「「お嬢様ーーー!!」」
アギャン、ウンギャンは泣きながらぐらたんに寄り添う。
熱のせいで温かさは分からなかったが、心の暖かな感じがしっかりと伝わって来た。
「うん・・・ありがと・・・・・・少し休むね」
ぐらたんは再び眠りについた。
☆☆☆
病室の外、カオリとはっちゃんとやどりんは待合席に座って話し込んでいた。
「むむむ・・・早く犬神少女クロスプロジェクトを実行させねば・・・・・・」
はっちゃんが俯いて話したことに、やどりんは声を荒げて言い返した。
「おま・・・この後に及んでぐらたんをモルモットにしよってのか! 見損なったぜ!」
カオリが口を挟む。
「どういうこと・・・? はっちゃん! 説明してよ」
「ぬ・・・。ぐらたんは見ての通り、魔力と神通力を持ち合わせている。今のままではダメじゃ。得体の知れないアクムーンの力に対抗する新たな力が必要なんじゃ。もちろんぐらたんが大丈夫なように作り直す! 自分自身情けないが・・・・・・ワシにできることはこれくらいしか・・・」
「それでも!! ・・・ぐらたんは・・・」
さっき彼女の手が震えていたのに気づいた。体調が悪い状態でも戦う意思を示していたが、きっと本当はぐらたんも怖いはず。
相手はあの厄災を呼ぶ邪龍だ。
やっぱり私だって・・・・・・
幼いころ初めて犬神少女に変身し、妖魔と戦った。それは一人の弟のためだった。
その後、私はみんなよりも弟のため犬神少女であることを捨て、人里に住むことを選んだ。
一人を守るために精一杯だったからだ。
そして今一度、ぐらたんの助けになるため再びイヌガミギアを手に取った。
ネビロス君を助けるだけだと思っていたはずが、秘術をめぐるナイトメアユニオンとの戦い。この世界の運命がかかっている。
今度こそ私は、みんなを背負って戦うことができるのだろうか。
ぐらたん。キミは、ネビロス君のために戦っているんだよね・・・。
キミも気づかないうちに背負い込んで苦しんでいるの?
じんわりとカオリから涙が溢れてきた。
立ち上がり、ぐらたんのいる病室に再び入ろうとした時、声がした。
「カオリ様・・・皆様・・・・・・」
振り向くと、そこには傷だらけのヒロが壁に寄りかかりながら助けを求めきた。
「ヒロさん! しっかり!」
カオリはヒロの体を支えた。
「うっ・・・。姫様が・・・姫様が・・・」
「エクレアちゃんがどうしたの!!? はっちゃん! ヒロさんをお願い!」
まさか、邪龍が攻めてきたの!?
カオリはイヌガミギアを片手に走り出す。
「待つのじゃ! カオリ!!」
はっちゃんの言葉は届かず、カオリは外に出ていった。
病院から出ると遠くで巨大な影が見えた。アクムーンビーストだ。そしてその上に大きな人型のホログラムが浮かび上がった。
「あれは!!」
ホログラムを見上げるカオリ。その後ろではっちゃんが駆けつけてきた。
ビーストの頭上に浮かぶ人物像。頭には大きな湾曲した角とワインレッドの長い髪を纏めている。ところどころ装甲がついた黒装束に身を包んだ女性。
兜で目元がわかりづらいが、隻眼の鋭い金色の目が街を見下ろす。漆黒の鱗で覆われた大きな尻尾が後ろでうねっている。
『王都市民の諸君! 妾はナイトメアユニオン、邪龍レヴィアタンである。王女エクレアの身柄は我が手中にある。ドルチェル王国に告ぐ! 抵抗はせず降伏せよ!!』
邪龍の横から、エクレアが割り込むように映し出された。
カオリはエクレアの姿を見て息をのんだ。
エクレア・・・ちゃん・・・・・・
街が慌ただしい。国軍兵たちが魔物の方へと集まっていく。
カオリは彼女の言葉が脳裏に蘇る。
感謝の言葉と応援の言葉。
そうだ。エクレアちゃんやみんなの笑顔を守るために、私が戦わなくちゃ!
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