#16「犬神少女クロスプロジェクトの始動じゃ!」

ミンティーフォレスト、精霊の里にある屋敷内。壁に張り付くアンティークな掛け時計の振り子が静かに揺れている。


はっちゃんは書斎で古い文献を読み漁っていた。


すると木製の板で張り巡らされた天井からニョキっとやどりんが生えてきた。


「じーさん、どうしたんだ? 思い出したように・・・」


天井からストンっとはっちゃんの前に降り立つ。


「いや、友とともに作り上げた大切な物を思い出してだな・・・」


はっちゃんは本を棚に戻す。そして棚にはひとまず置いていた一つの葛篭を手に持つ。


やどりんはその葛篭の中身がなんなのか分かっていた。


「IG-0・・・。イヌガミコのギアか? そんなもんまだ残ってたなんてな・・・・・・どーするつもりだい?」


イヌガミコ、犬神少女計画の発端で開発されたプロトタイプだ。コスチュームはモックアップで用意された紅白の狩衣である。システムの同調実験用に作られたもので、戦えるようには想定されていない。


「先の大戦で8基のうち失われたイヌガミギアもいくつかある。あの子に少しでも戦力になればと思ってな・・・」




先の大戦、天魔戦争か・・・。人間界をも巻き込んだ天界と魔界との戦争。その戦争に先任の犬神少女も投入されたが、あの戦いでみんな散り散りバラバラになって行方が分からないままだ。その中で、ミントのイヌガミギアを持っていた悪魔の少女。どうして所持しており、どうして変身できるのか気にはなっている。




やどりんは聞く。


「なんだ? あの悪魔が気になるのかい?」


はっちゃんはただ軽く笑って反応して見せ、再び棚の本を漁る。


その時、やどりんはミントのギアの調整で興味深い生体データを思い出した。




悪魔であるぐらたんが、神通力を持ち合わせている。今までにないことだ。堕天した元天界の者だって神通力を持っていたが、魔界の環境に適応するために神通力は次第に失われて行くものだ。逆もありえる。とにかくどちらかに完全に偏ってしまうのが普通だ。


しかし彼女にはマナ循環系と神導回路が共存している。ありえないことだ。いや、共存という言葉は違うか・・・ぐらたんの体内で奇跡と言えるほど、マナ粒子とエーテリオン粒子が干渉していない。血液循環系がマナを司り、神経伝達系がエーテリオンを司っているという神がかったものだ。しかし、そんなものが生まれながら自然と出来上がることなんてあり得るのだろうか?




「どうした、やどりん。もちろん手伝ってくれるのじゃろ?」


「ん、ああ。しかし、じーさん。そんな実験器じゃ、当てにならねーよ・・・」


呆れて答えるやどりんだったが、はっちゃんが本棚から抜き出した本を見て表情は一変した。


彼が取り出した本は魔術に関するものだ。


やどりんは察したのである。


「おい・・・まさか、じーさん!」


「勘が冴えとるの! あの子の魔力と神通力が上手いこと合わされば、物凄いことが起きそうじゃ・・・・・・そのためにこのIG-0のイヌガミギアを使って、作り直すのじゃ」


「はあー、とんでもねーこと言いだしたな、クソジジイ。昔はあれほど魔族を嫌ってたのにな・・・」


「ワシもそう思う・・・・・・しかし、何故か放ってはおけぬのじゃ。あの子」


「はあ~? 惚れたのか? ・・・このロリコン!」


「戯け!! そうじゃないわい!!」


ヘラヘラと冷やかすやどりんに、はっちゃんはチョップをかました。


「冗談だってば・・・。で? どうするよ。今の段階じゃ、マナとエーテリオンを合わせたところで光になるだけだ。最悪、自爆だぞ? 爆発少女でも作るつもりか」


マナ粒子とエーテリオン粒子を衝突させると光子崩壊を起こす。高エネルギーほど強く爆発的に反応する。


「問題はそこじゃな。・・・・・・おまけに魔術の知識もサッパリ」


「そこからだよな~。・・・直接本人に聞きに行くか? ついでに戦闘データも取れて、どうゆー風に改造するか方向性も見やすくなるぜ?」


「ヨシ! そうと決まれば荷造りじゃ! ・・・・・・げふん、ごふ・・・」


すると、激しく咳き込む。口にあてた手は真っ赤に染まっていた。


「・・・・・・!」


「おい! じーさん!」


駆け寄ろうとするやどりんに手を差し出して制止する。


「心配いらん!! 大したことは・・・」


はっちゃんは手のひらを見つめる。血で染まった自身の手を中心に視界がボヤけてくるのがわかる。


「無理はするな。アタシが行って来てやる」


「いや・・・無茶をしてでもやり遂げねば・・・・・・この時代に生きるもののために・・・なんせ、この世界が大好きじゃからな!」


「全く、世話の焼ける龍神だな」


「ふっ! 今のワシの最大の取り柄じゃよ」


やどりんは自分の腕から手頃な杖を作って見せた。


「すまぬな・・・・・・。して、ぐらたんは今何処にいるのやら」


「あー、そうだよな~。ひとまずフレークベースに行ってみるか?」


まだあの都市にいることを期待して、フレークベースシティを目指すしかない。


すると里の妖精が飛んできた。


「はっちゃん様~! やどりん! 人里の仲間たちからの知らせです。巫女姫たちがカオリを連れて王都に向かったようです」


無事にカオリに会えたようだ。


「おー、さんきゅーな」


「さて、向かうとするか。犬神少女クロスプロジェクトの始動じゃ!」


はっちゃんは被った帽子を整えると勢いよく指をさした。


「誰に向かって話してんだい。 身支度さっさとやりな!」


やどりんは専用の小さなキャリーケースに着替えなど生活出需品やイヌガミギアのメンテナンスツールを詰め込んでいく。


「わかっておーるっ!!」


はっちゃんは書斎を飛び出し、身支度をするために自室に向かった。


そして、準備の終えた龍神あめのはっか龍王とやどりんはドルチェル王都を目指して精霊の里を発つのであった。

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