#12「ねーちゃん。お願いがあるんだ」

「プハー! 食った食った!! 生き返ったぜえ!! オメー、車椅子なのに良くやるなー! スゲ〜じゃねーか」


ハルキが作ったオムライスを平らげた黒装束の少女はソファーにダラシなくもたれかかる。


「・・・。別に。ハンデーなんかにはなってないさ。食ったなら帰ってくれよ」


ムスッとした様子で、少女を見るハルキ。皿を集めて食器洗い機に入れる。


「ワリーな。そんなつもりでいったんじゃねーんだわ・・・・・・。お!? ヘビメタファじゃねーか」


ソファーに横たわると、ホロスクリーンテレビプロジェクターの隣に置いてあるゲーム機の上に知っているソフトが置いてあるのに目がいった。


「知ってるのか!」


食いつくように、ハルキはキッチンから車椅子を走らせて来た。


「おーよ。カーボンちゃんをよく使ってるぜ」


ハルキの態度は一変した。


「対戦するか?」


「いいぜ! そーいや名前言ってなかったな。アタシは船虫ってーんだ」


ハルキはゲーム機を起動させる。アーケード用コントローラーを準備した。


「俺はハルキ。後悔するなよ? ギッタンギッタンに叩き潰してやるぜ」


ハルキには、狩人のようなギラついた目に変わっていた。船虫はこの後地獄を見ることになる。




☆☆☆


「フ・・・。中の上ってところだね。船虫」


何回戦したかわからない。ハルキの操るビートアイアンからは一本も取れない。船虫はアケコンのスティックを握ったまま凍りついていた。


「おま・・・・・・一体何もんなんだよ」


「名乗るほどでもないさ・・・。公式戦に来るのなら会うこともあるだろうさ」


「クソ・・・! やられっぱなしで帰れるかってーんだ。ぶっとばす!」


「返り討ちにしてやる! ははは」


「なんだよ?」


「いや、こーやって赤の他人と肩を並べてゲームするのは楽しくてね・・・」


「そーかい」


「いつも一人か、ねーちゃんと対戦してたからな。俺がもっと一人でできれば、ねーちゃんも自由に・・・」


「あん? よくわかんね〜が、オメーは十分にできてんじゃねーか? 考えすぎだぜ。ねーちゃんってのも別にオメーに囚われてるわけじゃない、単にオメーにしたくて手助けしてるんじゃねーかい? 気にするなよー。家族だろ? 唯一迷惑かけれるのが家族ってものさ」


「そーかな・・・」


船虫に押され始める。クリスティーナ・カーボンのコンボが見切れなくなって来た。船虫に動きがよまれて来たようだ。




自分自身も自主的にリハビリを頑張ってる。


今はそれでいいじゃないか。




「・・・そうだな。少し頭が軽くなったよ」


「ああん!!?」


押され気味だったが、まだまだ負けていられない。再び隙をついて、一方的なコンボが炸裂した。


流れはハルキに戻った。超必殺コマンドを叩き込んだ。




K.O.!!




ゲームの勝敗演出が起こると同時に、船虫は盛大にひっくりかえる。


「ちくしょーー!! つええ! 勝てる気がしねーな。まあ、いい暇つぶしになったぜ」


「俺も、いい息抜きになった」


「へ、邪魔したな・・・。じゃあ、そろそろおいとまするぜ! あばよ!!」


船虫は立ち上がると、


その時玄関の扉が開く音がした。


「ただいまー!! ハルキ、今帰ったよ? ちょっとお友達上げるけどいいかな?」


「おかえり、ねーちゃん。いいよ、どーぞ」


ハルキは振り向く。


カオリがリビングにはいってくると、


ハルキ以外、全員驚愕するのであった。


「げ!!? オメーらは!!」「キミは!!」「お前は!!?」


後から上がり込んだ、ぐらたんが叫ぶ。


「虫め! どーしてここに!?」


船虫はチッと舌打ちした。


「船虫?」


状況がわからない、ハルキは振り向く。


船虫は咄嗟に、ハルキを羽交締めにして後退して、ハルキの部屋に下がる。


小声で船虫はハルキに囁く。


「ワリーな、少し付き合えや」


「え!?」


まだわからないうちに、船虫は大鎌を取り出し、ハルキの喉元に突きつける。


「おっと動くなよーー!! まさか、犬神少女の部屋だったとは知らなかったぜ!! 今度から犬神少女って玄関口に書いておけ」


「ハルキ!! ハルキを放しなさい!」


後を追いかけて来たカオリは叫ぶ。


「ひひひ、離せって言われて離すマヌケはいねーぜ。ワリーがお前の弟の命は預かった!! 出て来やがれアクムーンビースト」


紫色の光が部屋に広がる。


「く・・・」「しまった」


カオリとぐらたんは腕で顔を覆った。


光が収まると、ベランダの外に大きな蛾のビーストがホバリングをしている。


背中には、船虫とハルキがいる。


「返して欲しければ屋上まで来るんだなぁ」


ビーストは上へ飛び去っていった。


「なんてこと・・・」


カオリは拳を握りしめる。その横でぐらたんは声をかけた。


「カオリちゃん! 戦おう!!」


「ええ! ウンギャン、お願い!」


「承知!」


カオリは手を差し出すと、ウンギャンはイヌガミギアを渡した。


「行くよ! ぐらたん!! ハルキを助ける! イヌガミライズ! マジカル・イヌガミカン!」


続いて、ぐらたんも変身する。


「イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!」


二人は犬神少女に変身して、船虫の後を追った。




☆☆☆


蛾のビーストはマンションの屋上に降り立つ。


その後に、船虫はハルキを降ろした。


「ねーちゃんが・・・あの魔法少女? 船虫、お前は一体?」


鎌を担ぎなおした船虫は振り返る。


「あん? なんつーか、敵だよ・・・。巻き込んじまってワリーな」


そしてまもなく、ミカンとミントが下の階から屋上まで、跳び上がって来た。


「船虫! ハルキを返してもらうよ!!」


「やってみな! 行け! アクムーンビースト!!」


蛾のビーストは羽ばたき、突風を吹き起こす。


「くっ・・・」


飛ばされないように身構える。


「ミントエスカッション!!」


ミントはミカンの前に立ちはだかり突風を防ぐ。


「ありがとう。ミカンイリュージョン!」


ミントの作り出す光の盾の裏からミカンが飛び出す。


「はあ!!」


ビーストに向かって斬りかかろうとする。


「ばかめ! 無防備だぜ! やれ!!」


「あくむーーーん」


ビーストは翼から、細かい棘の鱗粉を発射する。


トゲの群れがミカンを襲う。


「ね、ねーちゃん!!」


ハルキは叫ぶ。


手ごたえはあった。船虫はニヤっとするが、攻撃を受けたミカンは光る葉っぱをまき散らして霧散した。


「そっちは囮!!」


ビーストの左側に斬撃をするミカンの姿があった。


「あく!?」


ビーストの腹部を切り裂いた。ビーストは床に倒れる。


体制を立て直して飛びあがろうとするが、


「ミント・スラッシュ!!」


ミントが放つ光刃により、ビーストの左右の翼が切断された。


ビーストはひっくり返ったまま。床をジタバタする。


「再生する前に決めちゃう!! イヌガミック・ドライブ!」


神通力を増幅させ、ミカンのドレスの各所が黄色く発光する。


「シトラスカット・ストライク!」


ミカンはシトラスブレイドで斬り上げる。


斬り上げられたビーストはスッキリとした表情で光の粒子となって消滅した。


「くっ・・・格ゲーでも負けっぱなしで、こっちも負けっぱなし・・・・・・くう~、覚えてろーーー!!」


船虫は屋上から飛び降り、消え去った。


呆然とハルキは、犬神少女たちを見る。


「ハルキ、良かった! 怪我はない?」


ミカンはハルキのそばでかがみ込む。


「うん。ゲームじゃ味わえないスリルだった。それにしてもねーちゃんが魔女少女だったなんて」


「犬神少女イヌガミカン! おねーちゃんが来たからには大丈夫!!」


そしてまもなく、ミカンからどっと涙が溢れた。ハルキを抱きしめる。


「良かった・・・。本当に!」


「ねーちゃん!! 大丈夫だって・・・ほら、お仲間さんも見てるから」


ミントとアギャン、ウンギャンは静かに、姉弟を見守るのであった。




きょうだいか・・・。私にはいないから、ちょっと羨ましいかな。




ミントはミカンとハルキを見て微笑む。




「カッケーな、ねーちゃん。お願いがあるんだ・・・。ねーちゃんのやるべきことやりなよ」


ミカンはハルキから離れる。


「そんな、ハルキを一人には・・・」


ハルキはミカンの頭に手を乗せる。


「ありがとう、俺は大丈夫だよ。もちろん一人で歩くことは諦めない! ねーちゃんも世界を救うスゲー役目を果たしてくれ。どんなに離れてても俺たちは姉弟さ。最高のおねえちゃんだ」


ミカンはハルキの手を握りしめる。


「うん! 私頑張るよ!! おねーちゃんに任せてね!!」


ミカンはミントたちに振り向く。


「ミント、アギャンとウンギャン! 私も戦うわ。改めてよろしくね」


「うん! ありがとう、ミカン!!」


ハルキもミントの方を向く。


「あ・・・えっと、俺、ハルキ。こんな、大雑把で猪突猛進なねーちゃんを、どうかよろしく」


「あ、うん。私はぐらたん。おねーちゃん、お借りするね」


「私はアギャン!」「某はウンギャン!」


「もう! 私がなんだか妹みたいじゃない!! ・・・さあ、お腹すいたし、ご飯にしよう!! ハルキ、おねーちゃんの背中に!」


「う、うん。おんぶはやめてくんないかな・・・・・・」


「じゃあ、お姫様抱っこ☆」


「・・・・・・」




こうして、イヌガミカンもといカオリが仲間に加わったのであった。

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