#15「アタシたちはナイトメアユニオン」

廃病院でアギャンとウンギャンに合流してそのまま適当な病室を借り、捕らえた船虫を椅子に縛りつけた。懐中電灯の灯りで船虫は照らされる。


眩しさで、いったん目をつぶる船虫。目が慣れてきたところでぐらたん達をにらみつける。


「くそが・・・アタシをどーするつもりだ!!」


激しく暴れるが、拘束はびくともしない。


ぐらたんは無駄な抵抗をする船虫に背後から囁く。


「え~? これから楽しい取り調べだよ? 回答によっては・・・・・・分かってるよね?」


暗闇に怪しく光るエメラルドの目を細め、ぐらたんはそっと船虫の触角に触れる。


「ぐらたん・・・なんだかちょっとコワイよ? 別に、こ、こんな所で聞かなくても・・・」


ソワソワするカオリは懐中電灯で船虫を照らしながら呟く。


「カオリちゃん! 尋問する雰囲気は大切だよ。しっかりこの虫から聞き出すんだから」


「船虫だっつーの!! くう・・・」


ぐらたんは船虫に向き直り、ウッキウキな笑顔で問いかける。


「じゃあ質問! キサマ達は何者? どうしてネビロス様をさらったの?」


「・・・へん! 誰が答えるかボケナス! ひとおもいにやれってーんだ!!」


船虫は口を割らない。


「わふふふ・・・拷問をご所望という訳か・・・・・・。アギャン、ウンギャン! やれ!!」


ぐらたんは不気味な笑顔で指を鳴らした。


「ぐらたん、まっ・・・」


カオリの制止は届かず、アギャン、ウンギャンは命令のまま行動する。


「「承知!」」


眷属の二匹がゆっくり近づく。


薄暗い部屋の中、タペタムに反射してギラつく四つの眼光が船虫に突き刺さる。


「ひっ!? な、何をするつもりだ・・・・・・やめろ・・・くるなーー!!」


どんどん近づいいてくる小さなシルエット。マスコットのようなアギャンとウンギャンはいつもと違い、呪いのぬいぐるみのように・・・コワイ。


船虫は必死にもがく。目には涙が浮かんでいた。




病室で悲鳴は――




上がらなかった。


ポフんっとアギャンは膝の上に乗って、ウンギャンは左肩にもたれるようにのしかかった。


「え・・・!?」


伝わるのはモフモフふっくらした毛ざわり、ふわふわで暖かい感触だ。


二匹は船虫にまとわりついて軽くポンポンとパンチやキックをして揉みくちゃにする。


「わあ・・・・・・」


触角をへなんっとさせて船虫は和んだ表情で二匹に身を任せていた。


「どうだギャン! モフモフしたいだろ?」


「モフモフしたくてたまらないだろ?」


「うっ・・・」


手を出したくても背もたれの後ろに手を縛られて手を出せないモヤモヤ感が船虫を襲った。


予想外な光景にカオリは固まっていたが、


「いいな、私もいいかな?」


「いいよ」


モフモフしたい衝動にかられたカオリに、ぐらたんはOKした。


「じゃあ、今回はアギャンで!」


アギャンを船虫の膝の上からヒョイっと抱きかかえた。カオリが和む様子を見て、


「くっ・・・・・・アタシも!!」


船虫もモフモフしたい衝動に襲われた。ぐらたんは不適な微笑を浮かべもう一度聞く。


「何者? ネビロス様をさらった目的は?」


「う~~~~~~~っ!!」


目をしっかり閉じてこらえるが、船虫は誘惑に負けて洗いざらいしゃべるのであった。


「アタシたちはナイトメアユニオン。お前の主をさらったのは、奴に記憶された秘術・・・」




やはりナベリウスの遺産を知っていたか!




ぐらたんは続いて質問する。


「その秘術を使ってどうするの?」


「アタシが知っているのは、死者を蘇らせたりとか不可能なことを可能にできる万能の力くらいだ・・・・・・その実態はわかんねーからな。その力使って、ナイトメアユニオンの理想を叶える!」


奴らはまだ遺産のことを解明できていないようだ。


「理想・・・?」


カオリが口を開く。船虫は答えた。


「ナイトメアユニオンの総裁、タマモ様はこの世界を支配して人々を絶望に陥れることだ」


「どうしてそんなヒドイことを!?」


カオリは続けて聞いた。船虫は俯く。


「それは・・・・・・。アタシにもわかんね~。タマモ様は世界を征服する前段階でアクムーンを作って人々の恐怖からマナを集めている。その下でアタシが動いているだけだ! ・・・・・・もういいだろ? モフらせてくれよー!!」


ぐらたんはナイフを取り出すと、船虫の腕を縛る縄を断ち切った。船虫は肩に寄りかかっているウンギャンを抱きしめては、目にも止まららぬ速さでモフモフと揉みしだく。


「ひひひひ、モフモフだあ!!」


ふわふわな感触にうっとりする船虫。


「う、うわああ!! なんか手つきがいやらしいギャン・・・」


モフられているウンギャンは気色の悪さに、毛が逆立つ。


「最後に、ネビロス様は何処に? アジトは?」


ぐらたんは最後の質問をした。


「場所か・・・。アタシにも分かんねな、あそこは邪龍が作り出した空間だ。何処に存在するかと言えば・・・・・・回答に困るな・・・あー、行き方はな、この札をな・・・」


船虫は懐からカード状の物を取り出す。カードには魔法陣が刻まれている。


「それは!?」


アギャンが反応した時だった。


船虫は札を上に放り投げる。天井まで上がった札にぐらたんたちの視線が集中した。その隙に船虫は口から三日月状の結晶体を吐き出して叫ぶ。


「出て来やがれアクムーンビースト!」


紫の光を発して、大型のカマキリ型ビーストが現れた。普通のカマキリと違い、鎌を持つ腕は4本ある。


「しまった!」


ビーストは船虫を拘束する残りの縄を椅子ごと切り裂いた。


「あくむーーーーん!」


ビーストは船虫を拾い上げて背中に乗せると穴の空いた天井。いや、異空間が渦巻く穴へ飛び上がる。


「くっ、船虫ーーーー!!」


ホバリングするビーストの背中の上で、ぐらたん達を見下ろす船虫。


「ひひひ、切り札は最後まで取っておくってなあ・・・。コイツは返すぜ!」


船虫は抱きかかえたウンギャンを解放した。


「ギャン!」


ウンギャンはぐらたんの頭に落下した。そのままぐらたんの頭にしがみつく。


「ひひひ! アタシから最後に忠告しておいてやるぜ! ネビロスをさらったのは邪龍レヴィアタン!」


「レヴィアタンだって!?」


ウンギャンは驚愕した。




邪龍レヴィアタン。干支十二国を海に沈めた噂は聞いている。




「そのレヴィアタンが近々、動きだす。ドルチェル王都を占拠するためになあ! キサマらじゃ到底相手にならねーぜえ! 次こそお終いだ! アディオス!!」


船虫を乗せたビーストが入る異空間が閉じていく。間もなくゲートが閉じると何もない天井に戻った。


「レヴィアタン・・・予言の、厄災を呼ぶ邪龍・・・・・・」


アギャンも動揺した。二匹とも邪龍の恐ろしさは分かっているようだ。




無理もない、堕天した身だが故郷である戌ノ国を沈められたのだから・・・たとえ邪龍でも・・・二匹の眷属たちのためにも。そして、ネビロス様のためにも、私は逃げはしない。


それに、奴らが場所を指定して動くということはナベリウスの遺産と関係があるかもしれない。




ぐらたんは右手をぎゅっと握りしめた。その様子を見てカオリも覚悟を決める。


「そうだね! みんなを悪夢から守るために私たちが戦わなくちゃね・・・」


みんなの意思をまとめようとしたが、すぐにカオリ節が出て来てしまう。


「邪悪なドラゴンかあ! 妖精界じゃ、とても王道的なラスボスだよ。囚われたお姫様・・・じゃなくてネビロス様。御伽話のような展開ね」


「もう・・・カオリちゃん。ゲームじゃないんだからね」


ぐらたんは軽く笑って見せた。彼女なりに緊張をほぐしてくれているのだろう。




ついに暗雲に潜む邪龍が動きだす。ドルチェル王国に決戦が近づいて来た。

そう、嵐の予感だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る