#14「とりあえず作戦は成功だね!」

レヴィアタンが準備を整えるまで、犬神少女をこの街で釘付けにするんだぜ!




フレークベースグリーンパーク。市内の大きな公園だ。


広い芝生ではスポーツやピクニックを楽しむのが定番だが、北側の奥には花鳥園もあるのでカップルにもうってつけの場所で有名だ。


公園の入口に入ってすぐにある広場の噴水で、船虫はベンチに座ってワゴン販売から買ったチョコバナナクレープを食べていた。


周りには、カップルたちが同じようにワゴンで買ったクレープを食べ歩きしている。




よし、今日はコイツらにしよう!


別にカップルを妬んでいる訳じゃない。私にもジャンプキックが得意でバッタのようなカッコいい彼氏がいたらなと思っただけだ!




広場には噴水を中心としで生垣で隔てられた十字路が続く。カップルたちがそれぞれまっすぐの道を歩いていく。


「恋路か・・・そう単純なもんじゃねーんだな、これが。山あり谷あり壁あり試練あり・・・恋にトラブルは付きものなのさ! よし! 出てきやがれ!! アクムーンビースト!!」


クレープを平らげた船虫はベンチの上に立ち、ビーストを召喚した。大きな黒い球体が2体現れた。


「「あくむーーーーん!!」」




☆☆☆


公園の方角に悲鳴が上がった。男女二人組が数ペア走ってきた。


「魔物が出たぞー! 逃げろ!!」


アクムーンビーストが現れたようだ。船虫の仕業に違いない!


「行こう、カオリちゃん!」


「そうね!」


ぐらたんとカオリはイヌガミギアを取り出して頭に被ると、


「「イヌガミライズ! マジカル・・・」」


「イヌガミント!」「イヌガミカン!」


二人は犬神少女に変身した。


「アギャンとウンギャンはトラップのところに!」


「「承知!」」


ミントとミカンは広場の方へ駆けていく。




「あくむーーーーん!」


生垣に追い詰められたカップルに、巨大なダンゴムシ型のアクムーンが迫る。彼氏が彼女を庇う。


「く、くるな~!」


「ミントスラッシュ!」


高速回転する光の盾が、ビーストの硬い甲羅を切り裂く。怯んでいるところ、わってミントが立ちはだかった。


「早く逃げて! あと絶対に手を離しちゃダメだからね!」


彼氏はコクリと頷いて、彼女を連れて逃げていく。


「人の恋路を邪魔する奴は、地獄を味合わせやる!」


ミントはロッドをビーストに向ける。


「へっ! 現れたな犬神少女! かかれ!!」


「あくむーーーーん!」


もう一体ダンゴムシ型のビーストが現れる。




2体以上で来たか!




「テメーらを葬るために贅沢に2体も用意したんだ! やっちまえーーー!!」


ビーストがそれぞれ丸くなると回転しだす。


「よっと」


そして勢いよく転がってくるのをミントはジャンプして避ける。


2体目が十字路別の方向から走ってくる。


「うわ!」


ミントは続けて跳躍して攻撃を回避する。




まずは一体だけを残さないと!




ミントはミントエスカッションを展開して真っ向からビースト一体を受け止めた。エスカッションとビーストがぶつかり合い、火花が飛び散る。


横からもう一体が迫ってくる。


「ミカン!」


ミントが叫んだ直後に生垣から黄色い閃光が飛び出し突き抜ける。


「シトラスカット・ストライク!」


ミントに迫るもう一体のビーストにミカンの一閃が叩き込まれた。ビーストはスッキリとした顔で浄化された。


「はあ!? もうおしまいかよ!」


あっという間に1体が浄化され、船虫はうろたえる。




よしあとは手筈通り・・・




「うりゃあ!!」


ミントはミントエスカッションで掬い上げるように、ビーストを後方へ投げ飛ばした。


しかしビーストは街灯に衝突し、大きく跳ね返る。


「ふぇ!?」


ビーストはそのままミントの頭上を飛び越えて逆方向に転がっていった。


「あ、しまった! まてーーーー!」


ミントは走って、ビーストの後を追いかける。


回り込むために前方へ跳躍したが、思ったよりもビーストの移動速度は速く、ビーストの上に着地してしまう。


「わわわわわわわわわわわわわ!!」


常に回転する足場に合わせて、ビーストの上で駆け足をする。玉乗り状態でビーストとミントは暴走していった。


「ミント!? ちょ、どこいくの!?」


ミカンも後を追いかける。


「お、おい~っ! どこ行きやがる!?」


残された船虫もビーストや犬神少女達を追いかけて、シュッと黒い残像だけが残った。




☆☆☆


フレークベースグリーンパークの更に北。


生い茂る雑木林が広がっている。レジャーで楽しむ人々が賑わう公園内とはうって変わって、ひとけのいない不気味な場所だ。


そこにはポツンと隠れるように廃病院が建っていた。


船虫捕獲のためにアギャンとウンギャンはそこで待ち構えていたのである。


「くるかギャン?」


アギャンはウンギャンに聞いた。


「お嬢様からの連絡を待つギャン。こっちに向かい次第、拘束魔術グレイプニールを起動させるギャン」


病院の前に刻まれた大きな魔法陣。


ウンギャンは魔法陣の隅により、術式が間違っていないか点検する。




☆☆☆


まずい、どうやって止める?




ミントは転がるビーストの上を走っていた。


「どいて、どいて~!!」


次々と歩行者がビックリして道を開け、通り過ぎていく。


「ひひひ、大道芸人になれるんじゃねーか?」


気がつくと、船虫が並走していた。余裕そうに走っている。


「キサマ!!」


ミントは呪文を唱えようとしたが、


「させねーよ! アクムーン・・・・・・どあっ!!?」


こちらを向きながら指示を出そうとしていた船虫は電柱にぶつかった。


ジャストミートするようなスカッとする音がミントの耳に届いた。


かなりの速度だ。ひとたまりないだろう。


「ありがた電柱! って、こっちもヤバい!」


ミントも前に向き直ると終点が見えた。進行方向には喫茶店。よくあるチェーン店だ。ガラス張りからコーヒーを飲んでくつろいでいた客がビックリしながらこちらを見て、固まっていた。


いやいや、みんな逃げてーーー!


「イヌガミック・ドライブ!!」


間に合うか!?


「ミント・リフレッシュ・トルネード!!」


真下の暴走するビーストにゼロ距離で呪文を放った。真下に噴き出す光の渦に呑まれてビーストは丸まった状態で光の粒子となって浄化された。


ミントはそのまま前に回転するように投げ出される。逆さを向いた状態でビーストが浄化されたのを見届けた。店に衝突する前になんとか倒すことができた。


「ヨシ!」


ミントはくるんと元の姿勢に戻ると、喫茶店の入口が迫っていた。


「うわああああああああああ! ダメだ!!」


ビーストではなくミント自身が店に突っ込んでしまう。間も無く起こる惨事に目を瞑った。


何も目立った衝撃は起こらない。尻もちをついたのみだ。目を開け、気づいたらミントは会計カウンターの前にペタンと座り込んでいた。振り返ると開いた自動ドアが閉まっていくのが見える。どうやら突っ込む前にドアが自動的に開いて、ここまで投げ出されてきたようだ。


「い、いらっしゃいませ」


店員に声をかけられるとミントは応答した。


「あ・・・イチゴ丸々たっぷりショートケーキください。お持ち帰りで」


コスプレ少女の魔物退治と突然なダイナミック入店に、一部始終を見ていた客達が一斉に拍手をした。さらに微かにシャッター音も聞こえてくる。


後からようやくミカンが到着した。


「ミント!? 大丈夫?」


「うん。なんとか・・・あの虫は?」


船虫のことを聞き、ミカンはサムズアップしてみせた。


「すっかり伸びきってるよ。とりあえず作戦は成功だね!」


引きずってきたのか、ミカンの後ろで縛られた船虫が目を回して気を失っていた。


描いた通りには行かなかったが結果的に船虫を捕まえることができた。




ネビロス様をさらったことはナベリウスの遺産に気づいているはず。コイツらは何者で・・・一体何を企んでいるのか・・・・・・それはこれからわかることだろう。


しかし、何か忘れているような・・・・・・




気づいたのは、買ったケーキを持って店を後にした時だった。




☆☆☆


「お嬢様、来ないギャン・・・」


「来ないギャン・・・」


アギャン、ウンギャンはひとけの居ない廃病院の前で途方に暮れていた。

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