#18「お姉さんたちは犬神少女なのですよね!?」

ドルチェル王城。王都クリーミートップの中心に位置する。


長い坂道を上り、ぐらたんたちは門前にやってきた。門の向こう側には広い庭とその奥に立派な城が建っている。


門兵2名が待ち構えており、


「一般の立ち入りは許可しない」


これより先には通さまいと立ちはだかる。


「王都が危機なんです。王様にお話が・・・」


カオリが頼み込むが、


「分かった、分かった。警備の邪魔だから直ちに立ち去りなさい」


そう、こんな子供の言うことなんて聞き入れることはないだろう。


「・・・諦めて、私たちでなんとかするしかないね。行こうカオリちゃん・・・失礼しました」


ぐらたんは敬礼をして離れる。門兵たちはその動作を不可解に思いながらも敬礼を返した。


カオリも振り返り離れようとしたところ、リムジンが門前にやってきた。


後部座席には小さい女の子が座っていた。身なりも品のあることから王家の身内か、貴族のお嬢様に違いない。


門が開いてそのままリムジンは入っていく。しかし一旦止まり、バックしてぐらたんたちのところまで戻ってきた。


リムジンから黒髪でスーツ姿の青年が降りて門兵に話しかけた。


「お疲れ様です。あのお嬢様方を城にお連れしたいのです。姫様からのお願いであります」


「姫さまから・・・? ・・・・・・。了解いたしました。キミたち、入城を許可する。戻って来なさい!」


さっきの門兵が声をかけ、スーツ姿の青年がこちらにやって来た。


「お嬢様方、姫様よりあなた方とお話がしたいと・・・・・・ご同行お願いいたします」


頭を下げ、後部座席のドアを開いた。


「ええ~~!!? ぐらたん、なんだか知らないけどやったよ」


カオリは興奮気味だ。滅多に城に入れることなんてあり得ないことなのだから、無理もない。


「あ、うん! 失礼いたします」


ぐらたんたちはリムジンにいそいそと乗り込んだ。リムジンの中、カオリは落ち着かない様子だった。


向かいには8歳ほどの金髪碧眼の女の子が座っていた。


「ようこそ王都に! お姉さんたちにいろいろお話が聞きたいです! お姉さんたちは犬神少女なのですよね!?」


金髪の上品な女の子は手を合わせ、目をキラキラさせて、ぐらたんたちを見つめる。


ぐらたんは驚く。


「どうしてその事を!?」


少女の隣に座っている先ほどのスーツ姿の青年が答える。


「今、世間で話題になっておりますよ? テレビに映るあなた方を見て、姫様は憧れておいでなのです。それに魔法少女のアニメが大好で、いつもごっこ遊びをされております」


お付きの青年の言葉を聞き、ぐらたんはお姫様に向き直る。


「そっか・・・そうだったのか」


「犬神少女の知名度が上がって良かったギャン!」


認めたくないが知名度でなんとか王の謁見が叶いそうだ。


「・・・んんっ? 姫様?」


カオリは緊張して話についてこれない様子。しかし、青年から出たある単語に反応した。


「申し訳おくれました。わたくし、ドルチェル王国第6王女エクレア・カスタード・フィーユ・ドルチェドです」


お姫様は一礼して名乗った。話し方も気品溢れて、流石王族と言いたいところだ。


「お姫様~~!!? お姫様さまだったの!? か、可愛い・・・お人形さん見たい!!」


カオリは本物のお姫様を見て、興奮しているようだ。


「カオリ・タチバナです! フレークベース大学附属高校1年。カオリでいいよ! でございます」


「私は、グラ・・・ぐらたんって呼んでね。それでこっちは・・・・・・」


「私はアギャン!」


「某はウンギャン!」


全員自己紹介をした。


「わー! 魔法少女についてくる小さいのですね! いいですかー?」


エクレアは身を乗り出して、アギャン、ウンギャンを抱きしめた。


「可愛い・・・ふわふわー!」


喜んでいるエクレアの様子を見てカオリは呟いた。


「お姫様が、くわいい・・・・・・」




☆☆☆


ぐらたんたちはエクレアの部屋に案内された。




それまでの道のりは結構長くて、流石お城といったところか・・・




エントランスホールのシャンデリアはLEDが使われていて、所々近代化されている。それでも、壁の絵画や大きな窓、映り込むほど磨かれた大理石の床。そしてその上に敷かれる赤絨毯。歴史的建造物であることが損なわれていない。


部屋にたどり着くまでの間、退屈することはなかった。




さて、入ればこっちのものだが、どうやって国王の謁見まで漕ぎつければいいか・・・




「ヒロは、お茶菓子の用意を」


「かしこまりました」


エクレアはおもてなしを用意するように指示して、ヒロと呼ばれたお付きの青年は一礼してこの場を離れていく。


「さあ、どうぞ。お入りください!」


エクレアは自室の大きな扉を開く。


この先には、お姫様らしいお部屋が・・・


突き当たりに見えるのは開いた大きな窓、両端でカーテンがなびいて、側にはグランドピアノが設置されていた。他には、机に椅子。大きなクローゼット、ベッドやソファー。


窓の外はバルコニーがあり、白い丸テーブルと椅子が並んでいる。


お姫様に招かれ、カオリたちは部屋に入って見渡す。ぐらたんも後に続いて部屋に足を踏み入れた。




魔界帝国皇女殿下のところに遊びに行ったことのある私にとっては見慣れた光景で、この部屋は実に気品に満ち溢れた部屋であったに違いない。




あるものを除いては・・・




それは、今流行りの女児向けアニメだろうか、魔法少女らしきデフォルメされたキャラのぬいぐるみがいたるところに飾られている。机にも、ソファーにも、ベッドにも。


それだけじゃない、部屋の絨毯やソファーのクッション、ベッドのシーツやら壁紙までその魔法少女関連のグッズであった。お姫様らしいというよりも、女の子らしいお部屋であった。


「・・・・・・」


ぐらたんは言葉が出なかった。アギャンやウンギャンは笑顔だが部屋については何も言わない。しかしカオリはというと、


「わあ! お姫様のお部屋素敵ですね~! 本当に魔法少女が大好きなんですね♪」


「ええ!」


王女の部屋の違和感に動じなかった。




人間界、妖精界とはこれが普通なのだろうか・・・




ぐらたんは少し頭が痛くなってきた。


「あ・・・敬語などお気を使わなくて大丈夫ですよ。あなた達とお友達になりたいから・・・ここでは、エクレアと呼んでね!」


「もちろんだよお! エクレアちゃん」


「あ・・・よろしくね!」


扉からノックがして、お付きのヒロがお茶やお菓子を持って来た。もちろん、陶器類も魔法少女グッズだ。


紅茶やお菓子はバルコニーにて振舞われた。

気分を落ち着かせるためにぐらたんはゆっくりと、ティーカップに口をつける。




姫君色に染め上げられたお茶会は落ち着ける訳がない・・・

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