#13「船虫捕獲作戦を立てちゃうぞ」

これは夢か・・・レインボーバブル最北端、バニラホワイト雪原の真ん中。いつのまにか故郷に帰ってきていた。


自分が育った孤児院を目指して真っ白な世界を歩いていく。


しかし、孤児院が見当たらない。確かにここにあるはずなのに・・・


「ポラリス先生・・・・・・アイ先生・・・ユーリ、カイト、ニコ・・・」


みんな、どこにいってしまったんだ?




後ろを振り返ると、長い黒髪の長身の青年が立っていた。


「あ、アンタは? ・・・誰なんだ?」


青年が口を開いたところで、ネビロスは夢から目覚めた。


「・・・!? あの夢は」


ネビロスは頭を抑える。




ドルチェル王城の国宝・・・


夢から覚める直前、あの男から発した言葉だ。あいつは一体・・・




「ほう、ドルチェル王国の城に何かあるというのか・・・」


横でレヴィアタンは水晶玉に閉じ込められたネビロスを眺めていた。


「分からない・・・」


ネビロスは俯く。あの城が意味しているのが何なのか。


「ソナタには分からなくとも夢の中で無意識なうちに深く埋もれた記憶が浮上してくる。それを釣り上げて、つなぎ合わせていけば、秘術が何なのかわかるかも知れん。ぬふふふ、ドルチェルには悪いが、戦の準備をするとしよう」


レヴィアタンは金色の目を細める。


「ただいま・・・」


その時、フロアの入口から船虫が帰ってきた。ず~んと沈んだ暗い表情している。


「どうした、船虫?」


彼女はうるうるとした目で答えた。


「またしても失敗・・・しかも犬神少女が増えた。タマモ様に殺されちまう・・・」


「ふむ・・・・・・新たな犬神少女か」


邪龍は船虫からの報告で、考え込む。


「・・・敵の戦力が増えたか。ここは城攻めの準備を早めねばな・・・」


「あん?」


「船虫よ、この少年から手がかりを得た。ドルチェル王城に秘術に関する何かがあるやも知れん。妾もそろそろ動く時がきたのじゃ」


その言葉を聞き、船虫は涙が止まり目と口を丸くした。


「え!? ホントかよ!! 確証はあるのか?」


「むーん。確かとは言い難いが、確かめずにはいられん! それにドルチェルを墜とせば、たくさん人々を恐怖に陥れて大量のマナも回収できよう。ソナタも来てもらうぞ、少年。ソナタが何か思い出すやも知れんからな」


ネビロスは無言のまま。額から一筋の汗が流れてくる。


「よっしゃー! レヴィアタンが参戦すれば、心強え~ぜ!」


「ソナタまた行くのか?」


船虫は頷く。


「そうか・・・・・・妾は攻める準備をする。ソナタは・・・時間稼ぎでもしておれ!」


「あいよ!!」


船虫は通路の闇の中へと消えてく。邪龍は彼女が出ていくところを見送るのだった。


「ぬふふふふ・・・。祭りの準備をはじめるとするか」




☆☆☆


マンションを出たぐらたんたちはカオリに連れられてファーストフード店に足を運んだ。ジャンクフードは初めてだったりする。


ぐらたんはフライドチキンとトマト、レタスをサンドしたバーガーを口に運ぶ。カオリはチーズバーガーに齧り付く。




味は美味しいが、食べてるバンズやチキンにパサつき感が目立つ。食べ物であるのは間違いないが、何かこう・・・人の手で作った料理の感じがしない。




飲み物のイチゴミルクで流し込む。




ファーストフードを味わっているうちに、カオリはぐらたんに話しかけてきた。


「ぐらたんって、さあ?」


「ん?」


ぐらたんはストローでイチゴミルクを吸ったまま、視線をカオリの方に向ける。


「彼氏いる?」


「ぶふーーー!!」


突然の単語が耳に入り、ぐらたんはストローからイチゴミルクを逆流させた。


「んな、な、なんで・・・そんなことを!!?」


横でアギャンとウンギャンは目を細め、ニヤニヤとぐらたんを見つめる。


「え~と。学校での戦いで、ぐらたんがピンチの時に「ネビロス様」って言ってたから・・・?」


「あ、あはは・・・」


顔が真っ赤になり、エメラルドの目が泳ぐ。アギャンとウンギャンに目を合わせるものの、2匹はニッコリと黙ったまま。




助けてほしい。




「ネビロス様は!! ・・・・・・ほら・・・私の!! ・・・あくまで! 私のマスターだから!! 死神と使い魔! の!! 関係だから」


手があれやこれやと、ぐらたんは忙しくジェスチャーする。その様を楽しそうにカオリが眺めていた。


「へえ~~! 興味あるなあ!! ん!? 使い魔? え、ぐらたんって!?」


「ああああ、えーと・・・冥界の死神庁登録の使い魔だよ。ネビロス様と一緒に魂の回収をしているの」


ぐらたんは席を立って、カオリの隣に駆け寄ると耳元で小声で答えた。


「カオリちゃんがクー・シーであるように私は冥界から来たヘルハウンドなんだ・・・」


表向きはそうだ。本当のことは言えない。


「へえー、なにそれ! かっこいい!! じゃあ、私たちだけの秘密だね。それよりも、ぐらたんが気になるネビロス様ってどんな人なんだろう・・・」


「わふん! それはね!! とてもクールでね! 仕事では、死に損ないの悪霊どもをカッコよく大鎌でバッサバッサ♪ それでね、喫茶店では、ネビロス様の作るお菓子はとても美味しいんだ!! お菓子を作るのが上手なの!!」


両手で頬を抑えて、主のことを語るぐらたん。カオリはニッコリとした顔で話を聞いていた。


「あ・・・そろそろ本題に入ろうか・・・・・・」


我に返ったぐらたんは今後の話をしようすとする。


「え~、もっと聞きたいのになあー」


カオリは恋バナを所望しているが肝心のネビロスがいなくてはこれ以降の発展は無い。そんなわけで、彼の救出作戦を立てるのだ。


「あの虫が今度現れたら、今度こそネビロス様の居場所を聞き出すんだ! というわけで、船虫捕獲作戦を立てちゃうぞ」


「はーい!」


カオリが手を挙げる。


「何? カオリちゃん」


「船虫って、あのアクムーンっていう魔物を使役してる死神の子だよね。あの子の能力って?」


「私の戦闘経験から、あの虫の戦闘能力は不明。しかし、あの虫の脅威と言えるものとは、圧倒的な逃げ足! いつもアクムーンビーストを倒して追い詰めたところで、逃げられるのだ!」


ぐらたんは紙を広げて、船虫の特徴をペンで描く。


「お嬢様! 真っ先に船虫を集中攻撃するのはどうでしょう」


アギャンが身を乗り出し、ミントとミカン、そしてその二人から船虫に矢印を結ぶ絵を描き加えた。


「ウーン、でもあの目にも留まらない素早さで、攻撃を当てることができるかギャン。 スペック的にもさすがにイヌガミカンのスピードでは不可能だギャン。こっちの戦力が増えたのはいいけど、相手も戦力を増強する可能性だって・・・。ここは罠を」


腕を組んでウンギャンが答えた。


「トラップかあ~。 こーゆーのどうかな? 巨大捕獲シート!!」


カオリは紙に粘着する足場に引っかかる船虫を描き加えた。ぐらたんとアギャン、ウンギャンはその絵を見てプッと笑う。


「罠にかけるとしたら、どうやって誘導させるか・・・。そーだ、戦いながらアクムーンビースト誘導させよう! それならあの虫も自然とついて来るはず。 これで行こう! カオリちゃん、この街で袋小路とか人がいなさそうな場所は知ってる?」


うまく行くかはやってみなければ分からない。こうして船虫を捕える作戦が練られていった。


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