#17「塔はダンジョンの定番だね~!」
ドルチェル鉄道に乗って南に降り、王都クリーミートップへとやって来たぐらたん一行。
船虫の言っていた通りだと、邪龍レヴィアタンが王都を攻めるという。今のところ邪悪な気や怪しい雰囲気は無い。大きな建物が立ち並び、人盛りはフレークベース並みである。流石、国家元首のお膝元。軍服を着た兵士たちをチラホラ見かける。
そしてクリーミートップといえば、パフェの聖地である。甘い香りが街中を漂う。
邪龍を警戒して見回るがその誘惑に誘われて、
「うわー、見て見てカオリちゃん。まるで塔みたい! 他にも色々あるね~。おいしそう♪」
「ふふん、塔はダンジョンの定番だね~! こんなに並んでいると入らずにはいられない・・・」
ぐらたんとカオリの二人はパフェ専門のお店のショーウィンドウに顔を押し付けて、目を輝かせながら陳列されているパフェのサンプルを眺める。
カオリはぐらたんに振り向く。
「ところで、魔法使いぐらたんさん・・・ここは一つ塔を攻略していきましょうかね♪」
「もちろん! 勇者カオリ!」
「ではでは、出撃しますか」
「「承知だギャン!!」」
後ろで、アギャンとウンギャンが一斉に飛び上がった。
一行はお店に入って行った。
案内された席に着き、メニューを眺めてはどれにするか悩むぐらたん。カオリはメニューに挟まっていたチラシを見つけた。
「ドルチェルパフェ祭りかあ・・・・・・行きたかったなあ」
毎年開催される祭りだ。全国のパテシエが集まり、パフェを作るコンテストが開かれる。
ぐらたんもそのチラシを見つけて眺める。
裏をめくると過去入賞したものがここのメニューとして追加されていることに気づく。
そこでぐらたんは驚くものを見つけた。
「え!? 嘘、ネビロス様!?」
写真に腕組みをしたパテシエ服姿の主がいた。
銀髪で、目はぐらたんと同じくエメラルド色だが、若干青めだ。腕を組む姿からクールさが伺える。
彼の横には倒れないのが不思議なくらい巨大な塔のようなパフェがあった。去年春のもので結果は佳作。そのとんでもない高さとバランスは物議を醸し出し、話題になっていたと記されていた。
去年の春か・・・ちょうど魔界帝国陸軍士官学校の任官式の時期だった。もっと早くに辞令が出されていれば!
「へえ~、ネビロス君ってこんな子なんだ。ぐらたんが好きになる訳だ」
カオリも裏を見ては、ニッコリとした顔をぐらたんに向けた。
ネビロス様を無事助け出すことが出来たら、またここで・・・
メニューに載っているネビロスが作ったパフェは再現できなかったのか実際の3分の1ほどの高さだ。
ぐらたんは迷わずこの主の作ったパフェを頼む。
「すみません! このザ・タワーお願いします。」
「ほー、攻めますね。ぐらたん、私も加勢するよ!」
「「我々も!」」
破格の大きさから、スペシャルメニューとして時間制限までに感触出来たら半額。しかし、誰も制覇した者はいない。ぐらたんたちはネビロスが生み出したパフェの魔物に挑戦する。
☆☆☆
ハッカタウン駅。
構内で利用客の注目がはっちゃんに集まっていた。巨大なモフモフの塊が改札を通り抜けるのに難儀していたからだ。
そしてやっと狭い改札を通り抜けることが出来たはっちゃんは次の難関、停車してるドルチェル特急の搭乗口に入ろうとする。
「ぬううううう!」
後ろからやどりんが体当たりをして、ボフンとようやく車内に収まり通路を進む。通路もはっちゃんにとって相当な狭さだ。進むたびに席に座る客にモフモフが撫でられる。
「おい、わざわざ鉄道使わなくてもいいんじゃないか? はた迷惑なジジイだ、全く!!」
やどりんは文句を言いながら後ろからモフモフの塊を押す。
「良いではないか。窓から眺める景色を目に焼き付けておきたいのじゃ」
対抗から歩いてくる乗客は、何も言わずに後ろに下がっていく。この気まずい空気が居ても立っても居られない。やどりんはさっさと王都に着かないかとイライラする。
ようやく座ったが、はっちゃんのモフモフボディに埋もれて落ち着かない。
窓の外から見知らぬ女子高生が手を振るのを、はっちゃんは気前よく手を振ってみせる。
通路を挟んだ隣の席には小さな子連れの親子が座って居る。
「パパ、モフモフ!」
ちびっ子が興味深々な眼差しで覗き込んできた。それに反応して、はっちゃんは愛想よく手を振る。
「あの・・・写真いいですか?」
ちびっ子の保護者があとからたずねてきたので、はっちゃんは気前よくで答える。
「構わんよ」
落ち着かない・・・やっぱりじーさんに付き合うんじゃなかった。
その様子を見ながらやどりんはモフモフに圧迫されながらも、気を紛らわすために携帯ゲーム機を取り出すのであった。
☆☆☆
30分が経過。パフェ専門店で、勇者パーティは全滅した。
そびえ立つパフェはまだ半分も残っている。いまだ健在な魔物を囲んでぐらたんたちは顔を伏せて力尽きていた。
「う・・・もうダメ・・・・・・魔王は倒せなかった・・・・・・魔法使いぐらたん、後は任せた・・・・・・かは、勇者カオリ、この店に眠る」
「「ギャン・・・もう食べれない・・・」」
ぐらたんはスプーンを握り、ゆっくり体を起こす。
こんなはずじゃ無かった・・・
4人でかかればなんとかなると思っていたが、予想以上に立ちはだかるスイーツの魔物が圧倒的な物量であった。胃は悲鳴をあげていたが、まだ舌は甘味を欲していた。
「せめてこの埋もれたイチゴだけは・・・・・・」
パフェに盛り付けられたイチゴをスプーンで掬ったところで・・・・・・
「パクっ」
突然現れた船虫がスプーンに喰らい付いて、イチゴを食べてしまった。
「ひひひひ、満身創痍だな~、キサマら。アタシが引導を渡してやるぜ! 今更だが、レヴィアタンの頼みをきいて、クリーミートップのパフェ全て貰っていくとするか!! 出てきやがれ! アクムーンビースト!!」
船虫は外にビーストを召喚した。
「あくむーーーーん!」
この前のカマキリ型だ。四つの鎌を持つ腕を広げ咆哮する。周囲の人々が驚き、慌てて逃げ出す。騒ぎに気付いた国軍兵がすぐに駆けつけてきた。
自動小銃をビーストに向けて構える。
正気か!!? まだ客がいるんだぞ!!
「うぷっ、ぐらたん?」
ぐらたんは咄嗟にうなだれているカオリの頭を抑え込みテーブルの下に伏せた。そしてアギャンとウンギャンもテーブルの下に引きずり込み、周りの人々にも言い聞かせる。
「伏せて!!」
直後に自動小銃による発砲音が響きわたる。
しかし、ビーストの硬い外骨格には傷一つつかない。
跳弾や流れ弾が店のガラス張りを突き破り、店内の備品を破壊していく。そのたびに悲鳴が上がる。
「くっそ~!!! 親衛隊のド素人どもめ~~~!!! 帰れ!!!」
伏せて頭を押さえている客から野次が飛ぶ。
「ダメだ・・・魔術隊の要請を・・・・・・うわーー」
虚しくも国を守る兵士たちが蹴散らされていった。
銃声が止み、店内の人たちは逃げようとするが船虫が大鎌を構えて出入り口を塞ぐ。
「おっと、おとなしくしてな! この店はナイトメアユニオンが貰い受ける」
人々が恐怖で怯えてその場に大人しく座り込んだ。
ぐらたんはゆっくり立ち上がる。
「よくも・・・私が食べようとしたイチゴ食べたなぁーー!!」
イヌガミギアを取り出し、
「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!!」
イチゴミントに変身した。鋭いエメラルドの目が船虫に刺さる。
「いっ・・・・・・」
あまりの気迫に、船虫は後退して店から出た。
「食べ物の恨みは恐ろしいのだ! おもいしれ!!」
ミントは店を飛び出し、ミントスラッシュを放った。
ビーストが鎌で弾き、船虫を庇った。
「あくむーーーーん!」
「邪魔をするなあーーー!!」
ミントはビーストに飛び掛かる。四つの鎌とミントロッドが激しく打ち合う。
☆☆☆
「カオリちゃん、起きて! アクムーンビーストだギャン!!」
ウンギャンはカオリを起こす。
「う・・・・・・寝てる場合じゃないわ! イヌガミライズ! マジカル・イヌガミカン!」
ようやく体を起こしたカオリはミカンに変身した。
「ウンギャン、店のみんなをお願い!」
「承知! 気をつけるギャン。・・・おねーちゃんいい加減起きるギャン!」
ミカンは加勢するため、店の外に飛び出した。
☆☆☆
「ミントスラッシュ!」
ロッドの先端でミントエスカッションを回転させて、ビーストに振るう。色んな方向から打ち込むが4刀流の鎌に全て受け流される。それでも向こうに反撃の隙を与えさせない。徹底的に攻めに入る。
「ちっ、どーしたアクムーン根性みせろ!」
「あくむーーーん!」
ミントスラッシュを弾き返し、ビーストは4つの鎌で一斉に薙ぎ払った。それぞれの鎌から光刃が飛び出す。
「ミントエスカッション!」
ミントはエスカッションのポジションを変更して防御に徹する。
たくさんの刃を連続して防ぐが次第に光の盾に亀裂が入り、ついには弾け飛んでしまった。
「うわ!!?」
衝撃でミントは体勢を崩して、後ろに倒れる。
「いまだ、アクムーン!」
ビーストが鎌を振り下ろそうとした。
「ミカンクナイ!」
しかし、橙色の光るクナイが数本、ビーストに飛んで来ては鎌の上腕部に刺さった。
すると時間差で爆発した。鎌の一本が吹き飛んでビーストも体勢を崩す。
「ミカン!」
ビーストにミカンが立ちはだかった。
「ゴメン、待たせたわ! ・・・やあ!」
ミカンは素早い動きで、シトラスブレイドで斬り込む。ビーストも負けじと鎌で受ける。
鎌とブレイドがせめぎ合っている間に残りの鎌がミカンを狙う。
しかし、ミントが展開したエスカッションで阻まれた。
ミカンは体勢を立て直すため一旦下がる。
そしてビーストもその隙に失った鎌を再生させた。
「ありがとう」
「ミカン! コイツなかなかやる」
「そうね! それじゃあ、この技でどう!?」
ミカンは腕をクロスさせる。
「ミカンイリュージョン!」
ミカンが分身して4人になった。
「あくむーーーん」
ビーストは分身もろとも殲滅しようと一斉に鎌を振り、光刃を乱射する。しかし、ミントエスカッションに阻まれる。
「馬鹿め! 防ぎきれないのは分かってんだよ!」
その通りにミントエスカッションは炸裂したがその後ろで、犬神少女たちの姿が居ない。
「あくむん!?」
ビーストは犬神少女を探るが、スッと背後からミカンが斬りつける。ビーストは反応し、受け流すが、4方向から同時に分身したミカンのラッシュが次々と叩き込まれる。流石の手数に翻弄されてどんどんと、鎌が斬られていく。
「あ、あーーー」
慌ててふためくビーストの頭上に、ミントが飛び上がっていた。
「イヌガミック・ドライブ!」
「任せるわ! ミント」
ミカンたちはその場を一斉に離れると、ミントは光であふれるロッドを構えた。
「ミント・リフレッシュ・トルネーーード!」
光の渦がビーストを呑み込んで浄化する。最後に結晶体が弾け飛んだ。
「チクショーー! 何か食ってから挑めば良かった・・・おぼえてろーーー!!」
船虫は捨て台詞を残して消え去った。
邪龍は姿を見せなかった。これも船虫の時間稼ぎというのなら、先手を打って王に危機を知らせに行くのもいいかもしれない。備えはあったほうがいい。しかし、そう簡単に伝えられるかどうか・・・
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